TFJ's Sidewalk Cafe > Dustbin Of History >
Review: Кантемир Балагов (Режиссёр): Дылда [Kantemir Balagov (dir.): Beanpole] 『戦争と女の顔』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2022/07/24
2019 / Non-Stop Production (RU), AR Content (RU) / colour / 137 min.
Режиссёр [Director]: Кантемир Балагов [Kantemir Balagov].
Виктория Мирошниченко [Viktoria Miroshnichenko] (Ия [Iya]), Василиса Перелыгина (Маша [Masha]), etc

Святлана Алексіевіч [Светлана Алексиевич]: У войны не женское лицо 『戦争は女の顔をしていない』 (1985) に着想したという2019年のロシア映画です。 俳優や製作陣のバックグラウンドには疎いのですが、 監督の Кантемир Балагов [Kantemir Balagov] はチェルケス系 (Circassian) で、 Александр Сокуров [Alexander Sokurov] に師事したという、 これが長編2作目の1991年生の若い監督です。 やはり『戦争は女の顔をしていない』に着想したという所に興味を引かれて観てみました。

『戦争は女の顔をしていない』が原案とされていますが、 回想の語りを映画化したわけでなく、戦争中のエピソードを使うのでもなく、 第二次世界大戦 (大祖国戦争) 終戦直後 (1945年) のレニングラード (現サンクトペテルブルグ) を舞台に 復員した元女性兵士のドラマとなっています。 ちなみに、映画の原題/英題は主人公 Ия [Iya] のあだ名で「のっぽさん」の意味です。 Ия はPTSDによる身体が硬直してしまう発作に苦しみつつも看護士として軍病院で働き 幼い男の子 Пашка [Pashka] の面倒をみていますが、PTSDの発作に巻き込んで死なせてしまいます。 そんな所に Ия の戦友かつ Пашка の母 Маша [Masha] が帰還してきますが、 戦死した夫の復讐のためベルリンまで従軍した彼女は腹部を負傷して不妊となり身体的な後遺症を抱えています。 そんな精神的身体的な外傷に加え、女性兵士に対するスティグマ (「食料と交換でヤらせてくれる」「戦地妻」といった偏見) などを抱えつつ、 同性愛的な関係も育つつ生き延びようとする様を、 もちろん軍病院の医師、傷痍兵やその家族といった戦争に傷を癒そうと苦闘する人々、 そんな事とは無縁なノーメンクラトゥーラの一家などの話も交えつつ、描いていました。

2時間余りの間に様々な出来事が起こる展開はかなりドラマチックですが、 音楽を使わずセリフも控えめな寡黙な演出と、 軍病院の様子やアパートメントでの生活の長いめカットを使った丁寧な描写、 そして、セピアに退色したような色合いながら服装に使われる赤や緑の鮮やかさも印象的な画面が、 印象に残った映画でした。

ロシアのプロダクションによる映画ですが、プロデューサの Олександр Роднянський [Alexander Rodnyansky] はユダヤ系ウクライナ人で、 ロシア政府へ批判的な立場もあって2020年にはロシアの国家映画委員会から排除されいます。 もちろん、戦争 (ウクライナへのロシア侵攻) に反対の立場。 監督の Балагов [Balagov] も戦争反対を表明しており、侵攻開始後、ロシアから脱出しています。 Петровы в гриппе [Petrov's Flu] 『インフル病みのペトロフ家』 (2021) [鑑賞メモ] もそうですが、 今のロシアにはこのような映画を撮る映画人の居場所が無くなっていることを実感します。