国立劇場による、ジャンル、表現の文脈を越えたコラボレーションの企画です。 このようなコラボレーション以前、通常のフォーマットでの能・狂言や歌舞伎、文楽を観てきているわけではないですが、 企画に興味を引かれて観てきました。
前半の『変化(へんげ)と人間と ―羽衣伝説―』は、歌舞伎俳優の中村雀右衛門が 文楽の人形と共演というのもの。 それも、能『羽衣』に基づく台本で、合わせる音楽は雅楽の様式。 中世の能、近世の歌舞伎と文楽、古代の雅楽を、「羽衣伝説」をたよりとしてつなぐような企画でしょうか。 台本は、能『羽衣』の話を「羽衣伝説」の後日談、母子の出会いとして描くようなものでしたが、 歌舞伎俳優と人形ががっつり組むというより、むしろ距離を置くことでその想いを表現するようでした。
後半の『Bridge』は、コンテンポラリーダンス (Co.山田うん) と、声明 (仏教の声楽) の共演。 声明を伴奏音楽にダンスを踊るという以上、声明を唱える僧侶も花道を使ったり舞台前面に出てきたりと動きもあり、ダンスと同等、むしろ、それ以上の存在感があったでしょうか。 声明は二箇法用付中曲理趣三昧の形式を用い、金剛歌菩薩(声明)と金剛舞菩薩(舞踊)が大日如来を供養讃歎するという想定だったそうなのですが、 ダンスはその内容を表現するというより、むしろ、声を抽象的に捉えて、フォーメーションも生かした群舞に仕立てたよう。 ハイライトは百字偈等の迫力のある声のリズムに合わせた湧き上がるようなダンスだったでしょうか。 十分に楽しんだのですが、 ベルギーのダンスカンパニー Rosas が古楽声楽アンサンブル graindelavoix と共演した Cesena [鑑賞メモ] で見たような分かりやすい役割分担や衣装等の区別の無い渾然一体感を、 このような共演で作り出すことのハードルの高さも実感してしまいました。