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Review: William A. Wellman (dir.): Beggars of Life 『人生の乞食』 (映画); Howard Hawks (dir.): Girl in Every Port 『港々に女あり』 (映画); Frank Tuttle (dir.): Love 'Em and Leave 'Em 『百貨店』 (映画); Edward Sutherland (dir.): It's the Old Army Game 『チョビ髯大将』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2023/04/30

シネマヴェーラ渋谷で特集『宿命の女 ルイズ・ブルックス』は、 当初はヨーロッパ制作の主演作3本 [鑑賞メモ] だけにするつもりが、 もっと観たくなってしまったので、今回上映された1920年代後半ハリウッド制作のサイレント映画出演作4本も観てしまいました。 Brooks が出演したハリウッド映画を観るのは初めてです。

Beggars of Life
『人生の乞食』
1928 / Paramount (USA) / B+W / silent / 83 min.
A William A. Wellman production.
Story by Jim Tully, adapted and supervised by Benjamin Glazer.
Wallace Beery (Oklahoma Red), Richard Arlen (The Boy (Jim)), Louise Brooks (The Girl (Nancy), et al.

Wings 『つばさ』 (Paramount, 1927) で 第1回アカデミー賞の最優秀作品賞 (1st Academy Awards - Outstanding Picture) を受賞した William Wellman による、Louise Brooks がヨーロッパへ渡る前年の作品です。 サイレント版と会話や効果音、音楽が付けられたサウンド版が作られましたが、 サウンド版は失われ、サイレント版に後に当てられた音楽を付けての上映でした。

舞台はアメリカ中西部。 性的虐待から逃れるため農場主の養父を射殺してしまった少女 Nancy (Louise Brooks) と、 仕事を貰おうと農場に立ち寄り現場に立ち合わせてしまったホーボー (hobo: 放浪の労働者) の青年 Jim (Richard Arlen) の、若い男女の逃避行メロドラマ/活劇です。 キャスケット (鳥打ち帽の一種, newsboy cap) を被って男装のホーボー姿となるも可憐な顔立ちを隠せない Louise Brooks がアクションもこなしていく、というのも確かにこの映画の見所です。 しかし、むしろ、逃避行の中で Nancy と Jim がお互いを思いやり信頼を深めていく様の丁寧に描写が、この映画の魅力です。 そして、2人を助けつつも Nancy を物にしようとするホーボーの一団、 指名手配者として Nancy を、そして不正乗車するホーボーたちを追う警察たち、という三つ巴の逃走劇、 荒野の中を走る貨物列車を使ったダイナミックなアクションにも、ぐいぐいと引き込まれます。 彼らを一行に加え Nancy を物にしようとした首領格のホーボー Oklahoma Red が実はいいやつで。 最後は2人の愛に感銘を受けて、命を賭けて2人の警察からの逃避行を手助けする、という展開も泣かせます。

タイトルになった “beggars of life” という言葉が出てくる重要な場面でもある、 最初の農場から Nancy と Jim が逃げ出した直後、藁山の中で最初の一晩をエロティックな関係を匂わすことすら無しに過ごすやり取りを観て、 20世紀後半の 宮崎 駿 のアニメーション作品『未来少年コナン』 (1978) や『天空の城 ラピュタ』 (1986) の主人公の男女にやらせそうなやり取りだと、ふと思ったのですが、 その後、三つ巴逃避行の展開となって、似ていると確信しました。 思えば、訳ありで追われる少女という設定といい、キャスケットを被った男装といい、貨物列車での三つ巴のアクションといい、『天空の城 ラピュタ』のスラッグ峡谷の場面と非常に似ています。 もちろん 宮崎 駿 以外にも逃避行メロドラマ/活劇は数多くありますが、『人生の乞食』にそれらの原点の一つを見るようでした。

Tim Buckley: “Morning Glory” (Goodbye And Hello, Elektra, 1967) や Bob Dylan: “I Am A Lonesome Hobo” (John Wesley Harding, Columbia, 1967) など、 1960年代の folk (rock) にはホーボーを題材にした歌が少なからずありますが、 この Beggars of Life でやっと具体的なイメージが持てました。 こういった曲を聴くたびに、Beggars of Life のホーボーたちを想起してしまいそうですが。

A Girl in Every Port
『港々に女あり』
1928 / Fox Film (USA) / B+W / silent / 78 min.
A Howard Hawks production.
Story by J. K. McGuinness, Scenario by Seton I. Miller.
Victor McLaglen (Spike Madden), Robert Armstrong (Salami), Louise Brooks (Marie), et al.

Beggars of Life の直前に撮られた Louise Brooks 出演作品です。 Howard Hawkes のサイレント時代の作品ですが、まだ film noir 色は感じられませんでした。 「港の女」たちを巡ってライバル関係にあった二人の水夫 Spike と Salami の男の友情を描いたコメディで、 Louise Brooks は Spike が水夫を引退すると決めた南仏の港町マルセイユで恋に落ちるサーカスガール Marie 役です。 Marie は実は昔にニューヨーク・コニーアイランドで働いていた時に Salami と恋仲で、友情が試される三角関係を作るという点で女性の登場人物の中では最も重要な役ではありますが、出演は後半のみ。 Pabst はこの映画を観て Lulu 役を確信したという逸話がありますし、 2人を魅惑する女性役としてはピッタリと思いましたが、 Louise Brooks を期待して観ると、少々物足りません。

Love 'Em and Leave 'Em
『百貨店』
1926 / Paramount (USA) / B+W / silent / 65 min.
A Frank Tuttle production.
Evelyn Brent (Mame Walsh), Lawrence Grey (Bill Billingsley), Louise Brooks (Janie Walsh), et al.

モダンなデパート (百貨店) を舞台としたサイレント・コメディ映画で、 1925年映画デビューの Louise Brooks 出演7作目、アパート住まいの女性店員の姉妹の妹 Janie 役です。 しっかり者で妹の面倒見も良い Mame と対称的で、 姉の婚約者を誘惑したり、女性店員組合の積立金を競馬で使い込んだり、と奔放過ぎるフラッパー。 彼女自身がコミカルに演技するというより、周囲に滑稽な状況を作り出すトラブルメーカーです。 Janie が百貨店員のダンス大会で踊り優勝する場面など、ダンスの見所はありました。

It's the Old Army Game
『チョビ髯大将』
1926 / Paramount (USA) / B+W / silent / 76 min.
An Edward Sutherland production.
From the play by Joseph P. McEvoy, screen play by Thomas J. Geraghty.
W. C. Fields (Elmer Prettywillie), Louise Brooks (Mildred Marshall), et al.

コメディアン W. C. Fields が主役のサイレント・コメディで、Louise Brooks 出演4作目。 W. C. Fields は町の人々が集う場にもなっている人のいい薬局の店主、Louise Brooks はそこの看板娘の役です。 ニューヨークから来た詐欺師まがいの投資家に振り回されるという大筋はありますが、コメディのネタを積み重ねていくような展開です。 やはり、Louise Brooks 自身がコミカルな演技をするというより、Brooks の魅力が周囲に滑稽な状況を作り出していきます。

『百貨店』や『チョビ髯大将』のような他愛ないコメディも悪く無いですし、 そんな映画の中でも Louise Brooks の見た目立ち振る舞いの可愛さは目を引きますが、やはり、見た目が可愛いだけでは物足りません。 服装を含めフラッパーらしい所が全く無いという、ある意味 Louise Brooks らしさのない役だった Beggars of Life が、今回上映観た1920年代後半ハリウッド制作のサイレント映画出演作4本の中では最も良く、 単なるフラッパーではない彼女の魅力を引き出していました。

Louise Brooks は出演していませんが、関連作品として Marlene Dietrich 主演のドイツ初のトーキー映画にして「宿命の女」物の Josef von Sternberg (Regie): Der Blaue Engel 『嘆きの天使』 (UFA (DE), 1930) も上映されました。 実は観たことなかったので、これも良い機会かと、観ました。 しかし、16 mmでの上映で画質が悪く、Dietrich の魅力を感じたという程ではなく、 よく目にするスチル写真や、よくカバーを耳にする Friedrich Hollaender の歌は、 こういう場面のものだったのかと確認するような見方になってしまいました。 修復版の上映で再見したいものです。