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Review: 『地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング』 @ 森美術館 (美術展); 石田 尚志 『庭の外』 @ Taka Ishii Gallery (美術展); 池田 亮司 『data.gram』 @ TARO NASU Gallery (美術展); 毛利 悠子 『Neue Fruchtige Tanzmusik』 @ Yutaka Kikutake Gallery (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2022/11/07
Listen to the Sound of the Earth Turning: Our Wellbeing since the Pandemic
森美術館
2022/06/29-2022/11/06 (会期中無休), 10:00-22:00 (火-17:00).

「よく生きること」とは何かという企画意図というより、 最近、あまりチェックできていない現代アートの動向を垣間見るつもりで足を運んだのですが、 結局、好みだったのは、花粉やミルクをミニマルに造形した Wolfgang Laib (ドイツ) [関連する鑑賞メモ] の作品や、 スパイス香る Montien Boonmer (タイ) の立体作品など、 雑然とではなく象徴性を活かしつつもミニマルな形式的な傾向を持つ、むしろ20世紀的な作家でした。

初めて観たと思われる作家としては、台湾の Tsai Charwei (蔡佳葳)。 ちょうど新書でインド哲学/ヒンドゥー教について読んだばかりだったので、 曼荼羅や五粗大要素 –– もしくは他のサーンキヤ学派の五つ組の概念に着想しているであろうと一目で気付くことができた、というのも大きかったと思いますが、 現代的なミニマリスティックな作品に仕上げている所が好みでした。 (キャプションによると5つ組のタブローは「5人の知恵のダーキニー (荼枳尼天)」とのことでしたが。)

しかし、Montien Boonmer にしても、Tsai Charwei の作風にしても、最近のトレンドを感じさせるというより、 むしろ1990年代に度々あったアジアの現代美術展を思い出させられ、この頃の鑑賞体験が自分の好みを形作ったのかもしれないと反省させられました。

六本木に出たついでにComplex665やPiramide Bldgにある現代アートのギャラリーを軽く巡りました。 Art Week Tokyo というイベントをやっていたこともあるのか、いつもよりも比較的アタリが多かったような印象を受けました。 そんな中からいくつか鑑賞メモを。

石田 尚志 『庭の外』
Takashi Ishida “Beyond the Garden”
Taka Ishii Gallery
2022/10/15-2022/11/12 (日月祝休), 12:00-19:00.

粗い筆跡や飛沫のような抽象的なイメージのドローイング・ペインティングのタイムラプス的なストップモーション・アニメーションで知られる作家の個展です。 巻物のような紙へのドローイングに始まり、ギャラリーのような小部屋の壁へのペインティングへと展開していたのは知っていましたが、 この個展では、ストップモーションアニメーションながら、ドローイングやペインティングではなく、木製ボードを使って空間に作り込みをして制作されていました。 その形状は、方形から始まり、それを切り出してのペインティングでの粗い筆跡や飛沫を思わせるものから、それを組み合わせてレース模様のような網状に、もしくは木のような形に組んだり。 小部屋へのペインティング以降は、光の移ろいも大きな要素でしたが、 作り込みが平面から空間になって光や影の効果もいっそう面白くなっていました。 ビデオを展示・投影する空間にもアニメーション制作に使った木製ボードを使ったインスタレーションができますし、 展開が広がる可能性を感じる展示でした。 しかし、以前に横浜美術館で個展を観たのは2015年、もう7年前になるのか、と。

池田 亮司 『data.gram』
Ryoji Ikeda “data.gram”
TARO NASU Gallery
2022/10/14-2022/11/12 (日月祝休), 11:00-19:00.

Dumb Type での活動で知られる 池田 亮司 の個展です [2009年の個展の鑑賞メモ]。 壁面への投影、インスタレーションではなくモニターでの上映でのビデオ作品による個展です。 いつものデータの奔流の可視化といえばそうなのですが、抽象的な文字、数字の流れというより、 地図ベクトルデータや3D散布データの描き出しや、処理済ラスタ画像データのタイリングなど、 医療・生体情報や地図情報など空間上の配置に強い意味のあるデータの扱いに焦点が当たった展示になっていました。

Yuko Mohri “Neue Fruchtige Tanzmusik”
Yutaka Kikutake Galllery
2022/11/02-2022/12/02 (日月祝休), 12:00-19:00 (11/02-05 10:00-18:00).

今年初夏の『新しいエコロジーとアート』展のThe 5th Floor会場で展示していた [鑑賞メモ] フルーツの乾燥や腐敗の過程を音響化する 《Decomposition》シリーズの展開です。 元々、ブリコラージュ的な作風で [『日産アートアワード2015』の鑑賞メモ]、 The 5th Floorでの展示でも拡声スピーカを使うなどローファイな印象を受けましたが、 今回は20世紀後半の家具調オーディオセットをベースに、 そのレコードプレーヤーの場所にフルーツを置くようなインスタレーションでした。 当時の家庭でのオーディオセットの位置付けも想起させる所も興味深く、 レコードプレーヤーも残して組み合わせることで、音の可能性も広がるよう。 インスタレーションだけでなく、それを撮影した写真や録画したレコードへの展開は、ギャラリーならではでしょうか。