TFJ's Sidewalk Cafe > Dustbin Of History >
Review: 『アニメーションの神様、その美しき世界 Vol.2&3 川本喜八郎、岡本忠成監督特集上映』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2021/05/16
提供: WOWOWプラス; 配給: チャイルド・フィルム.
Aプログラム=川本喜八郎5作品 (合計80分, 4K修復版, 2K上映): 『花折り』 (川本プロダクション, 1968, 14分), 『鬼』 (川本プロダクション, 1972, 8分), 『詩人の生涯』 (川本プロダクション, 1974, 19分), 『道成寺』 (川本プロダクション, 1976, 19分), 『火宅』 (川本プロダクション, 1979, 19分).
Bプログラム=岡本忠成5作品 (合計78分, 4K修復版, 2K上映): 『チコタン ぼくのおよめさん』 (学習研究社/エコー, 1971, 11分), 『サクラより 愛をのせて』 (エコー, 1976, 3分), 『虹に向って』 (エコー, 1977, 18分), 『注文の多い料理店』 (桜映画社/エコー, 1991, 19分), 『おこんじょうるり』 (エコー, 1982, 26分).

1960年代末から活動した日本のストップモーション・アニメーション作家2名の特集上映です。 それぞれ4Kでデジタル修復された5作品ずつが上映されています。

1960sにチェコの Jiří Trnka に師事したことで知られる川本は、 文楽などの影響を感じる人形を用い日本の古典に基づく作品で知られますが、 そんな中、異色だったのは安部公房の小説をベースとしたドローイングのアニメーション『詩人の生涯』。 工場経営するブルジョアと闘うプロレタリア詩人の話ですが、 それにに合った錆色の沈鬱な絵を用い、しかし、リアリズムではなくむしろ幻想的に仕上げています。 こういう作風にも取り組んでいたのかと新鮮に感じました。 しかし、やはり良いのは、能狂言や仏教説話に基づく人形アニメーション。 壬生狂言に基づく『花折り』の滑稽さも良いのですが、 能にもなった安珍・清姫伝説に基づく『道成寺』の 日本画を背景に用いつつ人形をダイナミックに動かす巧みさ、 能『求塚』に基づく『火宅』の夢幻能の枠組みも活かした幻想的な映像。 そして、能や説話由来と思われる仏教的な人間の業を通して、不条理を描くような凄みに圧倒されました。

一方の岡本は、ドローイングのアニメーションも多く、 現代的なユーモアや感傷を感じさせる作風で、かなりとっつきやすく感じました。 宮沢賢治の小説に基づくセル・アニメーション『注文の多い料理店』など、 マンガ的な絵柄ではないものの、それに近いアニメーションとして楽しめました。 しかし、やはり、人形アニメーションの『虹に向かって』や『おこんじょうるり』が魅力的でした。 2作とも古典に基づくものではないものの、江戸時代の日本を舞台とした物語で、 人形の造形も川本に比べて可愛らしさを感じさせます。 川本の人形アニメーションに感じられる中世の能や説話のような仏教的な要素は無く、 むしろ、近世以降らしい世俗的な人情話のような物語の進め方にホロリとさせられました。

この2人については、3月に国立映画アーカイブで 『川本喜八郎+岡本忠成 パペットアニメーショウ2020』 という展覧会を観ましたが [鑑賞メモ]、 その時に観てあまりピンと来なかった人形の造形も、アニメーションになったものを見ると、やはり「命を吹き込まれた」かのような良さを感じました。 改めて展示を見直してみたくなった、というか、やはり、この上映を観てから展覧会を観たかったものです。