フィンランドの映画監督Aki Kaurismäkiの6年ぶりの新作は、都市下層低賃金労働者の中年男女のメロドラマ。 女性の主人公Ansaはスーパーマーケットの品出しをしていますが、廃棄食品を持ち帰ったり浮浪者へ与えたりしたことを見咎められ解雇。 続けて見つけたバーの洗い場の仕事は、給料日前日に店長が麻薬取引で逮捕され、タダ働きの憂き目に。 男性の主人公Holappaは酒依存気味で、機械修理工場で働いていますが、仕事中の飲酒が発覚し解雇。 そんな2人がカラオケでお互いを見初め、Ansaが働いていたバーの店主逮捕騒ぎで再会し、 電話番号の紛失、飲酒に関わる諍い、路面電車に轢かれる事故などでのすれ違いを重ねつつも、関係を深めていく様を描いています。 展開は古典的とも言えるすれ違いメロドラマで、セリフ少なく登場人物が歌い出すだけではないものの挿入歌に心情や状況を語らせるという形式も実にメロドラマでした。
その一方、メロドラマの主人公といえば上流階級や中間層で、美男美女がそれなりにオシャレに演じるのが普通ですが、 この映画では失業ギリギリの労働者が主人公で生活も慎ましやか。 演技も感情を煽り立てるようなものとは対極の無表情に近い演技で、セリフも短くぶっきらぼう気味。 そして、そんな中から激しい恋愛感情というより人情に近い、淡々とした愛情が控えめでさりげないユーモアと共に滲み出るかのよう。 廃棄食品の持ち帰りを見咎められる場面でAnsaの側に立つ同僚の女性たち、 工場を解雇された後もHolappaと付き合う友人Huotariもいい人で、 メロドラマというより都市下層を舞台とした人情物に近い味わいでした。
Ansaはネットカフェで求人を探し、ロシアのウクライナ侵攻のニュースがAnsaのラジオが流れるなど、現代を舞台とはしていましたが、 特にAnsaの部屋の雰囲気などミッドセンチュリー・モダンな雰囲気。 デートに行く映画館もJim Jarmusch: The Dead Don't Die がかかり、GoddardやBressonを口にする客が集う名画座。 カラオケなど俗な雰囲気も交えつつつも、俗悪にならないセンス良い扱い。 Holappaには酒依存の問題はあれどそれ以外の問題を抱えているようでもありません。 AnsaもHolappaもKaurismäkiの映画にしては美男美女。 そんな所は都市下層を美化しているところもあるかと思いますが、それも良い意味でメロドラマのお約束でしょう。 そんな寡黙で慎ましやかな生活の中にある静かな情の美しさを感じさせた —Jim Jarmusch: Paterson [鑑賞メモ] にも近い余韻が残った— 映画でした。
『落ち葉』公開に合わせて特集上映『愛すべきアキ・カリウスマキ』が組まれたので、 併せてこの映画を観ました。
舞台は1960年代のフィンランド、 仕立て屋の母の下で働いているロッカーズ (労働者階級のサブカルチャー) のValtoは、 コーヒーを切らしていることに腹を立てて、母を部屋に閉じ込めて、家を出奔。同じくロッカーズの自動車整備工のReinoとドライブに出、 途中で出会ったソ連からの観光客の女性2人を同乗させることになります。 そんな4人のドライブの様子、特に大きな事件は起きませんが、特に女性に奥手な男性2人が女性2人を持て余すギクシャクした展開を、オフビートなユーモアと共に描いた映画です。 モノクロで撮られていることもあり、少々ノスタルジックな雰囲気も良い感じです。 いつの間にかTatjanaと懇ろになったReinoはエストニア・タリンに残り、 Valtoは独り家に戻るのですが、部屋から出された母も、ミシンに向かうValtoもまるで時間が経ってないかのよう。 4人のドライブもValtoの頭の中でのわずかの間の時間の想像であったかのような終わり方でした。