TFJ's Sidewalk Cafe > Dustbin Of History >
Review: 松江 泰治 『世界・表層・時間』 @ IZU PHOTO MUSEUM (写真展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2012/10/08
Taiji Matsue: Surficial Survey
IZU PHOTO MUSEUM
2012/08/05-2012/12/25 (水;8/15開), [8月]10:00-18:00, [9,10月]10:00-17:00, [11,12月]10:00-16:30.

パンフォーカスでグラフィカルな風景を捉えた写真で知られる 松江 泰治 の個展は、 『JP-22』シリーズ (2005) を除き全て新作。カラーの写真・ビデオ作品からなる展覧会だ。 最近の作風のヴァリエーションのような作品ももちろん楽しんだけれども、 今まで観てきたものとは少々異なる傾向の作品に興味を引かれた展覧会だった。

南中時の影が最も小さい時間に、 空もしくは高い建物や山の上から北に見下ろすようなアングルで空を入れずに、 パンフォーカスに建物や道路、植生や地形の織りなす様子を写し取る写真が中心だ。 9月に TARO NASU で展覧会をしていた『JP-0205』 [レビュー] と同じカラー空撮パンフォーカス写真シリーズの静岡県編『JP-22』など、相変わらずだ。

一方、この展覧会で初めて観たパターンは3種類あった。 一つはジオラマ模型を撮影したもの。アフリカ大陸を模した公園の池の島を撮影した 写真 “DENMARK 17939” とそのビデオ版 “JUTLAND 112361” もそのバリエーションだろう。 近い距離からの撮影にもかかわらずパンフォーカスに撮っているので、ジオラマではなく空撮かのよう。 トリッキーな面白さはあったが、畠山 直哉 の同様なジオラマ写真なども連想させられた。

もう一つは、大型客船を水平方向から撮った作品。山を背景にしているので、空は映っていない。 それだけではあまりピン ホテルを空撮した写真と対比するように展示されており、 海のホテルとしての客船として、その相似を暗示するよう。そこが面白かった。

三つ目は、雨の水滴ごしに灰色の雨雲の流れる様子を捉えたビデオ作品。 今まで画面に入れることのなかった空を撮っているのだが、 山や地上の構造物の類を画面に入れないという意味では、全く裏表の関係ともいえる。 雲の切れ目もなく、灰色の濃淡のむらが変化していくだけだ。 その上を覆う水滴の黒い点々の動きも鈍い。そんなミニマルな映像が楽しめた。 入口近くにアルプスの山裾を撮ったと思われる “ALPS 112693” というビデオ作品と、 そこからスチルを切り出したかのような4枚の写真作品があったのだが、 微妙な光の具合の変化がある程度で、人、自動車や動物のようなわかりやすい動きを 見付けることができず、最初はピンとくるものが無かった。 しかし、この雲のシリーズを観て、 アルプスの山裾の淡い日の陰り具合の変化が雲の灰色の濃淡のむらの変化の反映と気付くと、 風景と光の変化の重ね合わせを観るようで、興味深く感じられた。

ところで、この展覧会を開催した、IZU PHOTO MUSEUM は静岡県駿東郡 (三島の北) にある クレマチスの丘 の一角に2009年にオープンした写真専門の美術館だ。建物の設計は 杉本 博司。 ワンフロアのみで、予想していたよりはこぢんまりしたハコだった。 クレマチスの丘は、ベルナール・ビュフェ美術館、井上靖文学館、ヴァンジ彫刻庭園美術館、IZU PHOTO MUSEUM の4つの美術館・博物館と それを取り囲む庭園、レストラン・カフェ等からなる文化複合施設。 今回、初めて足を運んでみたのだけれども、観光地というか別荘地美術館といった趣。 レストラン・カフェやショップも充実していて、そんな中では頑張って運営している方かもしれない。 しかし、夏にドイツで Museum Insel Hombroich を訪れた後では、 少々キッチュに感じてしまったのも否めないけれども……。