TFJ's Sidewalk Cafe > Dustbin Of History >
Review: 『生誕100年 石元泰博写真展 伝統と近代』 @ 東京オペラシティ アートギャラリー (写真展); 『生誕100年 石元泰博写真展 生命体としての都市』 @ 東京都写真美術館 (写真展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2020/11/03
Ishimoto Yasuhiro Centennial: Tradition and Modernity
東京オペラシティ アートギャラリー
2020/10/10-2020/12/20 (月休;月祝開,翌火休). 11:00-19:00.
Ishimoto Yasuhiro Centennial: The City Brought To Life
東京都写真美術館 2F
2020/09/29-2020/11/23 (月休;月祝開,翌平日休). 10:00-18:00.

アメリカ・カルフォルニア生まれで高知に育ち、1939年以降アメリカに移住し、 László Moholy-Nagy がシカゴに開校した New Bauhaus こと Chicago Institute of Design で戦後間もなく頃に学び、 1953年の再来日後、日本を拠点に活動した写真家 石元 泰博 の生誕100年を記念した回顧展が、都内の2つの美術館を会場に開催されています。 辻 彩子、大辻 清司 と制作た実験映画『キネカリグラフ (Kine Calligraph)』 (1955) など 大辻 清司 [鑑賞メモ] との仕事や、 近代建築や桂離宮などの建築写真などの仕事で知られ、写真を観る機会はそれなりにありましたが、 シカゴ時代の1950年代から、21世紀に入ってからの「シブヤ、シブヤ」のような晩年の作品まで、 まとめて観るのは初めて。

東京オペラシティアートギャラリーの展示が石元泰博フォトセンターのコレクションを主、 東京都写真美術館の展示は東京都写真美術館のコレクションを主としていますが、 近代建築や桂離宮、伊勢神宮などの建築写真や、シカゴや東京の街中や工場などを造形を強調するように撮った写真が東京オペラシティ アートギャラリーの方に集められ、 晩年の「シブヤ、シブヤ」をはじめ、シカゴや東京の街中の写真も人々を捉えたような写真は、 東京都写真美術館の方に集められていました。 実験的な作風のものは、最初期のフォトグラムのような実験写真や Kine Calligraph は東京オペラシティ アートギャラリー、 ライフワーク的な多重露光の作品は東京都写真美術館にありました。

大辻 清司 経由で知った写真家ということもあり造形的な作風という印象が強く、 東京都写真美術館の展示で造形的に限らない作風の多面性に気付かされる興味深さがありました。 しかし、やはり、造形的な画面が際立つ、東京オペラシティ アートギャラリーの方の作風が好みでした。 シカゴの薄く雪をかぶった路駐の車を同じ構図で捉えた「雪と車」シリーズ (1948-52) など Becher のタイポロジーを思わせますし、 工場や道路を即物的に捉えた「日本の産業」シリーズ (1963) も印象に残りました。 建築写真は今までも目にする機会が少なくなかったのですが、造形的だけでなく構図の巧みさ、 特に手前に大きく視野を阻む構造を捉え、その合間から向こうの被写体を的確に収める構図が、 単にフラットに捉えるというのではない奥行き感を作り出していました。

最初期シカゴ時代のフォトグラムなどの実験写真は、流石 László Moholy-Nagy 直系と思わせる一方、 これが、後に 大辻 清司 等に合流しての Kine Calligraph へ、 さらに「色とかたち」シリーズとなるのかと。 銀塩の写真と並べると少々異質ですが、「色とかたち」では、多重露光を駆使して、 抽象表現主義を思わせる鮮やかな色の抽象的な画面を作り出していました。

東京都写真美術館3Fでは、 『TOPコレクション 琉球弧の写真』 (2020/09/29-11/23)。 新規収蔵作品を中心とした沖縄の写真家の特集。画面の造形的な面白さより撮影対象の比重が重めの写真が集められていました。

B1Fでは、 『写真新世紀展2020』 (2020/10/17-11/15)。 好みの作家に出会えれば、という感じで毎年定点観測していますが、今年もピンとくるものに出会えず。 近年はすっかり現代アート的なコンセプチャルな作風がトレンドになっていますが、画面の造形的な面白さという面が後退し過ぎてしまっているようで、掴みに欠けるようです。