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Review: Rémi Chayé: Calamity, une enfance de Martha Jane Cannery 『カラミティ』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2021/09/26
Calamity, une enfance de Martha Jane Cannery
『カラミティ』 Calamity, a childhood of Martha Jane Cannary
2020 / Maybe Movies (France), Nørium (Denmark), 2 Minutes (France), France 3 Cinema (France), 22D Music (France) / 80min / DCP.
Réalisé par Rémi Chayé.
Scénario original: Rémi Chayé, Sandra Tosello, Fabrice de Costil.
Création graphique: Rémi Chayé, avec Maïlys Vallade, Liane-Cho Han, Benjamin Massoubre, Eddine Noël, Patrice Suau.
Musique: Florencia Di Concilio.
Avec la voix de Salomé Boulven (Martha Jane Cannary), Alexandra Lamy (Madame Moustache), Alexis Tomassian (Samson), Jochen Hägele (Abraham), Léonard Louf (Jonas), Santiago Barban (Ethan), et al.

前作 Tout en haut du monde (『ロング・ウェイ・ノース』, 2015) も素晴らしかった [鑑賞メモ] フランスのアニメーター Rémi Chayé が、 Tout en haut du monde の時のスタッフを再び集めて制作した新作長編映画です。 19世紀後半、西部開拓時代のアメリカ開拓地 (具体的にはオレゴン・トレイル) を舞台に、 伝説のガンマン Calamity Jane (aka Martha Jane Cannary) に着想して、あまり記録に残ってない少女時代の、 男装して馬を操り開拓地を一人で生きる術を身に付けた経緯を、 実際にありそうな話というよりマンガ映画の冒険活劇らしい物語として描いています。 前作同様アニメシリーズ『世界名作劇場』を思わせる良さもありながら、そこに収まらない作品でした。

ジェンダーの制約が大きかった19世紀、それも保守的な西武開拓地を行く馬車隊の中で、 父の負傷を契機にそんな制約を跳ね除け行動し始めた主人公 Martha が、 やがて自分にかけられた嫌疑を晴らすべく馬車隊から逃れて、単身冒険に出ます。 そんな前半は Martha への抑圧が描かれた少々辛気臭い (『世界名作劇場』によくある) 展開ですが、 単身冒険に出てからは、Martha が少女であることも忘れるような、性別を感じさせない冒険活劇的な展開です。 女性の姿に戻るも場面もあるのですが、少年が女装するエピソードだと言っても通用します。 そんなジェンダーを感じさせない描写に、少女小説に基づく世界名作劇場的なものを踏襲しつつも、そこから踏み出しているように感じられました。

前作では、特にその前半サンクトペテルブルグでの主人公であるお嬢様 Sacha の心の動きをとらえる繊細な心理描写も、印象に残るものがありました。 Calamity ではそんな心理描写は後退して、冒険活劇的な描写が目立ちましたが、 これも主人公 Martha の考え込むよりも行動に出る性格の反映でしょうか。 Martha の軽はずみな行動が禍 (calamity) を引き起こし、それが物語を駆動します。 途中で出会った Jonas とのスリリングな馬車の場面、 そして自分の嫌疑を晴らすべく乗り込んだ軍の宿営地でのドタバタ騒ぎなど、 Buster Keaton オマージュも感じられるコミカルなアクションを楽しみました。

グラフィックも前作同様、枠線を使わないシルクスクリーン版画のようでありながら、 前作のサンクトペテルブルグや北極圏の白っぽい淡い色彩と違い、彩度の高い鮮やかな世界。 自然な色彩というより、後期印象派を思わせる (色彩設計に19世紀末フランスの Les Nabis の絵画を参考にしたという) 赤〜黄色に少々寄った深みのある色。 そんな中、星の光や野営の煙を表現する青みがかった色も映えます。 (前作の淡い繊細な色使いも良いのですが。) シネマスコープの画面を使ったレイアウトも良く、その画面の美しさも堪能しました。

既に準備中という次の長編作品は、19世紀パリが舞台の少女が主人公の物語とのこと。次作も楽しみです。