TFJ's Sidewalk Cafe > Dustbin Of History >
Review: Jim Jarmusch (dir.): Paterson (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2017/09/10
2016 / 118min. / color.
Written and Directed by Jim Jarmusch.
Cinematography: Frederick Elmes. Music: SQÜRL.
Adam Driver (Patterson), Golshifteh Farahani (Laura), etc
Production: K5 International, Amazon Studio, Inkjet Production, in association with Le Pacte, Animal Kingdom (USA / France / Germany)
予告編 [YouTube]

1980年代に独立系の映画監督として頭角を現したアメリカの映画監督 Jim Jarmusch。 1990年代までは新作が出ると必ずのように観ていたのですが [レビュー]、 2000年代以降は新作映画への興味が薄れたこともあり、すっかり遠ざかってしまっていた。 前日、National Theater Live を観たときに予告編がかかって、それがとても良い雰囲気だったので、観に行ってみた。

アメリカはニュージャージー州パターソン (Paterson, NJ, USA) で働くバス運転手 Paterson の一週間の生活を淡々と綴った約2時間。 平日は朝決まった時間に起きて、働きに出て、帰宅後妻と夕食を食べて、犬の散歩ついでにいきつけのバーで一杯やってという、ルーチンな生活。 カントリーシンガーとかカップケーキ屋とか夢見がちと一癖ある妻がいるけれども、それで大問題を引き起こすわけでなく、可愛いと思える程度。 週末もフリーマーケットに出店する妻を手伝ったり、映画館に古い映画を夫婦で観に行く。 そんな Paterson は詩が好きで、そんな平凡な日常生活の中、詩を詠んでノートブックに書き留めている。 週末に詩を書き留めたノートブックを飼い犬にぼろぼろにされ、少々気を病むのですが、結局新たなノートブックがに入り、再び変わらない日常が続くという。 そんあさりげなく日常を観察したような即興的な詩を、映像化したような映画だった。 バス運転手のルーティンなささやかな日常生活が、この映画の中だけは詩的に感じられてしまうような。

ちなみに、映画中で使われた詩は、詩人 Ron Padgett が映画のために書き下ろしたもの [PBSの記事]。 William Carlos Williams は Paterson という詩を書いており、 Allen Ginsburg の生まれた町でもあって Howl にその名を読み込んでいることも、 映画の中に織り込まれている。 Paterson はそんな詩人たちへのオマージュも感じさせた。

一点のひっかかりは、Paterson が退役軍人というか帰還兵という設定ということ。 バス故障対応のエピソード、いきつけのパーで銃を持った男を取り押さえるエピソードなど、 そんな元兵士の片鱗を感じさせる場面もある。 そんな出来事があった翌朝の少々寝起きの悪い感じの描写などPTSDかと深く詮索したくもなります。 しかし、そんなこともとてもさりげない描写に止め、 大きな事件に発展させることなく話が進めていくところも、この映画の良さと感じた。

最近、オペラとかバレエとか、過剰なまでにロマンチックでメロドラマチックなものを観ることが多いので、 たまには Paterson のような映画を観て、過剰さを洗い流したいものです。