例年、10月第3週末は三軒茶屋で『三茶de大道芸』が開催され、それに合わせて 世田谷パブリックシアター でコンテンポラリー・サーカスの海外カンパニー招聘公演が催されます [去年の鑑賞メモ]。 しかし、今年はCOVID-19対策のため公演は中止、 大道芸も劇場を使った「大道芸onステージ」とその配信となってしまいました。 初めて足を運んだ2000年以来、『三茶de大道芸』やそれに合わせてのコンテンポラリー・サーカス公演を楽しみにしてきたので、大変残念です。 しかし、公演中止の代わりに公演を予定していた作品の映像上映会が開催されたので、それを観てきました。
Cie Oktobre は2014年に Eva Ordonez, Yann Frisch, Johathan Frau によって設立された フランスを拠点とするコンテンポラリー・サーカスのカンパニーです。 2018年の Midnight Sun はカンパニーとして2作目、 創設者の一人が Ordonez が、フランスのサーカス・アーティスト Florent Bergal の演出で作った作品で、 ドイツ表現主義演劇、Pedro Almodóvar や Alfred Hitchcock の映画などがイメージの着想源のようです。
中央に2人掛けソファ、その上手隣りに1人掛けソファ、下手の袖にピアノが一台。 背景は淡いシャンパンゴールドのドレープカーテンがかかり、天井からはシャンデリアが下がっているという、 ゴージャスな邸宅の客間という雰囲気から始まります。 中盤で、このシャンパンゴールドのカーテンが落ちて赤のベルベットのカーテンに背景が替わり夜のラウンジのようになります。 そしてラストはカーテンも失われ、闇の背景になります。 そんな背景の変化に合わせるかのように、女性パフォーマーも、白い昼の衣装から、赤のナイトドレスに、ラストは黒のナイトドレスに変わっていきます。 白から赤の変化は、女性の衣装変わりとカーテンを落とすタイミングを合わせて、ドラマチックに演出していたのが印象に残りました。
身体な演技の使い方は、視覚的もしくは物語的な枠組みの中でスリリングな技を見せる舞台というより、 明確な物語は無いもののサーカステクニックも使ったフィジカルシアターのよう。 ラスト近くの、シャンデリアの中に仕込んだトラベースを使った空中ダンスは、流石に見せ場を作ったように感じられました。 しかし、ソファ周りでの軟体アクロバットがかった動きや、人を振り回すような動きが多用され、 例えば、自転車アクロバットやツボを使ったフットジャグリングにしても、 高度な技の見せ場をほとんど作らず、むしろダンサーとの絡みを見せるようでした。
映像は客席後方から舞台を正面から全体を捉える固定カメラで撮影したもので、 技によってパフォーマーをクローズアップすることはありませんでした。 パフォーマーの表情が読み取れないような画質で、多くないもののの時折あるセリフには字幕はありませんでした。 そんなこともあり、登場人物の内面的な機微や物語的な要素は捉え難いものがありました。 こうして映像を観られただけでもありがたいのですが、 生だったら、もしくはせめて Met Opera Live、 Royal Opera House cinema や National Theatre Live くらいの映像だったら、 表現の繊細な部分や舞台のゴージャスで退廃的な雰囲気も楽しめたかもしれないと、 映像を観て少々物足りなく感じてしまいました。