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Review: 呉 永剛 (dir.) 『神女』 (邦題『女神』) (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2022/11/17

伊勢佐木町/長者町のミニシアター 横浜シネマリンで開催している ピアノ生伴奏サイレント映画フィルム上映企画『柳下美恵のピアノdeシネマ』のvol. 7で上映されたこの映画を観てきました。

『神女』
邦題『女神』
1934 / 聯華影業公司 上海第一製片廠 / 89 min / 22 fps /Silent
製作: 羅 明佑; 脚本・監督・美術: 呉 永剛; 撮影: 洪 偉烈.
阮 玲玉 (母), 黎 鑑 (息子), 章 志直 (ヤクザ), 李 君磐 (校長), etc

あらすじ: 舞台は1930年代の上海、主人公は幼い息子を女手一つで育てている街娼。 売春取締から逃れるために逃げ込んだ家の主だったヤクザの親分だったことから 弱みを握られヒモとして付き纏われ、 逃げ出してまともな職に就こうとしても身元保証できる人がいないため叶わず、 結局、ヒモに見つかり子供を身代に服従を強いられる。 息子にだけは良い教育をと金を貯め、身元を伏せて私立小学校へ進学させるが、 やがて父兄に知られ、弁護した校長は辞職に追い込まれ、息子は退学させられる。 この状況から逃れようと息子を連れて街を出ようと思い立ったところで、 貯めた金をヒモに使い込まれたことに気づき、 ヒモのいる賭博場へ押しかけ、喧嘩の中で彼を殺してしまう。 懲役刑となり収監された彼女を元校長が訪れ、彼女は元校長に息子を託すことに決めるのだった。

街娼か店付きの娼婦かという違いもありますし、 ラストの悲劇的な状況 (ヒモを殺してしまう/息子が死んでしまう) も違いますが、 女手一つで息子を育てるチャブ屋の女を 桑野 通子 が演じた 清水 宏 『恋も忘れて』 (松竹大船, 1937) [鑑賞メモ] が思い出される映画でした。 「母子もの」のメロドラマ映画ではあるのですが、 その演技にも芯の強さを感じる主演女優 阮 玲玉 の美しさというより凛々しさと、 それを捉える戦間期モダニズム写真に通ずる美しい絵で、 立場の弱さから追い込まれる不利な状況と息子までも苦しめる周囲の職業差別による蔑視・偏見に ラストは悲劇的とはいえ気丈に立ち向かう女性を描いた、心を打たれる映画でした。

中華民国時代の上海で製作された映画ですが、 テーマも演出も同時代の日本映画と遜色なく、むしろ同時代性を強く感じました。 この映画を観るまで知りませんでしたが、 主演の 阮 玲玉 は当時の人気だけでなく、1935年に自殺したということもあり、伝説的な女優とのこと。 1992年には香港で伝記映画『阮玲玉』 (邦題『ロアン・リンユィ 阮玲玉』) も作られています。 彼女が主演した他の映画、 特に、翌年の映画 蔡 楚生『新女性』 (聯華影業公司, 1935) はぜひ観てみたいものです。