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Review: Jean Epstein (dir.): Le Double Amour 『二重の愛』 (映画); Jean Benoît-Lévy & Marie Epstein: Héléne 『美しき青春』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2022/04/03

国立映画アーカイブの上映企画 『フランス映画を作った女性監督たち――放浪と抵抗の軌跡』で、 第二次世界大戦後にドキュメンタリーや La Cinematheque Française での映画保存で活躍することになる Marie Epstein が関わった戦間期のフランス映画を2本観てきました。

『二重の愛』
1925 / Films Arbatros (France) / silent / B+W (tinted) / DCP / 107 min.
Réalisation: Jean Epstein; Scénario: Jean Epstein, Marie Epstein; Photographie: Maurice Desfassiaux; Decors: Pierre Kéfer; Costumes: Charles Drecoll, Paul Poiret.
Nathalie Lissenko (Laure Maresco), Jean Angelo (Jacques Prémont-Solène), Camille Bardou (Baron de Curgis), Pierre Batcheff (Jacques Maresco), etc.

フランスの白系ロシア人の映画会社 Albatros [関係する鑑賞メモ] の制作による、上流階級物の映画です。 監督は Marie Epstein の兄 Jean ですが、脚本で Marie が参加しています。 メロドラマ映画といっても三角関係ではなく、ギャンブル中毒の恋人と息子に振り回される女優・歌手 Mme. Maresco の愛と受忍の物語です。 モナコで評判の Mme. Maresco は、富豪の放蕩息子の恋人 Jacques に慈善募金の金を使い込まれますが、彼の罪を被り、Jacques はアメリカに逃げます。 Mme. Maresco は Jacques との間の子 (やはり名は Jacques) もあってしばらく苦労するものの、パリに出て再び成功しますが、父親に似て子もギャンブル中毒で、それに悩まされます。 アメリカに渡った Jacques は改心して石油王として成功し、仕事でパリに立ち寄ります。 そこで、偶然 Mme. Maresco 母子と出会い、ギャンプルで破滅仕掛けた息子を救い、2人をアメリカに連れて帰る事にする、という物語です。 後半の社交クラブでの再会、カジノでの父子対決、不正がバレて警察に連行された息子を救う場面などなかなか緊張感のある展開が楽しめました。 しかし、前半の破滅から立ち直り成功するまでが一言で済まされてしまうようなご都合主義や、 そもそもギャンブル中毒の恋人や息子の罪を被るという愛のあり方に、感情移入し難いものがありました。 上流階級物という事で、当時の流行の豪華な屋内装飾やや衣装も見どころでしょうか。 Mme. Maresco の Paul Poiret らしいドレスなど服装こそ Art Déco 期らしかったですが、 室内装飾はさほどでもなかったでしょうか。

Hélène
『美しき青春』
1936 / Les Films Marquise (France) / 35mm / B+W / 109 min.
Réalisation, Scénario: Jean Benoît-Lévy, Marie Epstein; d'après le roman de Vicki Baum.
Madeleine Renaud (Hélène Wilfur), Jean-Louis Barrault (Pierre Régnier), Constant Rémy (Le professeur Amboise), Héléna Manson (Valérie), etc.

1930年代に Marie Epstein が Jean Benoît-Levy と共同監督した一連の映画の中の1本です。 舞台はアルプスの麓グルノーブル。 必ずしも裕福な家の出ではない苦学する女学生 Hélène が 大学卒業後も学問を究めるため進学し、博士の学位をとり、医化学の研究者になるまでの学生生活を描いた映画です。 助手として学費や生活費を稼ぎながら大学院へ通うなか、 家業の医者を継ぐと親の期待と音楽という自分の希望の板挟みになった恋人が自死したり、 自死の前に妊娠した恋人の子を一人で育てつつ研究を進めたりと、その波乱もあるのですが、 ドラマチックな起承転結のような流れがあるというより、エピソードの積み重ねのよう。 生活の苦労を生々しく描いたような描写はなく、ご都合主義な点も感じないわけではないですが、 リアリズム的に生活を描いていました。 師にあたる教授と結ばれるというエンディングは釈然としないものがありましたが、 当時のフランスの大学生の生活を垣間見るような興味深さはありました。 というか、同時代の松竹映画が翻案してもおかしくないような話だよなあ、と、思いつつ観ていました。