当時東ドイツだったドレスデン生まれながら壁ができる直前1961年に西ドイツへ移住し1960年代から現代美術の文脈で活動する作家 Gerhard Richter の、
生誕90年、画業60年を記念した、
Gerhard Richter Art Foundation 所蔵作品を中心にした110点からなる大規模個展です。
Richter は好きで1990年代からそれなりに観てきましたが、16年前の個展を見逃していて、
大規模な個展を観るのは Atlas (川村記念美術館, 2001) [鑑賞メモ] 以来でしょうか。
出発点ともいえるフォト・ペインティング、代表作ともいえるアブストラクト・ペインティング、
小品ながらギャラリーなどで観る機会も多かったオイル・オン・フォト、
近年手がけるストリップから、最新ともいえる2021年のドローイングまで、
主要な作風が一通り辿れる、なかなかに見応えある展覧会でした。
具象から抽象へと進んだ近代絵画の流れを想起させつつも異なる道筋を示すかのような、
写真などの具象的なイメージの抽象性を強調する Richter のアプローチの面白さを、改めて実感。
今回作品様々な作品をまとめて観て、その形式的な面だけでなく、
アブストラクト・ペインティングでのスキージのような道具の使用、
もしくは、4900 Colours [901] (2007) のようなカラー・チャートの作品や、
Strip (CR 930-3) (2013) のような
コンピュータで生成した作品を観ていると、
偶然性の使用、というか、作家の恣意性を極小化するかのような面が浮かび上がってくるのが面白く感じられました。
その一方で、フォト・ペインティングの具象的なイメージだけでなく、今回の目玉の作品ともいえる
Birkenau もそうだが、
シカゴの連続殺人事件に取材したという
Acht Lernschwestern [Eight Student Nurses] (1971)、
9.11のWTCを思わせる
September (2009)、
また古典的ともいえる頭蓋骨を描いた
Schädel [Skull] (1983) など、
一連の作品の中から極小化された作家の恣意性というか意図に死のモチーフ –– 表象されたイメージというより秘められたコンセプト –– が浮かび上がってくる感も、とても興味深く感じられました。
ところで、Manchester International Festival 2015 で Birkenau が展示された際、 Richter / Pärt と題され 日に数回、ギャラリーにて Vox Calamantis が Arvo Pärt の曲 “Drei Hirtenkinder aus Fátima” を歌うというパフォーマンスが行われました [YouTube]。 イヤホンガイドでこの事に触れられ Birkenau の部屋ではその曲がかかる、とか期待しましたが、そんな事はありませんでした。 この曲は Vox Clamantis / Arvo Pärt: The Deer's Cry (ECM New Series, 2016) に収録されているので、 結局、自分の iPhone でこの曲を聴きながら鑑賞しました。