Surrealism がモード (高級服飾デザイン) に与えた影響をテーマにした展覧会です。 正直に言えば「シュール」な雰囲気のデザインを集めた展覧会かもしれないと危惧していたのですが、 期待以上にちゃんと Surrealism に取り組んだ展覧会となっていました。
核となるのは、戦間期の Surrealism 運動と実際に連動していた1930年代〜1940年代のモードで、 特に Salvador Dali や Jean Cocteau と交流のあった Elsa Schiaparelli が鍵となるデザイナとなっていました。 あと、1920年代 Art Deco のグラフィック・デザインで知られる A. M. Cassandre の 1930年代後半以降に Surrealism に作風を変えた仕事も多く取り上げらていました。 以前に観た Cassandre の展覧会では蛇足に感じられましたが [鑑賞メモ]、 こういう位置付けの展覧会で観るとその作風変化の意味が良く捉えられるように感じました。
もちろん、Surrealsim とファッションの直接的な関係だけではなく、 近代以前の過剰な髪飾り、帽子などの西洋のデザインや、中国の纏足のような習慣、 動物等をモチーフにした帯留めなどの装飾具や花魁に見られるような過剰に装飾的な服装など日本の歴史的なデザインを取り上げ、 まだ、舘鼻 則孝、永澤 陽一、串野 真也 といった現代の日本のデザイナーによる Surrealism の系譜に乗るようなデザインについても大きく取り上げていました。 Lady Gaga が着用したことで注目された 舘鼻 則孝 (Noritaka Tatehana) の靴などが取り上げられていましたが、 Lady Gaga だけでなく Björk や St. Vincent の衣装は Surrealism の系譜とも取れる事に気づかされました。 ファッションデザイナーの 串野 真也 とアーティストの スプツニ子!(尾崎 ヒロミ) の「光るシルク」のドレスの展示も美しかったのですが、 企画の流れからは少々外れているようにも感じました。
ファッション史は Modernism 的な系譜で描かれがちですが、Surrealism 的な系譜で見るのは、新鮮でした。 Elsa Schiaparelli がモードにおける Surrealist なら、Coco Chanel が Modernist でしょうか。 Surrealism とモードの直接的な関係など展示の核はしっかりしていましたが、 近代以前のものを取り上げたり、現代の日本のデザイナーを取り上げたりという点は、 流れを描くというより、あちこち摘み喰いに感じられたことは否めません。 しかし、COVID-19パンデミック下では展示に使えるものも限られているでしょうし、 モードにおける Surrealism の系譜の可能性を見せてくれただけでも、充分に刺激的な展覧会でした。