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Review: Cristóbal León & Joaquín Cociña: La casa lobo 『オオカミの家』 (映画); Cristóbal León & Joaquín Cociña: Los Huesos [The Bones] 『骨』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2023/09/24
La casa lobo [The Wolf House]
2018 / Diluvio (CL), Globo Rojo Films (CL) / 74 min.
a film by León & Cociña.
Script: Joaquín Cociña, Cristóbal León, Alejandra Moffat; Art Direction: Natalia Geisse, Joaquín Cociña, Cristóbal León; Animation: Joaquín Cociña, Cristóbal León; Directed by Cristóbal León & Joaquín Cociña.

映画というより現代アートの文脈で活動するチリの2人組ユニット León & Cociña のアニメーション作品、初の長編作品です。 美術館やギャラリーの数メートル四方の空間にセットを作り込み、 それを使ってストップアニメーションを撮影しつつ、 その過程をワーク・イン・ブログレスのインスタレーション作品として公開する、というスタイルで作品を制作しています。 その特異な制作手法への興味もあって、足を運びました。

ドイツ系移民のカルト団体が1961年チリに設立したコロニー Colonia Dignidad と その入植地でカルト指導者の下で拷問、性的虐待、殺害が40年以上繰り広げられていたという実話に着想した作品です。 コロニーのPR映画という設定の映画で、狼が主人のコロニーを脱走した少女 María が回心してコロニーに戻るまでを物語っています。 María は脱走先の小屋で2匹のブタに出会い、彼らを Pedro と Anna と名付けます。 Pedro と Anna はやがて人に姿を変え、一時は幸せに暮らしますが、 狼を恐れて小屋に閉じ籠っているうちにやがて食料が尽きます。 食料を求めて小屋を出ようとする María を Pedro と Anna は殺そうとしますが、María は狼に助けを求めて、コロニーに戻ることで助かります。

地獄のコロニー生活を抜け出した先も牢獄のごとく新たな地獄になってしまう、という、救いの無い悪循環の物語ですが、 ストップモーション・アニメーションの造形の異様さも、禍々しい雰囲気を強めます。 造形こそ異様なもののオーソドックスな人形アニメーションのように撮られる所もありますが、 壁にペンキで描いた絵を消したり上塗りしたりすることで動かしたり、 粘着テープを使って空間に立体を描くように人形の造形を作ってそれを動かすことで、 粗さの目立つ不自然な造形のストップモーション・アニメーションを作っていきます。 カメラが固定でなく、移動していくところも、不穏さを増していました。 壁にペンキで描くストップモーション・アニメーションと言えば 石田 尚志 [鑑賞メモ] もそうですし、石田もやはり立体への展開もしています。 この映画でも室内の家具や扉の表現に石田の作品と共通するものを感じましたが、石田の作品は非物語的な空間時間の構成を指向しています。 このようなアニメーション技法を使ってグロテスクに物語っている所に、León & Cociña の面白さを感じました。

Los Huesos [The Bones]
『骨』
2021 / Diluvio (CL), Globo Rojo Films (CL) / 14 min.
a short film by León & Cociña.
Art Direction: Natalia Geisse, Joaquín Cociña, Cristóbal León; Animation: Joaquín Cociña, Cristóbal León; Written and Directed by Cristóbal León & Joaquín Cociña.

併映の短編は最新の2021年作。 2023年に美術館建築に伴う調査で発掘された1901年制作の白黒サイレントの世界初のストップモーション・アニメーション、という設定の作品です。 少女が人骨を使って復活の儀式を行う様子を描いたもので、 儀式の復活によって現れるのは、 Pinochet 独裁政権下で制定された1980年憲法の作成に主要な役割を担った Jaime Guzmán と、 19世紀前半チリ内戦を勝利した保守派が制定した1833年憲法を作成した Diego Portales、 という、チリの権威主義体制を構築した2つの憲法の作者です。 この作品が制作された2021年は、チリで1980年憲法に代わる新憲法を制定するための制憲議会の選挙が行われており、それを意識した題材です。 といっても、白黒でセリフのない短編で、手法的にも人形アニメーション的な要素が強く、 『オオカミの家』ほど禍々しくはなく、あっさりめにでした。