ギリシャ悲劇の Medea の2014年の National Theatre のプロダクションです。 タイトル役が Harry Potter シリーズの Narcissa Malfoy 役で知られる Helen McCrory で、 4月に亡くなった彼女の追悼企画という意味合いもあって、National Theatre Live での日本上映となりました。 といっても、彼女の出演作を今までよく観ていたわけではなく、演出家などのバックグラウンドもよく知らなかったのですが、 現代的な演出でギリシャ悲劇の上演を観ておく良い機会と、観て観ました。 ちなみに Medea 翻案の上演は、 以前に一度観たことはあります。
舞台を現代に置き換え、恋人に裏切られ孤立し追い詰められて我が子を殺すに至る女性 Medea (メディア) の物語として翻案していました。 そんな我が子の殺害に至る動機がある程度理解可能な解釈を体現する Helen McCrory の熱演は、 リアルに感じられる程、見応えありました。 しかし、それだけに、王族というか上流階級という設定 —現在に王族もないだろうし、むしろこの問題が深刻化しやすいのは社会的に孤立しやすい貧困層だろう、とか— など違和を感じる部分も際立ってしまい、なんともモヤモヤっとした後味も残ってしまいました。 現代に置き換えたバレエやオペラの現代演出をそれなりに楽しんできているわけですが、 登場人物や時代背景の設定は舞台装置や衣装を通して程度にしか描けないだけに、 演出プランとしては明確なものがあったとしても細部はぼやけてしまい、 逆に細部のリアリティがあまり気にならなくなってしまうのかもしれません。
演出は、半ばリアリズム的、半ば象徴的な演出を交えるよう。 舞台装置は2階建てで、1階舞台前方は Medea の家、 1階後方は野外というか林の中、 2階の窓越しに透けて見えるのが Corinth (コリントス) の王宮相当かつミュージシャンの演奏スペース となっていて、Medea の家で起きることは比較的リアリズムに寄せて演じられる一方、 Corinth の王宮での出来事はセリフを用いず象徴性の高い動きで表現されます。 コロスは Corinth の女性たちという役割でもありましたが、 セリフというより引きつったようなダンスによって状況を表現する事も少なからず。 Goldfrapp による Tales Of Us (Mute, 2013) に近い folktronica / dream pop にも近い要素もある生演奏による音楽も、合っていたでしょうか。 ダンスなどのフィジカルで象徴的な表現が多めで抽象的な方が自分の好みかなとは思いましたが、 そんな表現の組み合わせも楽しみました。