フランス出身のダンサー・振付家・歌手の François Chaignaud と美術作家・音楽家 Nino Laisné による舞台作品です。 彼らのバックグラウンドについてよく知っていたわけではありませんが、 歌唱、音楽と舞踊を対等に扱う音楽舞踊劇 (opera-ballet) という興味もあって、足を運ぶことにしました。 確かに、4人の楽器奏者が生演奏する音楽に合わせて歌い踊る Chaignaud も見応えありましたが、 Chaignaud が出ていない幕間での演奏もあり、器楽コンサートとしても楽しめた舞台でした。
ミュージシャンは4名。舞台向かって左手から、theorbé 等の Daniel Zapico (Winter & Winter レーベル専属のアンサンブル Forma Antiqva で知られる) と viole de gambe 等の François Joubert-Caillet という、バロック音楽に特徴的な楽器の演奏者。 さらに右手へ frame drums の Pere Olivé と、tango で使われる bandoneon の Jean-Baptiste Henry の2人を加えたことで、 通常の古楽アンサンブルからアップデートされていました。 16世紀以降の民俗音楽 (flamenco や jota) を含むスペインの音楽に基づいているとのことですが、それに tango の要素を加えています。 バロック音楽や民俗音楽と室内楽的な jazz の融合というのはヨーロッパでは少なく無く、 第2幕と第3幕の幕間での folía では Michel Godard らもよく演奏する Gianluigi Trovesi の “C’era una strega c'era una fata” (この曲は folía に基づいている) を思わせるような展開も聴かせ、そんな音楽を連想もしました。 しかし、jazz ではなく tango というか bandoneon をバロック音楽や民俗音楽を融合してアップデートする音として持ってきていた所が新鮮に感じられました。
彼らの演奏による音楽に最も引き込まれたのも確かですが、歌い踊る Chaignaud も素晴らしかったです。 Virginia Woolf による時と性別を超えて旅する主人公の小説 Orlando (1928) を承けた内容で、 第1幕では男装の少女戦士 (Doncella guerrera) を、第2幕では San Miguel (聖ミカエル) を、 そして第3幕ではアンダルシアのジプシー La Tarara という、両性具有的なキャラクターを Chaignaud を演じ踊り歌います。 音楽同様、ダンスも民俗舞踊 (jota や flamenco) や tango の要素を取り入れたもの。 第1幕こそ普通に踊っている感もありまたが、 ポスターにもなっていた第2幕の San Miguel 姿での高足 (zanco, stilt) を履いてのダンスも、 ballet で言う chaîné (chaines turns) のようにくるくると回り踊ったり、片足を高く蹴り上げたり。 確かに高足で激しく踊るカンパニーもありますが、大道芸などでは多くは回遊芸程度なので、ここまでがっつり踊るとは期待していませんでした。 その後の第2幕後半も、高足を脱いだあとも pointe shoes で踊りましたし、 第3幕では、十数センチはあろうハイヒールで flamenco 様な動きも含め踊りまくりました。 作品コンセプトの両性具有的なイメージというより、そんな高技巧の踊りに目が行ってしまいました。
舞台美術としては、4人の演奏者の背景になるような形で、バロック風の絵画が4枚掲げられていました。 ライティングを変えるだけなく高さを変えたりもしていました。 そこに描かれていたのはおそらく演じられたキャラクターに関連するものだと推測されるのですが、 その寓意を読み取ることが出来ませんでした。
COVID-19パンデミックの影響で今年3月から海外アーティストの来日公演が壊滅状態。 海外アーティストの参加した公演は、2月頭に観た Sue Healey から、実に10ヶ月ぶりでした。 しかし、入国後2週間隔離等の都合で公演が当初の予定から1週間延期され、公演回数も彩の国では1回だけになってしまいました。 11月以降感染者数が増加傾向となり第3波に入ってしまい、どうなることかと思っていました。 無事に公演を観ることができて、感慨もひとしおでした。