フランスのコンテンポラリー・サーカスの文脈で活動するアクロバットを主要な技とする Compagnie XY の5年ぶりの来日公演は、 コンテンポラリー・ダンスの文脈で活動する振付家 Rachid Ouramdane (2021年より Chaillot - Théâtre national de la Danse 芸術監督) とのコラボレーションによる作品です。 2017年の Il n'est pas encore minuit... [鑑賞メモ] も 剥き出しのブラックボックスの舞台での上演でしたが、今回はさらに、 前回では使っていた planche coréenne (teeterboard, シーソー) や大きな搭を作るための円形のボードのような道具も一切使いません。 ユニフォームではなくディテールは異なるものの装飾の無いシンプルな普段着 (スポーツウェア的ではない) シャツとパンツの衣装で、 色も始まりと終わりは黒もしくはそれに近い暗色、途中で白もしくは明るいグレーやベージュに着替える程度。 これに比べると、Il n'est pas encore minuit... の衣装も個性的に感じるほど。 より一層、演出におけるミニマリズムを徹底したように感じられました。
ビートよりテクスチャを強調した electronica の音楽に乗ってアクロバット技を使ったパフォーマンスを繰り広げるのですが、 組体操のような強い規律を感じさせることなくパフォーマーが相互作用し、 人の上に登る、人を持ち上げる、人を投げる、人を受け止める、崩れる、人を振り回す、そして走るといった動きがスムースに流れるよう。 シーソーやマットも使わずに人手のみとすることで急な動きの変化が無くなったのも大きいでしょうか。 弛緩した走りの中から次第にダンス的な動きやアクロバット技が混じって緊張が高まり、 緊張のピークとしての大技 (各階1人の4階の人間タワー、など)、 そして弛緩に戻っていくというという流れも見事でした。 特に弛緩においては、一人一人の力が抜けて崩れ倒れるような動きと相似するかのように、 人間タワーの状態から横から人で支えつつそのまま斜めに倒れていくような動きも多用されていました。 このような動きの構成は、ダンスの振付家とのコラボレーションの成果なのかもしれません。
衣装も性差を抑えたものですが、パフォーマンス上でも、 さすがに小柄な女性がフライヤーで、100 kg以上はあろう大柄な男性が最下階のポーターというのはあるものの、 性別というよりも体格差で組み合わせしているよう。 パフォーマンスの性格上もあってか様々な体格のパフォーマーがいるのですが、 大技の場面の間の皆で輪になって緩く走るところから次第にダンス的な動き緊張を入れていくような場面でも、 小柄な女性やダンサー体型の男性に混じって100 kg以上はあろう体格の男性も一緒に走り踊ります。 ある意味で Rosas などのコンテンポラリー・ダンス作品でもありがちな動きなのですが、 体格が揃いちなダンス・カンパニーに比べ体格の多様性が際立ち、それがとても面白くも興味深く感じられました。
前に Compagnie XY を観たときも Rosas を連想したのですが、 より徹底した演出のミニマリズムや動きをスムースに構成したコレオグラフィもあって、 まるでアクロバットで縦方向の動きも加えた Rosas のよう – Rosas には強く感じる音楽構造を可視化するような面はほとんど感じられませんでしたが –、 そんな印象の残った作品でした。