現代美術の文脈で1980年代から活動するアメリカ出身の作家 Roni Horn の個展です。
個展としてまとまった形で観るのは初めてです。
写真やガラス、ドローイングのコラージュなど、様々なメディアを使ったコンセプチャルな作品を得意とする作家です。
気泡もなく静かに鋳た直径約1.5m、高さ数十cm、重量数100kgはあろうガラスの鋳塊の作品 (2018-2020) は、
鋳型が接した面がすりガラスのように曇り、上面が透き通っているので、器に水を張ったよう。
しかし、そこに微かにガラスを流し込んだ際に出来た線が出来ているというのも不思議な質感。
そんな物としての質感を楽しむミニマルアート的な良さがあるのですが、
無題 (untitled) ながら引用されたテキストがそれぞれに添えられたり、
一見ランダムに見えてガラスの色の濃さで並べられた作品順にキャプションが書かれているところなど、
コンセプチャルな面も感じさせます。
写真作品も、同じ構図の写真をグルーピングしつつ並べたり、
構図やコンセプトの同じ写真群を複数組み合わせて交えて並べることで、
微妙な差異や連続性を浮かび上がらせいく、タイポロジカルな面白さがあります。
特に、アイスランドの温泉で6週間にわたり撮影した100枚の顔写真を並べた
You Are the Weather, Part 2 (2010-2011)
は、タイトルも含め、人の表情や機嫌は常に同じわけでないことを浮かび上がらせるような良さがありました。
野外の森の遊歩道に置かれた (今後、常設になるとのこと)
Air Burial (Hakone, Japan) (2017-2018) も含め
ガラス鋳塊や写真の作品は良かったのですが、
コンセプチャルな面が良かったかというと、若干微妙に感じてしまったのは、
会場で流されていたビデオ Saying Water (2013) のせいかもしれません。
キャブションでは「思索の強度」とか書かれていましたが、自分が聴いた範囲では、
一聴して深そうで、「水 (Water)」を他の単語に置き換えることができるような事ばかり言っていて、
実際の所は「水」については何も考えてないとしか思えない話が続くという。
まあ、コンセプチャルな現代美術にありがちな事ではあるのですが、……。
ポーラ美術館というとフランス印象派に強い観光地美術館で長らく縁がなかったのですが、 行くのは2019年の『シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート』 [鑑賞メモ] に続いて。 現代アートにも積極的に取り組むようになってきているのでしょうか。今後の活動に期待したい所です。 前回も今回も温泉込みで日帰りで行きましたが、 これで、一人客でも肩身狭くなく泊まれる温泉宿もしくはリゾートホテルが近くにあれば良いのですが……。