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Patrick Marber (dir.), Tom Stoppard: Leopoldstadt 『レオポルトシュタット』 @ Wyndham's theatre (演劇 / event cinema)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2023/01/22
Wyndham's theatre, London, 27 January 2022 (International Holocaust Remembrance Day).
Playwright: Tom Stoppard.
Director: Patrick Marber.
Set Designer: Richard Hudson; Costume Designer: Brigitte Reiffenstuel; Lighting Designer: Neil Austin; Sound Designer & Original Music: Adam Cork; Movement: Emily Jane Boyle; Casting Director: Amy Ball CDG.
Aidan McArdle (Hermann Merz), Faye Castelow (Gretl Merz), Ed Stoppard (Ludwig Jakobovicz), Aaron Neil (Erns Kloster), Sebastian Armesto (Nathan Fischbein), Arty Froushan (Leo Chamberlain), Jenna Augen (Rosa Kloster), etc
First Performance: 25 January 2020, Wyndham's theatre, London.
Producer: Sonia Friedman Productions.
上映: シネ・リーブル池袋, 2023-01-21 11:35-14:10.

イギリスの劇作家 Tom Stoppard の最新戯曲の National Theatre Live での上映です。 作家や演出家についての予備知識はあまり無かったものの、 この上映も延長になるなど、評判の良さに引かれて観てきました。

舞台は1899年から1955年にかけてのウィーン、 実業家として成功したユダヤ人 Merz 家とその親族たちの群像劇です。 50年余りを少しずつ描くのではなく、その中から1899年1月、1900年1月、1924年、1938年11月、1955年の順に、それぞれある出来事があった一時を切り出した5幕構成です。 全5幕のほぼ全て Merz 家の客間で演じられる密室劇で、 説明的ではないものの情報量の多いセリフで繰り広げられる会話劇です。

主な登場人物約20名の明確な主人公の無い群像劇ですが、第4幕までは カトリックへ改宗しカトリックの女性と結婚しオーストリアの上流階級への仲間入りを目指す Merz 家の主人 Hermann を軸に、 彼らの親の世代から孫の世代までの親族4世代にわたる話が展開します。 ハプスブルグ帝国時代の第1幕はカトリックに改宗したユダヤ人として祝うクリスマス、 第2幕は Gretl の浮気のエピソードとユダヤの年越しのお祝いペサハ、 戦間期の第3幕は割礼の儀式、と、 宗教的なお祝いの日を選びつつオーストリア社会の中でのユダヤ人の生き様を描きます。 1938年の第4幕は、ナチスによるオーストリア併合によりユダヤ人迫害が強まる中で親族で集まり亡命を議論する中で、 水晶の夜 (Kristallnacht) が始まり、住居財産押収のために警察に踏み込まれます。 そして、ラストの第5幕は、戦後の1955年、ホロコーストを生き延びた Merz の親族 Leo, Rosa, Nathan の3名がウィーンの元 Merz 家の屋敷で出会う場面となります。

登場人物が多いながら、セリフに織り交ぜられたキーワードや演技はもちろん、 家具や衣裳による時代や登場人物の描写も巧みで、 特に説明的なセリフやナレーションが無くとも、観てるうちに自然に人間関係が頭に入ってくるよう。 そして、それまでの登場人物が自然に入っていただけに、戦後の生き残り3人のやりとりが、心を打ちました。 それも、ホロコースト前にアメリカ・ニューヨークに移住した Rosa、 アウシュヴィッツの生き残り Nathan、 イギリス人の継父にイギリス人として育てられユダヤ人としての記憶を失っていた Leo (Stoppard 自身をモデルにしていると言われる)、 という立場の違う3人をぶつけることにより、単純に懐古する以上の深みを作り出していました。 しかし、カトリックながらユダヤ人 Hermann の妻となった Gretl や、 社会主義者で1934年の2月内乱での集合住宅 (Karl Marx Hof) 砲撃で夫を失い イギリス人ジャーナリストと再婚してギリギリでホロコーストを逃れるもののロンドン空襲で亡くなる Leo の母 Nellie とか、 それだけで一つのドラマになりそうなサブストーリーがあって、 ちょっと盛り込み過ぎで焦点を絞っても良かったのではないかと思うところもありました。

数世代にわたる一家の物語の舞台化というと、去年に観た The Lehman Trilogy [鑑賞メモ] を連想するところもありました。 個人的な好みと言えば身体表現の要素の少ない会話劇は苦手で、 見立てを活用し自然主義的な演技を抑えた演出だった The Lehman Trilogy の方が好みですが、 比較的オーソドックスな会話劇で綴る Leopoldstadt のような叙事も良いものだなと思うような作品でした。