スイス・ジュネーヴのオペラハウス Grand Théâtre de Genève の タンゴ・オペラ Ástor Piazzolla: María de Buenos Aires 2023/2024シーズン新演出です。 演出を手がけるのは、Cirque de Soleil で Luzia、 Corteo というショーの演出も手がけ、 スイス・ルガーノ (Lugano, CH) を拠点にコンテンポラリー・サーカスの要素を多く含むインターディシプリナリーな舞台を制作するカンパニー Compagnia Finzi Pasca を率いて活動する Daniele Finzi Pasca。 Compagnia Finzi Pasca のサーカス・スキルを持つパフォーマー男女3名ずつをフィーチャーし、 各所でアクロバットやエアリアルなどのパフォーマンスを交えながらの上演です。 María de Buenos Aires の上演は生で観たことはないものの、 以前にも ARTE Concert の配信で観たことがありましたが [鑑賞メモ]、 コンテンポラリー・サーカス色濃い演出 (トレイラー [YouTube]) に興味を引かれて ARTE Concert の配信を観ました。
冒頭の場面から María の葬られた集合墓地の前でアクロバティックなダンス、 娼館を思わす高い足場に舞台が転換してからは、歌手と交錯しつつのシル・ホイール (Cyr wheel)、ポールダンスやベルトを使ったエアリアル。 前半最後の María の死の場面では、アクロバットのリフトでエンジェルが舞い、歌手と交錯しつつ大旗をトワリング。 後半に入って、一転、舞台は裏びれた下町の煤けた路地裏のようになり、 大勢の娼婦がゾンビのようになって舞うかのようなパペットダンス (Christpher で知られるパペットをバーで繋いでのダンス)、そして小悪魔に絡む酔っ払いクラウン。 その後、舞台装置がほとんど無いブラックボックスの舞台とライティングによるミニマリスティックな演出で、 ラストのダイナミックなシル・ホイールからフィギュアスケート、そして、リングのエアリアルへの繋ぎ、 ダイナミックなシル・ホイール、10m四方程のリンクを舞台に設置してのフィギュアスケート、そしてそこから、リングのエアリアルへ繋いで、María の昇天を描きます。 そこから、冒頭の María の葬られた集合墓地に戻り、人々が María を弔って終わります。
オリジナルは男女2名の歌手で歌われますが、この演出では女声2名で、男声パートを歌う女性は見た目は María でしたがパジャドール (payador, 南米の吟遊詩人) という役付け。 また、初演では Horacio Ferrer 自身が演じたという狂言回し的な小悪魔 (el duende) の役も、男装ながら Compagnia Finzi Pasca の女優2名が掛け合いで演じます。 男声がなくなることで亡霊となった María が精神分析を受ける場面は舞台上では明示的には描かれ無いことはもちろん、 全体を通してストーリーの細部を演じてみせるような演出ではありませんでした。 このような男性視線を消すような登場人物の変更もあって、María が娼婦になり死んでいくその運命に翻弄されるような様をサーカス・スキルをもって象徴的に描きつつ、 María の死を悼む女性たちの María の思い出をシスターフッド的な共感を通して描いているようにも感じられました。
コンテンポラリー・サーカス色濃い演出に興味を引かれて観たのですが、 Piazzolla のタンゴという音楽とサーカス的なアクロバティックなパフォーマンスとの相性は良く、 6人が様々な技をこなして場面を作り出ていく様も見応えありました。 María 役の女性歌手もオーケストラや大掛かりで、舞台装置もゴージャスながら象徴的でライティングを巧みに使った演出も現代的。 ゴージャスな生伴奏と演出によるコンテンポラリー・サーカスを観るようでもありました。
Grand Théâtre de Genève では、 María de Buenos Aires 以前の2019/2020シーズンにも Daniele Finzi Pasca は Philip Glass & Robert Wilson: Einstein on the Beach の新演出を手がけています。 トレイラー [YouTube] を観る限りではコンテンポラリー・サーカス色濃い演出で、配信かDVD/BDで全編が観られたら、と。 その一方で、オペラのような大掛かりな舞台だけでなく、Compagnia Finzi Pasca は Bianco su Bianco のような 男女のクラウンによる二人芝居もレパートリーに持っています。 トレイラー [YouTube] の雰囲気も良く、 公共劇場の海外カンパニー招聘枠でこのような小規模なプロダクションでも良いので呼んでくれれば、とも思います。