『パリ・オペラ座バレエ シネマ』の最新上映は、 戦後、New York City Ballet だけでなくブロードウェイのミュージカルの振付家として活動した Jerome Robbins へオマージュした2018年の公演から。 DVD/Blu-rayのリリースも無いようですし、 リメイクの映画ですが Steven Spielberg (dir.): West Side Story (2021) を先日観たということもあり、 Jerome Robbins 振付作品を知る良い機会かと、足を運びました。 ミュージカルを思わせる Fancy Free、 モダンなバレエのソロとデュエット、 そして、コンテンポラリーダンスにも接近したラストの Glass Pieces と、 Robbins の作品の多様性を観ることができ、そして、かつ個々の作品についても必ずしも好みではないものの興味深く観ることができたプロクラムでした。
最初の作品は、出世作の Fancy Free (1944)。 ヒットし、On the Town としてミュージカル化 (1944)、映画化 (1949) されています。 街行く女性を引っかけようとする水兵仲間3人と、女性たちの間のやりとりを描いています。 たわいない軽妙な小作品と言うには現在からすればセクハラに当たるような行為を題材としているという点で時代を感じますが、 音楽も Leonard Bernstein で、これが West Side Story (1957) へと発展したと考えると、感慨深いものがありました。
続いては、J. S. Bach の Suites for solo cello からの曲を伴奏に 男性がソロで踊る A Suite of Dances (1994)。 ミニマリスティクな照明のみの青いバックに赤い衣装も映えます。 バレエ的な振付作品としてはそんなものかとは思うのですが、 cello 奏者も舞台には上げているもののあくまで伴奏という所が物足りなく感じました。
三つ目の作品は、Nijinskiy / Ballet Russes で有名な Afternoon of a Faun (1953)。 舞台を現代 (制作時の20世紀半ばですが) に置き換え、シンプルでモダンな舞台美術。 男性ダンサーが1人スタジオにいるところに、女性ダンサーが入ってきてバーレッスンを始めるものの、 やがてお互いを気にかけ惹かれる様をダンスとして描き、 最後、男性が女性の頬にキスをし、女性は恥じらいながらスタジオから出ていく、という情景を描いていました。 性的な欲望というよりむしろプラトニックに近い惹かれ合いを描くようで、モダンで上品なリメイクでした。
最後の作品は Philip Glass の Glassworks (1982) と Akhnaten (1983) の曲を使った Glass Pieces (1983)。 舞台装置は最小限ながら照明も効果的でミニマルな曲に合わせた群舞も視覚的に美しく、最も好みの作品でした。 しかし、動きのバレエ的なところというより、コンテンポラリーダンス –– 例えば Steve Reich の音楽を使った Rosas: Fase [鑑賞メモ] –– では避けられるようなダンサーの階層的な扱いや男女の役割の明確な区別を付ける構成が使われている所に、 これはコンテンポラリーダンスではなくやっぱりバレエ的だと感じる所がありました。 例えば、第一部 “Rubic” の冒頭の場面、衣装にも多様性を持たせたダンサーたちがランダムに歩くかのような場面から始まりますが、 次第に3組のメインのカップル (衣装が他と差別化されている) のダンスが中から浮かび上がります。 第二部 “Façades” では、シルエットの女性バックダンサーを背景にプリンシパルのカップルが踊るという、より明確な階級差が付けられます。 第三部 “Akhnaten” 前半も明確に男女別のダンスなのですが、ラストが第一部冒頭の場面に回帰する所に、 そういった階層的な扱いや男女の区別を解消していこうという方向性も感じられました。