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Review: René Clair (dir.): La Proie du vent (『風の餌食』) (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2020/11/23

毎年恒例の国立映画アーカイブのサイレント映画の上映企画 『サイレントシネマ・デイズ2020』。 今年は 柳下 美恵 によるピアノ生伴奏でこのサイレント映画上映を観てきました。

La Proie du vent
1927 / Films Albatros (France) / 104 min. / 35mm 1.33:1 16fps / B+W / silent
Réalisation: René Clair
Scénario: René Clair le roman L'Aventure amoureuse de Pierre Vignal d'Armand Mercier
Charles Vanel (Pierre Vignal), Lillian Hall-Davis (Elisabeth, la châtelaine), Sandra Milowanoff (Hélène, la soeur d'Elisabeth), Jean Mura (le mari d'Hélène), Jim Gérald (docteur Massaski, le médecin), etc

サイレント期の René Clair の映画というと、 Entr'acte 『幕間』 (1924) や Paris qui dort 『眠るパリ』 (1925) のような Avant-Garde 色濃い実験的な作品の印象が強いのですが、 この映画はその後に制作された実験色を抑えた物語映画です。

時代は第一次世界大戦後。主人公の冒険飛行士 Pierre Vignal はパリからモスクワへの航空路開拓中に 中欧スロバキアの城館近くの森に不時着、城館の女主人である伯爵夫人 Elisabeth の手当てを受けます。 その Pierre と Elisabeth の間のロマンスを、城館に幽閉された妹 Hélène とその夫を交え、 少々ミステリー的かつアクションの要素もあるメロドラマとして描いています。 Elisabeth の一族はバルカンの架空の小国 Libanie [Libania] の貴族で、 クーデターで Elisabeth は夫を失い、追われて亡命生活し、 妹 Hélène はクーデター時に逮捕投獄された結果錯乱してしまったという設定は、 この映画を制作した Albatros がプランスの白系ロシア人の映画会社で、彼らにとってリアルなものだったのかもしれません。

Pierre が Elisabeth に好意を寄せるようになるも、その義弟の間の関係を疑ううち、幽閉された Hélène と出会います。 錯乱しているとは知らずに Hélène の妄想に振り回され、2人で城館を自動車で脱走するものの失敗し、彼女を事故死させてしまい、彼女たちの真実を知ることになります。 Hélène の死を契機に Elisabeth と義弟は母国に戦いに戻る決心をし、Pierre も Elisabeth への未練を残しつつパリに戻りますが、 最後はパリで再会して結ばれる、という、三角関係の交錯するメロドラマです。 特に、Elisabeth と義弟が関係しているのではないかと嫉妬する場面での妄想イメージの映像化など、 セクシーかつスタイリッシュで、流石、Clair。 亡命貴族の城館暮らしということで、モダンな意匠に溢れているわけではないですが、ファッションもアール・デコ期で、お洒落です。

しかし、一番の見所は、 不時着時を含む空撮映像や Hélène の事故死の場面を含むカーチェイスの映像など、スリリングな映像表現でしょう。 飛行機や自動車を使っているということも含め、当時としてはモダンというか斬新な表現だったのでしょう。 偶然、前日に『星の王子さま』 (Antoine de Saint-Exupéry: Le Petit Prince, 1943) を舞台化した作品を観たばかり、 図らずしも、不時着した飛行士の物語を続けて観ることになりました。 一方は子供の心を呼び起こす寓話、もう一方は大人向けメロドラマと、ある意味対照的ですが、 戦間期、飛行士の不時着という状況は想像を掻き立てられるものがあったのだろうなあ、と。