Waltz With Bashir 『バシールとワルツを』 (2008) [鑑賞メモ] で知られるイスラエルのアニメーション映画作家の新作です。 第二次世界大戦中、ユダヤ人の少女 Anne Frank がナチスによるホロコーストから逃れるためのアムステルダムでの隠れ家での生活を逮捕されるまで描いた 『アンネの日記』 (Het Achterhuis, 1947; The Diary of Anne Frank, 1952) に基いた作品です。 日記で描かれたエピソードを淡々とアニメーション化するのではなく、むしろそれは劇中劇的な位置付け。 日記には描かれない強制収容所でのエピソードもアニメーションらしい象徴性を持って描かれますし、 Anne Frank が日記を書くにあたって作り出した空想上の宛先の少女 Kitty を主人公として、 彼女が「現在から一年後」に博物館の本の中から現実の世界の世界に飛び出し、 Anne Frank を探す中で起きることを通して、現代の問題を浮かび上がらせます。 アニメーション手法としては比較的オーソドックスでシンプルな絵の2Dアニメーションですが、 題材が題材だけに実写で作ったら逆に嘘臭く感じそうで、アニメーションだからこそ描けた話でしょうか。
Kitty は抜け出したアムステルダムの路上やスクワットで暮らす難民の人たちと出会い、 その中の一人の少年 Peter と彼女の死地を訪れる旅をする一方、彼らと共闘し始めます。 日記のオリジナルを盗んだと警察に追われた Kitty は、難民たちがスクワットしているビルへ逃げ込みますが、 難民強制送還の事態に直面して、オリジナルの日記と交換に難民たちを人道的に扱うことを求めます。 その時にビルの屋上に “I am here” 「私はここにいる」というバルーンを掲げるのですが、 ある意味でこれがこの映画のタイトル “Where is Anne Frank” の答え –– 現代の Anne Frank はスクワットに隠れ住む難民たち –– になっています。 交渉があっさりと成功して難民たちが適切な施設に移送されることになるというのは、現実を考えると楽観的なご都合主義に感じてしまうようなところもありましたが、 ナチス・ドイツによるホロコーストを、いかにもありがちな他の紛争・内戦を含む戦争における戦争犯罪や大量虐殺とではなく、 欧州難民危機と人道問題として重ねて見せるアイデアには、感心されました。