2014年ウクライナのマイダン革命を扱った Майдан [Maidan] (2014) などのドキュメンタリー映画で知られる映画監督による、 2014年以降続き、2022年ロシアのウクライナ侵攻の先駆けとなったドンバス戦争を扱った劇映画です。 初めて観る監督で作風に関する予備知識はありませんでしたが、題材的に今観ておいた方が良いと思い、足を運びました。
親ロシア勢力によって実効支配されている地域で起きた、監督がSNS等で知った話に基づく13のエピソードからなります。 登場人物などに重なりを持たせて繋げているものの主人公のような登場人物はなく、 明確なストーリーで描くのではなく、ドキュメンタリー風のエピソードの積み重ねによって、 戦争下の実効支配地域の支配の (1エピソードはウクライナ側の腐敗に関するものでしたが) の不条理な状況を描くような映画でした。 Петровы в гриппе [Petrov's Flu] [鑑賞メモ] のようなマジックリアリズム的な演出はなく、 不条理な現実をグロテスクなまま描くよう。
ロシアによるウクライナ侵攻におけるロシア攻撃占領下での出来事を知ってこの映画を見ると、この現在の戦争を観ているような現実味があります。 ドンバス紛争も2014年の激しい戦闘の後は小競り合いは続くものの日常が戻っていたのだろうと漠然と思っていたのですが、 むしろ、ドンバス戦争から地続きでそれが拡大したようなものだったのだと気付かされました。 しかし、ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、ニュースやSNSで観たような映像やシチュエーションが少なからずあり、 映画館のような逃げ場の無い場所で見続けるのはきついものがありました。
Лозниця [Loznitsa] はベラルーシ生まれのウクライナ育ち、ロシアで映画大学へ行き映画を作り始め、 2001年にドイツに移住したという経歴の持ち主です。 公式サイトは英語のみ。 監督の名前や映画タイトルの表記を何語にするのが良いのか悩みましたが、 ウクライナ語をメインにして、英語とロシア語を併記することにしました。 Майдан [Maidan] やこの Донбас [Donbass / Донбасс] で見られるように、 Лозниця [Loznitsa] の立場は明確にウクライナ側だと思うのですが、 この3月にウクライナ映画アカデミーから除名されるという出来事がありました。 ロシアによるウクライナ侵攻にロシア映画ボイコットを行き過ぎだと非難したことが直接的な原因のようですが、他にも複雑な要因があるようです。 (事情に通じているわけではないので、 「不興を買うセルゲイ・ロズニツァ新作『バビ・ヤール・コンテクスト』:自国を代表する映画監督に怒るウクライナの現在」 (Indie Tokyo, 2022/05/20) を紹介するに留めます。)