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Review: 松江 泰治 『マキエタCC』 @ 東京都写真美術館 (写真展); 『記憶は地に沁み、風を越え 日本の新進作家 vol. 18』 @ 東京都写真美術館 (写真展); 『プリピクテ 東京展「FIRE/火」』 @ 東京都写真美術館 (写真展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2021/12/12
松江 泰治 『マキエタCC』
Matsue Taiji: makietaCC
東京都写真美術館 2F
2021/09/24-2022/01/23 (月休; 月祝開, 翌火休). 10:00-18:00 (木金-20:00)

風景を抽象画のようにグラフィカルに捉えた写真シリーズで知られる 松江 泰治 の個展です。 グループ展やギャラリーでの個展で観る機会はありましたが、 美術館規模での個展を観るのは、『世界・表層・時間』展 (IZU PHOTO MUSEUM, 2012) [鑑賞メモ] 以来の約10年ぶりです。 今回の個展は、 俯瞰視線で都市を撮った《CC》シリーズ (CCはCity Codeの意) を展示室の順路の外周側に配し、 都市や自然地形のジオラマを撮った《makieta》シリーズ (makieta はポーランド語で模型の意) を内周側に配置して対比させた展示でした。

こうして比較して観ると、やはり、 ランドマークになるような特徴的な建物を際立たせることなく、 空撮などによる水平線の映り込まないアングルから 望遠による圧縮効果も効いたパンフォーカスの平面的な画面の《CC》シリーズは面白いです。 同じアングル、フレームでで晴れた日と雪の日の札幌 (SPK) を捉えた《SPK35243》 (2014) と《SPK44134》 (2014) の並置しての展示など、 風景ならではの面白さでした。

《makieta》シリーズと《CC》シリーズの写真作品の他、ビデオ作品も4点展示されていました。 俯瞰的に都市を撮った《CC》シリーズの画面作りをビデオ化したかのような作品で、 静的な構図の中に見える細かい動きも面白いです。 しかし、スペイン・マドリードの博物館の吹き抜けから展示室を撮った《MAD182149》 (2018) や ニューメキシコ州アルバカーキの市場のフロアを見下ろすから撮った《AQB192395》 (2019) など、 画面に《CC》シリーズと同じ構造を持たせながらも、映り込む人物の動きが大きくなるところが面白く感じられました。 人が少なく動きが小さい博物館より、多くの人々が動き回る市場の方が、人の動きにささやかなドラマが浮かび上がってくるようで、 今までの作品には無かった新鮮さを感じました。

六本木のギャラリー TARO NASU で並行して開催中の個展『makietaTYO』 (2021/11/20-2021/12/25) では 森ビル制作の東京の1/1000の都市模型を撮った《makieta》シリーズを15点展示しています。 (東京写真美術館の『makietaCC』でも東京の《makieta》シリーズから4点展示しています。) 『makietaCC』では《makieta》シリーズはピンとこなかったのですが、 『makietaTYO』では、被写体との距離を置いてパンフォーカスで撮られているので模型写真感が低く、精細さが不自然に感じます。 それに、何より光が不自然です。北や西の空から撮ったアングルなのに正面からフラットに光が当たっています。 東京というそれなりに知った街が被写体ということもあってか、微妙な違和感を楽しむことができました。

Memories Penetrate the Ground and Permeate the Wind - Contemporary Japanese Photography vol. 18
東京都写真美術館 3F
2021/09/24-2022/01/23 (月休; 月祝開, 翌火休). 10:00-18:00 (木金-20:00)
吉田 志穂 [Yoshida Shiho], 潘 逸舟 [Han Ishu], 小森 はるか [Komori Haruka] + 瀬尾 夏美 [Seo Natsumi], 池田 宏 [Ikeda Hiroshi], 山元 彩香 [Yamamoto Ayaka].

新進の写真作家によるアニュアルのグループ展です。 リサーチ・プロジェクトのドキュメンテーションのような作品 (小森 はるか + 瀬尾 夏美) から、 コンセプチャルでスタイリッシュなイスタレーション (吉田 志穂 や 潘 逸舟) まで、作風は多様です。 そんな中では、山元 彩香 の、馴染みの無い地で少女を被写体にして撮影したという演出写真のシリーズが気に入りました。 整っているものの煤けていたり土っぽかったりする背景に、少し憂いも感じる物静かな佇まいで、時にはベールや面などを付けて写っています。 彩度や明度も高く鮮やに撮るというより、少し青みがかった燻んだ色調などを使い煤けた感を強調するよう。 2点あったビデオ作品でも、写真作品の演出を踏襲して、固定カメラで静かに歌を口ずさむ様子を固定カメラで淡々と捉えていました。 そんな、物静かながら少々不穏さも感じる演出に惹かれました。

東京都写真美術館 B1F
2021/11/20-2022/01/23 (月休; 月祝開, 翌火休). 10:00-18:00 (木金-20:00)
Joana Hadjithomas and Khalil Joreige (Lebanon), 川内 倫子 [Rinko Kawauchi] (日本 [Japan]), Sally Mann (U.S.A.), Christian Marclay (U.S.A./Switzerland), Fabrice Monteiro (Belguim/Benin), Lisa Oppenheim (U.S.A.). Mak Remissa (Cambodia), Carla Rippey (Mexico), Mark Ruwedel (U.S.A.), Brent Stirton (South Africa) David Uzochukwu (Austria/Nigeria), 横田 大輔 [Daisuke Yokota] (日本 [Japan]).

「写真とサステナビリティに関する国際写真賞 (The global award in photography and sustainability)」を謳う Prix Pictet の ショートリストに選ばれた13作家の作品の展覧会です。 Prix Pictet は今回で第9回とのことですが、観るのも初めてです。 テーマが「火 (Fire)」ということで、環境問題などの社会問題を扱った火にまつわる作品、 それも報道写真ではなく、現代アート的なコンセプトを持つ作品が選ばれていました。 主にアフリカの環境問題をテーマに問題が生じている場所で象徴的な造形の像を撮影した Fabrice Monteiro の The Prophecy シリーズ (2013-)、 1975年のクメール・ルージュによるプノンペン陥落の際の悲劇を ストップモーションアニメーションのコマのような連作写真で描いた Mak Remissa の Left 3 Days: Shadows of Khmer (2015) など、 コンセプチャルに過ぎず象徴性も使って物語る作品が印象に残りました。