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Review: Олександр Довженко (режисер): Ягідки кохання [Alexander Dovzhenko (dir.): Love's Berries | Александр Довженко (режиссёр): Ягoдка любви] 『愛の果実』 (映画); Олександр Довженко (режисер): Звенигора [Alexander Dovzhenko (dir.): Zvenigora | Александр Довженко (режиссёр): Звeнигopа] 『ズヴェニゴラ』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2022/09/04

国立映画アーカイブでは、毎年恒例サイレント映画上映企画 『サイレントシネマ・デイズ2022』。 今年はウクライナのサイレント映画を、併映の短編長編の2本、観てきました。

Ягідки кохання [Love's Berries | Ягoдка любви]
1926 / ВУФКУ Ялта (СРСР) / 34 min. / 35mm 18fps / B+W / silent
Режисер, Сценарист [Directed by, Screenplay by | Режиссёр, Сценария]: Олександр Довженко [Alexander Dovzhenko, Александр Довженко].
Мар'ян Крушельницький [Maryan Krushelnitsky | Марьян Крушельницкий] (Жан Ковбасюк [Jean Kolbacjuk | Жан Ковбасюк]), Маргарита Барська [Margarita Barskaya | Маргарита Барская] (Ліза [Liza | Ліза]), etc

結婚の覚悟も父親になる覚悟もできていない Жан が、恋人 Ліза から赤子を預けられ (意図しない妊娠による我が子と Жан は勘違いするが、実は Ліза が叔母から預かった子)、 なんとか子を捨てようとドタバタ騒ぎをするも、 人民裁判所に子連れで出頭するよう呼び出され、なんとか取り戻して出頭すると Ліза がいて、 結婚することになる、というドタバタのコメディです。 現在の視点から見るとそこまで物的な赤子の扱いはないだろう、と思うところもありましたが、 乳母車を使った動きや、スイカを使った喧嘩など、ドタバタなネタは悪くありませんでした。

Звенигора [Zvenigora | Звeнигopа]
1927 / ВУФКУ Одеса (СРСР) / 94 min. / 35mm 18fps / B+W / silent
Микола Надемський [Nikolai Nademsky | Николай Надемский] (Дід [Granpa | Дед], генерал [general | генерал]), Семен Свашенко [Semyon Svashenko | Семён Свашенко] (Тиміш [Timoshka | Тимош]), Лесь Подорожній [Aleksandr Podorozhny | Лесь Подорожный] (Павло [Pavlo | Павел]).

ウクライナの伝説 Звенигора の秘宝を伝える老人と、その孫 Тиміш と Павло の話です。 十年以上前とはいえ以前に一度観ていたせいか [鑑賞メモ]、その時よりも物語が掴めたでしょうか。 といっても、前半はウクライナの農村で話が展開するのでモダニズム的な雰囲気は感じられず少々退屈に感じました。 老人が孫に伝説を語る場面では、劇中劇のような形で伝説が映像化されるのですが、 自然主義的では無い様式化された演技 (特に戦いの場面) や多重露光を使った映像は、アヴァンギャルドというより表現主義的に感じられました。

やがて、革命の内戦がウクライナの農村にも及んで、 兄 Тиміш は共産党員になって革命側に付く一方、 弟 Павло はコサック白軍に加わった後に亡命してパリやプラハで詐欺紛いの秘宝探し資金集めをします。 ここからの映像表現はアヴァンギャルドを思わせるもので、近代主義的なテーマがグッと前に出ます。 Тиміш はソビエト下で技術者としてウクライナの工業化に取り組む一方、 老人は宝掘りを続け錆びた探検を掘り当てて茫然とします。 戻った Павло は祖父を「火竜を止めろ」と唆して鉄道と蒸気機関車を爆破させようとしますが、 線路に爆薬を仕掛けず、機関車に向かって走り出して気絶してしまい、失敗するのを見てピストル自殺します。 この、伝説の秘宝など無く (もしくは、大したものではなく)、ウクライナの宝を工業化の中に見い出す、 という結末の寓意も、いかにもソビエトのアヴァンギャルド映画らしい近代主義でした。

しかし、Звенигора は観たことあったということをすっかり忘れてました。 始まって、これは観たことがある、と気付いたという。 一度観たことがある映画だとしても、生伴奏付きで観るというのは、やはり、楽しいものです。 ちなみに、上映は 鳥飼 りょう のピアノ (と少々の鳴り物) の生伴奏付きでした。

国立映画アーカイブ 展示室では企画展 『脚本家 黒澤明』 (11/27まで)。 単に脚本などの資料を並べてあるだけでなく、 準備稿、決定稿など複数バージョンの脚本を比較しつ詳細に分析した内容をボードで説明展示しいて、 創作の影響元や創作過程を説明して見せていました。 興味深そうとは思いつつも、映画の方を知らないと、さすがに話に付いていきがたいものがありました。