TFJ's Sidewalk Cafe > Dustbin Of History >
Review: カンパニーデラシネラ 『the sun』 @ 世田谷バプリックシアター シアタートラム (フィジカルシアター)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2024/03/31
世田谷パブリックシアター シアタートラム
2024/03/23, 17:00-18:10.
演出: 小野寺 修二.
出演: 數見 陽子, 丹野 武蔵, 大西 彩瑛, 鈴鹿 通儀, 藤田 桃子, 小野寺 修二; 桂 小すみ (三味線演奏).
照明: 阿部 康子; 音響: 池田 野歩; 美術: 松岡 泉, 石黒 猛; 衣装: 今村 あずさ; 舞台監督: 橋本 加奈子, 鈴木 章友; イラストとチラシデザイン: チャーハン・ラモーン; 稽古手話通訳: 清田 真見, 井本 麻衣子; 制作協力: 河野 遥
新作公演.

マイムをベースとしたカンパニーデラシネラ [関連する鑑賞メモ] の新作は Albert Camus の未完の自伝的小説をモチーフにした作品です。 モチーフが採られた小説はおそらく Le Premier Homme『最初の人間』 (1994) かと思われますが、 フライヤや当日リーフレットにもタイトルが明記されていませんでした。 このカンパニーは必ずしも台詞を排した作品作りをしているわけでは無いですが、この作品では、三味線演奏者の歌はありましたが、台詞なしでした。

祖母役こそ 藤田 に固定されていましたが、1人で複数役が演じられます。 さらに、冒頭の場面こそ馬車での旅、そして出産準備のシーンでしたが、 父の墓参りの場面や鶏小屋の場面などは終わり近くにあります。 衣裳や美術も抽象度は高く、 日干しレンガを思わせる土くれた質感のスケールを三分の一程度にした方形を組みあわたような建物のセットが、 そして祖母のスカーフと、時折被られる赤いトルコ帽が、近代の旧オスマン帝国領 (フランス植民地時代のアルジェリア) が舞台であることをかすかに想起させる程度です。 そんなこともあってか、小説の展開や登場人物の内面などを追うナラティヴな作品ではなく、断片的なイメージのスケッチを積み重ねていく抽象度高めの作品に感じられました。

そんなスケッチの中では、影を上手く使った墓参の場面や、 冒頭の馬車の場面や中盤にあった列車での移動の場面など建物のセットを他のものに見立てる場面などに、いかにもデラシネラらしい演出を楽しみました。 銃やピストルの小道具も使われましたが、戦争や暴力の影を感じる程度。 いくつかのスケッチで使われた、ふと蘇った記憶か幻影かのように周囲の人が消える終わらせ方、 そしてラストの電燈を見上げる場面などから、ノスタルジックというか感傷的な余韻を残しました。 その一方で、テーブルの移動やライティングで場面を切り替えるものの、 舞台奥中央にどっしり動かない日干しレンガの建物風のセットがあったせいかダイナミックな空間変容は感じられず、 動きが控えめな静かなスケッチが連なるようでした。

カミュの母はろう者だったというエピソードにフライヤで触れており、 日本ろう者劇団の 數見 陽子 が出演していましたが、 手話に疎いからかもしれませんが、開演直前の注意事項の案内を除いて明らかにそれとわかるような演出はありませんでした。 また、音楽は寄席囃子の 桂 小すみ による生演奏に、録音を重ねたもの。三味線演奏とクレジットされていますが、太鼓などの打楽器も使いました。 ミュージカル専攻というバックグラウンドを活かしてオペラ (記憶が怪しいですが確か La traviata) の一節を歌ったりもしましたが、 録音では取って付けた感が強くなる所、それとは違った異化作用を感じられて、そこに生演奏の良さを感じました。