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Review: 『アニメーション作家 山村浩二』 @ 国立映画アーカイブ (特集上映)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2023/08/15

ドローイング、クレイなど様々なメディアや技法を駆使する実験的な作風で知られる アニメーション作家 山村浩二 の40年余のキャリアを回顧する上映企画 『アニメーション作家 山村浩二』 が国立映画アーカイブで始まったので、さっそく、最初の週末で一通り観てきました。

『アニメーション作家 山村浩二 ①1979-80年代―学生時代』
103 min.
『台所会議』 / 1979 / 監督・脚本・撮影・アニメーション・美術・音楽・声: ブラこうじ / 2 min. / DCP (8 mm), カラー
『オーム博士星へ行く』 / 1984 / プラこうじ娯楽漫画映画会社 / 監督・脚本・撮影・アニメーション・美術・音楽・声: ブラこうじ / 22 min. / DCP (8 mm), カラー
『Fig. II』 / 1984 / 監督・撮影・出演: やまむら浩二 / 5 min. / DCP (8 mm), 無声, カラー
『お昼』 / 1985 / 監督・脚本・撮影・美術: やまむら浩二; 音楽: Willem Breuker; 出演: 古川 琢治, 地縛 霊, 小泉 風太郎, 鶴田 貞代 / 16 min. / DCP (8 mm), カラー
『月光』 / 1985 / 監督・撮影: やまむら浩二 / 2 min. / DCP (8 mm), 無声, カラー
『小夜曲』 / 1985 / 監督・撮影・アニメーション・美術: やまむら浩二; 声: 土谷 賢司, 杉本 英輝, 北山 理子, 上野 東声 / 4 min. / DCP (8 mm), カラー
『博物誌』 / 1985 / 監督・撮影・アニメーション: やまむら浩二; 音楽: Willem Breuker / 2 min. / DCP (8 mm), カラー
『上を向いて』 / 1985 / 監督・撮影・アニメーション: やまむら浩二 / 1 min. / DCP (8 mm), カラー
『淡水』 / 1986 / 監督・撮影・アニメーション・美術: やまむら浩二 / 4 min. / DCP (8 mm), カラー
『Ding Dong』 / 1986 / 監督・撮影・アニメーション・美術: やまむら浩二; 音楽: Willem Breuker / 2 min. / DCP (8 mm), カラー
『天体譜』 / 1987 / 監督・撮影・アニメーション・美術: やまむら浩二 / 2 min. / DCP (8 mm), カラー
『ひゃっかずかん』 / 1987 / 監督・脚本・撮影・アニメーション・美術: やまむらこうじ; 音楽: くろさわじゅん / 3 min. / DCP (8 mm), 無声, カラー
『世紀末ヴォ~ドヴィルショ~・フランケンゴーズ+トゥ~ハリウッド』 / 1989-90頃 / 監督・撮影: 山村浩二 / 3 min. / DCP (8 mm), 無声, カラー
『アニメーション断片集』 / 1988-89 / 監督・アニメーション・美術: 山村浩二 / 17 min. / DCP (8 mm), 一部音声あり, カラー
『水棲』 / 1987 / 監督・撮影・アニメーション・美術: やまむら浩二; 音楽: 黒澤潤 / 5 min. / 16 mm, カラー
『月の小壜』 / 1988 / 監督・撮影・アニメーション・美術: やまむらこうじ; 音楽: くろさわじゅん / 4 min. / 16 mm, カラー

中学、高校、大学時代から卒業してしばらく就職していた間に自主制作した作品を集めたプログラムです。 過去に観た覚えがあるのは透過光を使ったクレイアニメーション『水棲』くらいでしょうか。 最初期は漫画映画や特撮映画の強い影響下ですが、高校から大学に進学する頃に制作したということを考えると、『オーム博士星へ行く』は驚異的です。 美大 (東京造形大) に入ってからが多作で、 人形アニメーション『小夜曲』、透過光を使ったクレイアニメーション『博物誌』、切り紙アニメーション『淡水』だけでなく、 飯村隆彦あたりを思わせる実写の実験映画『月光』、パフォーマンス作品のための抽象度高い映像『Fig. II』、アングラ演劇の影響も感じる実写映画『お昼』など、作風も多様。 アニメーションに限らない表現の試行錯誤に、アニメーション作家になってからの実験的な作風の原点を見るようでした。

上映後の山村浩二監督によるトークでは、中学から大学卒業直後の頃について、当時の写真なども交えて語りました。 アーティな面ではない、 大学時代の特撮映画美術のアルバイト経験や、大学卒業後に2年ほど在籍した ムクオスタジオ (椋尾 篁 が主宰したアニメーション美術・背景のスタジオ) での経験なども、 キャリアにおいて重要だったと語るところも教育的。 美大を目指していた高校時代にスーパーリアリズムに影響を受けた絵を書いていた、という話も、当時のコンセプチャルで最先端の絵画表現に取り組んだのだろうな、と興味深く思いました。

『アニメーション作家 山村浩二 ②1990年代―こどものためのアニメーション』
84 min.
『バベルの本』Bavel's Book / 1996 / ヤマムラアニメーション / 監督・アニメーション: 山村浩二; 音楽: シジジーズ; 声: 並木嵩晃, 牧野由依 / 5 min. / 16 mm, カラー
『ふしぎなエレベーター』 / 1991 / 日映プロダクション / 監督・脚本・作画・美術: やまむら浩二; 脚本: 小林士郎; 撮影: 菁映社; 音楽: 黒澤潤 / 8 min. / DCP, カラー
『ジュビリー』Jubilee / 1999 / ヤマムラアニメーション / 監督・アニメーション・美術: 山村浩二; 音楽: 中村一義 / 6 min. / DCP, カラー
『パクシ』 / 1994-95 / NHKエデュケーショナル, ドウズ, ヤマムラアニメーション / 監督・脚本・アニメーション・声: 山村浩二; 撮影: 秋吉信幸; 音楽: シジジーズ, 須藤隆; 声: 堀内洋子, 冷水ひとみ, 山村佑理 / 20 min. / DCP, カラー
『遠近法の箱 博士のさがしのもの』 / 1990 / 日本国際映画著作権協会 / 監督・アニメーション・美術: やまむら浩二; 撮影: 秋吉信幸; 音楽: 上野耕路 / 4 min. / 35mm, カラー
『カロとピヨブプト おうち』 / 1992 / NHK / 監督・アニメーション: やまむら浩二; 撮影: 秋吉スタジオ; 音楽: シジジーズ; 声: 高橋桃太, 冷水ひとみ / 4 min. / 35mm, カラー
『カロとピヨブプト サンドイッチ』 / 1992 / NHK / 監督・アニメーション: やまむら浩二; 撮影: 秋吉スタジオ; 音楽: シジジーズ; 声: 高橋桃太, 冷水ひとみ / 4 min. / 35mm, カラー
『カロとピヨブプト あめのひ』 / 1992 / NHK / 監督・アニメーション: やまむら浩二; 撮影: 秋吉スタジオ; 音楽: シジジーズ; 声: 高橋桃太, 冷水ひとみ / 4 min. / 35mm, カラー
『キッズキャッスル』Kids Castle / 1995 / こどもの城, ヤマムラアニメーション / 監督: 山村浩二; 撮影: 秋吉信幸; 音楽: 須藤隆 / 5 min. / 35mm, カラー
『キップリングJr.』Kipling Jr. / 1995 / こどもの城, ヤマムラアニメーション / 監督・脚本・アニメーション・声: 山村浩二; 撮影: 秋吉スタジオ; 音楽: シジジーズ; 声: 冷水ひとみ, 野口良子 / 14 min. / 35mm, カラー
『どっちにする?』 / 1999 / ヤマムラアニメーション / 監督・アニメーション・美術: やまむら浩二; 音楽: 須藤隆 / 10 min. / 35mm, カラー

独立後の1990年代にNHK教育テレビ (ETV) などを主な発表場所として制作されたアニメーション作品を集めたプログラムです。 『おかあさんといっしょ』や『いないいないばあっ』と言った幼児向け番組の合間に、 ドローイングやクレイ、人形など様々な技法を使った短編アニメーションを流す 『プチクレイ』『プチプチ・アニメ』などと名付けられたコーナーがはじまり、当時、好んで観ていました。 『カロとピヨプブト』やその中のキャラクタからの『パクシ』のクレイアニメーション、 現在の作風にも繋がるドローイングアニメーション『バベルの本』など、当時にリアルタイムで観ていたので、懐かしさが先立ちます。 人形アニメーション『キップリングJr.』もETV『プチプチ・アニメ』でかかっても違和感の無い叙情的な物語とその表現です。 最近はこういう作風の作品は少なくなりましたが、やはり、大好きです。

『アニメーション作家 山村浩二 ③2000年代―大人が楽しむ短篇アニメーション』
56 min.
『頭山』 / 2002 / ヤマムラアニメーション / 監督・アニメーション・美術・編集・2DCG・仕上げ: 山村浩二; 脚本: 米村正二; 音楽・三味線・ナレーション: 国本武春; 音楽: シジジーズ / 10 min. / 35 mm, カラー
『年をとった鰐』The Old Crocodile / 2005 / ヤマムラアニメーション / 監督・脚本・アニメーション・作画・編集・デジタルエフェクト: 山村浩二; 原作: Leopold Chauveau; アニメーション: 荒井知恵; ナレーション: ピーター・バラカン / 13 min. / 35 mm, カラー
『カフカ 田舎医者』 / 2007 / ヤマムラアニメーション / 監督・脚本・アニメーション: 山村浩二; 原作: Franz Kafka; 音楽: 冷水ひとみ / 21 min. / 35 mm, カラー
『こどもの形而上学』 / 2007 / ヤマムラアニメーション / 監督・脚本・キャラクターデザイン・アニメーション: 山村浩二; 音楽: Sergei Prokofiev / 5 min. / 35 mm, カラー
『おまけ』 / 2003 / ヤマムラアニメーション / アニメーション: 山村浩二; 音楽: 北里玲二 / 2 min. / DCP, カラー
『無花果』Fig / 2006 / ヤマムラアニメーション / 監督・アニメーション: 山村浩二; 音楽: 山本精一 / 5 min. / DCP, カラー

より作家性の高いアニメーション作品を作り出した2000年代の作品を集めたプログラムです。 古典落語『頭山』を原作に、浪曲師 国本武春の三味線付き語りを付けたアニメーション作品です。 荒唐無稽な小話を自在に空間変容するドローイングアニメーションで映像化したもので、『バベルの本』と並ぶキャリア前半のマスターピースでしょう。 やはり空間・身体を伸縮自在に変容させるドローイングアニメーション『カフカ 田舎医者』となると、技巧に走り過ぎてもっと淡々とした表現の方が不条理感が出たのではないか、と。 そういう点も含めて、洗練され過ぎない面白さはありました。

『アニメーション作家 山村浩二 ④2010年代―短篇アニメーションの多様性』
86 min.
『マイブリッジの糸』Muybridge’s Strings / 2011 / National Film Board of Canada, NHK, Polygon Pictures / 監督・脚本・アニメーション: 山村浩二; 音楽: Normand Roger, Pierre Yves Drapeau, Denis Chartrand / 13 min. / 35 mm, カラー
『鶴下絵和歌巻』 / 2011 / ヤマムラアニメーション / 監督・原画・アニメーション・彩色: 山村浩二; アニメーション: 中田彩郁、田中美妃 / 2 min. / DCP, カラー
『古事記 日向編』 / 2013 / ヤマムラアニメーション, NHKエンタープライズ / 監督・脚本・アニメーション: 山村浩二; アニメーション: 久保雄太郎, 牧野惇; 音楽; 上野耕路; ナレーション: 明石勇, 遠藤ふき子 / 12 min. / DCP, カラー
『fice fire fish』 / 2013 / ヤマムラアニメーション / 監督: 山村浩二 / 2 min. / DCP, カラー
『鐘声色彩幻想』 / 2014 / ヤマムラアニメーション / ペインティング: 山村浩二, Sanae; 音楽: Maurice Blackburn, Eldon Rathburn / 4 min. / DCP, カラー
『怪物学抄』 / 2016 / ヤマムラアニメーション / 監督・アニメーション・テキスト: 山村浩二; 音楽: Georg Friedrich Händel; 音楽アレンジ: 冷水ひとみ / 6 min. / DCP, カラー
『干支1/3』 / 2016 / ヤマムラアニメーション / アニメーション: 山村浩二; 音楽: 冷水ひとみ / 2 min. / DCP, カラー
『水の精』 / 2017 / ヤマムラアニメーション / 監督: 山村浩二; 音楽: Catherin Verhelst; ドラマトゥルグ: Hervé Tougeron / 2 min. / DCP, カラー
『サティの「パラード」』 / 2016 / ヤマムラアニメーション / 監督・アニメーション: 山村浩二; 音楽・テキスト: Erik Satie; アレンジ: Willem Breuker / 14 min. / DCP, カラー
『ゆめみのえ』 / 2019 / ヤマムラアニメーション / 監督・脚本・アニメーション・編集: 山村浩二; 原作: 上田秋成, 鍬形蕙斎; アニメーション: 矢野ほなみ; 音楽: シジジーズ; ナレーション: 長塚圭史 / 10 min. / DCP, カラー
Dreams into Drawing / 2019 / ヤマムラアニメーション / 監督・脚本・アニメーション・編集: 山村浩二; 原作: 上田秋成, 鍬形蕙斎; アニメーション: 矢野ほなみ; 音楽: シジジーズ; ナレーション: Robert Campbell / 10 min. / DCP, カラー

2010年代の作品を集めたプログラムです。 馬の連続写真や殺人事件スキャンダルで知られる Eadweard Muybridge を題材とした『マイブリッジの糸』、 初演時に騒動となったことで知られる Erik Satie が音楽を手がけたバレエ Parade を題材とした『サティの「パラード」』、 略画式で知られる江戸時代の絵師 鍬形蕙斎 と上田秋成『雨月物語・夢応の鯉魚』を交えて題材とした『ゆめみのえ』など、 絵、写真、舞台作品等と、作品に関わる出来事や作家の伝記的なエピソード (『ゆめみのえ』のように必ずしも実話ではない) とを、 アニメーションならではの自在に変容できる画面を生かして、混然と物語るというのが作風でしょうか。 その一方で、カナダのアニメーション作家 Norman McLaren 生誕100年を記念して制作した『鐘声色彩幻想』は、 『色彩幻想』Begone Dull Care (1946) を引用しつつ、抽象アニメーションとしています。 多様な作風を見せつつも、それぞれの表現に洗練を感じさせるプログラムでした。

『アニメーション作家 山村浩二 ⑤2020年代―長篇アニメーション』
71 min.
『ホッキョクグマすっごくひま』Polar Bear Bears Boredom / 2021 / ヤマムラアニメーション/ 監督・アニメーション: 山村浩二; 音楽: CASIOトルコ温泉 / 7 min. / DCP, カラー
『幾多の北』 / 2021 / ヤマムラアニメーション/ 監督・原作・脚本・アニメーション・美術・編集: 山村浩二; アニメーション: 矢野ほなみ, 中田彩郁; 音楽: Willem Breuker; 音響演出: 笠松広司 / 64 min. / DCP, カラー

長編を含む2020年代の2本を取り上げたプログラムです。 今年1月末に『山村 浩二 presents 『幾多の北』 と三つの短編』で2作品とも観ていたので [鑑賞メモ]、今回はパスしました。 しかし、過去の作品を見てから振り返ると、2010年代の円熟期から『幾多の北』はまた次のフェーズに入ったのだろうか、と思うものがありました。

『アニメーション作家 山村浩二 ⑥連句アニメーション 冬の日 芭蕉七部集より 他』
105 min.
『連句アニメーション 冬の日 芭蕉七部集より』 / 2003 / IMAGICAエンタテインメント, 電通テック / 企画・監督: 川本喜八郎; 音楽: 渡辺晋一郎; アニメーション作家: Юрий Норштейн [Yuri Norstein], 川本喜八郎, 山村浩二, 他 / 39 min. / 35 mm, カラー
『冬の日の詩人たち』 / 2003 / IMAGICAエンタテインメント, 電通テック / 監督: 和田 敏克; 撮影: 吉村 隆; 出演: Юрий Норштейн [Yuri Norstein], 川本喜八郎, 山村浩二, 他 / 66 min. / 35 mm, カラー

江戸時代の俳諧師、松尾芭蕉が尾張の連衆と興行した連句を収録した俳諧撰集『冬の日』 (1684) の36句を、海外を含む35作家でアニメーション作品化したものでです。 技法も作風もバラバラで異化作用が大きく、それぞれのイメージの世界に入って行きづらく感じましたが、 制作時のドキュメンタリー『冬の日の詩人たち』と合わせて、アニメーション技巧の多様さを実感することができました。