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Review: Metropolitan Opera, James Robinson & Camille A. Brown (co-dir.), Terence Blanchard (comp.): Fire Shut Up in My Bones @ Metropolitan Opera House (オペラ / event cinema)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2022/01/30
from Metropolitan Opera House, 2021-10-23.
An opera by Terence Blanchard. based on the book by Charles M. Blow. Libretto by Kesi Lemmons.
Co-directors: James Robinson & Camille A. Brown.
Set Designer: Allen Moyer. Costume Designer: Paul Tazewell. Lighting Designer: Christopher Akerlind. Projection Designer: Greg Emetaz. Choreographer: Camille A. Brown.
Cast: Will Liverman (Charles), Walter Russell III (Char'es-Baby), Latonia Moore (Billie), Angel Blue (Destiny / Loneliness / Greta), et al.
Conductor: Yannick Nézet-Séguin.
World Premiere: Opera Theatre of Saint Louis, June 15, 2019.
A co-production of the Metropolitan Opera, LA Opera, and Lyric Opera of Chicago.
Commissioned by the Metropolitan Opera. Originally commissioned by Opera Theatre of Saint Louis, co-commissioned by Jazz St. Louis.
上映: 109シネマズ川崎, 2022-01-29 11:35-15:10 JST.

COVID-19により Season 2019-20 後半から約1年半休館していた Metropolian Opera ですが、 去年10月に Season 2021-22 が開幕して、Live in HD も再開したので、その今シーズン第2作を観てきました。 Metropolitan Opera 初の黒人作曲家による新作オペラの上演というのが話題のようですが、 ジャズや映画音楽の文脈でも活動するとは言え Terence Blanchard はほとんどノーチェックで、 むしろ、Season 2019-20 の George Gershwin: Porgy And Bess [鑑賞メモ] を手がてた James Robinson & Camille A. Brown の演出という興味で、観ました。

原作は1970年生、The New York Times にコラムを持つジャーナリスト/コラムニスト Charles M. Blow の自伝で、 ルイジアナ州北部のギブスランドでの貧しい生い立ちから、奨学生として Grambling State University に通うようになるまでを描いています。 少年期に受けた従兄弟から受けた性暴力のトラウマからの回復、 相手を許すというより捨て置くことによる癒やしの物語が大きなテーマになっていますが、 マチズム色濃い故郷の兄たちや大学のフラタニティ Kappa Alpha Psi への馴染めなさを抱えつつ馴染もうとする葛藤なども丁寧に描かれていました。

正直に言えば、少年期を描いた第1幕は少々説明的にストレートプレイ的な場面描写が続き退屈したのですが、 ダンスなども使い象徴的な描写のウェイトが増した大学進学以降の第2, 3幕は引き込まれました。 原作が自伝でこの作品に望むべくもないとは思うのですが、周囲の状況と主人公の間の葛藤が丁寧に描かれる (周囲の状況を Destiny / Loneliness / Greta として人格化すらしている) 一方、 主人公の Charles 以外の登場人物の描写が浅く感じられ、 性格や思惑の違う人々のすれ違いや衝突が生むドラマという点では物足りなく感じました。 Porgy And Bess が良かったので期待が大き過ぎたのかもしれません。

Blanchard のバックグラウンドからして、ジャズや教会音楽 (ゴスペル) の要素を随所に感じましたが、 ミュージカルのようなキャッチーなリズムやメロディは避けられていたでしょうか。 音楽的にはあまりツボにははまらなかったのですが、 同じような歌詞を様々な場面で変奏しているのが、効果的に感じられました。 特に、「愛していると言って」「当たり前だろう」と答えるようなやり取り (正確な歌詞を失念しましたが) をそれまでに何回も出てくるだけに、 ラストに「愛していると言って」に「愛している」と答えるのが生きていました。