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Review: Кирилл Серебренников (режиссёр): Петровы в гриппе [Kirill Serebrennikov (dir.): Petrov's Flu] 『インフル病みのペトロフ家』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2022/05/15
Петровы в гриппе [Petrov's Flu]
2021 / Hype Film (Russia), et al / colour / DCP / 146 min.
Режиссёр (Director): Кирилл Серебренников [Kirill Serebrennikov].
Семён Серзин [Semyon Serzin] (Сергей Петров [Sergei Petrov]), Чулпан Хаматова [Chulpan Khamatova] (Нурлыниса Петрова [Nurlynisa Petrova]), Владислав Семилетков [Vladislav Semiletkov] (Петров-младший [Petrov's son]), Юлия Пересильд [Yulia Peresild] (Марина [Marina], Снегурочка [Snow Maiden]), et al.

Алексей Сальников [Alexey Salnikov] の小説 «Петровы в гриппе и вокруг него» (2017) に基づく新作のロシア映画です。 舞台作品の演出で知られる Кирилл Серебренников [Kirill Serebrennikov] 監督作品で、 Лунный папа [Luna Papa] 『ルナ・パパ』 (1999) [鑑賞メモ] で主演していた Чулпан Хаматова [Chulpan Khamatova] が主要な役で出演しているということで、観に行きました。

舞台は2004年のロシア・ウラル地方のエカテリンブルグ、 インフルエンザにかかった主人公ペトロフの24時間を描いた映画です。 といっても、ポスト・ソヴィエトの不条理な現実やソヴィエトだった子供時代の回想、 主人公ペトロフだけでなく、その元妻ペトロワ、ペトロフが子供時代にあった「雪娘 (Снегурочка)」マリーナの、 主観的な視点からの現実の描写と暴力的・性的な妄想を行き来する、まるで高熱の中で見る悪夢を思わせる映画でした。 (悪)夢を見るようという意味ではシュールレアリスティックなのですが、 長回しのトリッキーな撮影が行われ、現実と妄想の間をシームレスに行き来する感があって、まさにマジックリアリズム的な映画でした。 霊柩車のエピソードなど、おそらくこの描写は妄想だろうと思っていたものが、実は現実側だったりする仕掛けもあり、虚実入り混じったよう。 ユーモアを感じさせる場面もありますが、そのセンスは暴力的・性的なイメージを伴うダークなもの。 ポスト・ソヴィエトの社会やCOVID-19パンデミックに対する寓意を読み取りたくなるところも無いわけではないですが、 むしろ、不条理感に浸るような作品でした。

最近、Чулпан Хаматова [Chulpan Khamatova] の写真・動画をニュース等で見る機会がそれなりにあって、 Luna Papa の時と比べると流石に歳をとったなと思っていたのですが、 映画の中ではさほどではありませんでした。 暴力的な妄想を内面に持った図書館員を演じていたのですが、 コミカルな役とは異なる、少々気の強そうなところもいい感じでした。

Kirill Serebrennikov の演出した舞台作品は、もしCOVID-19で中止にならなければ、 2020年のふじのくに⇄せかい演劇祭で観られたはずだったのでした。 残念な限りです。 オペラやバレエの演出もしているので、ストリーミングでもいいので観る機会があればと思っています。 Serebrennikov は、 2017年に不当だと言われる国家予算横領の罪で逮捕、自宅軟禁状態に置かれたものの、2022年1月にドイツに脱出、 その後の2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻を批判しています [AFPBBの記事]。 その一方で、ロシア国内では Большой театр [Bolshoi theatre] での作品上演が中止になっています [AFPBBの記事]。 また、主要な役を演じた Chulpan Khamatova も、 ウクライナ侵攻を受けてロシアから亡命しています [AFPBBの記事]。 こんな状況を見ても、ウクライナ侵攻で国内においても独裁的な強権姿勢を強めている中、 ロシア国内で自由な芸術活動をすることが難しくなっていることを実感します。