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Review: Soundies 『サウンディーズ 元祖ミュージック・ヴィデオ』 (映画); Julian Benedict: Play Your Own Thing - Jazz in Europe 『自分の道 欧州ジャズのゆくえ』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2024/09/08

今回で4年目となる音楽映画の上映企画 Peter Barakan's Music Film Festival 2024。 今まで予定が合わずに見逃してきましたが、今回、以下の2本を観てきました。

Soundies
『サウンディーズ 元祖ミュージック・ヴィデオ』
1940-1946 / various productions / distribution: Kino Lorber (US) / 86 min.

サウンディ (Soundie) は1940年から1946年にかけてアメリカで製作された1曲約3分間の短編音楽映画です。 バーや食堂に置かれた映像ジュークボックスとも言えるパノラム (Panoram) と呼ばれるコイン投入で16 mmmフィルムをリア投影する装置で上映するためのコンテンツでした。 そのアメリカ議会図書館 (Library of Congress) のコレクションを修復したものを、 アメリカ Kino Lorber が Soundies: The Ultimate Collection として配給しています。 その全200曲10時間の中から、Peter Barakan が選んだ主にブラック・ミュージックのサウンディ30曲が上映されました。

登場するのは Count Basie, Cab Calloway, Hoagy Carmichael, Nat King Cole, Dorothy Dandridge, Duke Ellington, Sister Rosetta Tharpe, Louis Jordan など。 全員女性のジャズ・バンド International Sweethearts of Rhythm のものもありました。 音楽スタイルとしてはスイング時代のジャズやブギウギ、ゴスペル、ジャンプ・ブルースやその混交といったものですが、 当時の映画やジャズの位置付けでもあると思いますが、エンタテインメント色濃い作りです。 ミュージックビデオの先駆と言われていますが、演奏風景の使い方やダンスや演劇的演出を交え方にそのその原点を見るようでした。 そして、それだけではなく、アーティなモダンジャズとなる前、 まだジャズがエンタテインメント色濃いポピュラー音楽だった時代を、映画館の大画面と音響を通して、生き生きとした姿で体験できました。

サウンディは第二次世界大戦開戦直後、アメリカ参戦直前の1940年から、終戦直後の1946年に作られたもので、 Louis Jordan の “G.I. Jive” や “Ration Blues” のテーマにその時代を感じましたが、 少し前にNFAJの上映企画 『返還映画コレクション (2)』で同時代の日本映画を観たところだったので [鑑賞メモ]、 全体としては戦意高揚などとは無縁な娯楽な作りという点も、印象を残しました。

『自分の道 欧州ジャズのゆくえ』
A film by Julian Benedikt
2006 / Benedikt Pictures (de), ZDF/ARTE (de), SFDRS (ch), NRK (no), YLE (fi) / distribution: EuroArts Entertainment (de) / 88 min.

タイトルからして2000年前後の動向も盛り込まれているのかと予想しましたが、 むしろ、第二次大戦後から1970頃までの欧州でのジャズの受容をアーカイブ映像やインタビューで追います。 1950年代パリでの Miles Davis との関係を Juliette Greco に語らせたり、 1960年代コペンハーゲンでの Dexter Gordon の果たした役割に焦点を当てたり、 仕事を求めて、もしくは、人種差別を逃れて欧州へ来たアメリカとのミュージシャンとの人的交流を通して、 そして欧州のミュージシャンが自身の声を見つけて欧州でのジャズを確立させる様子を浮び上がらせて行きます。 また、西欧だけでなく Joachim Kühn や Tomasz Stanko を通して当時の共産政権下東欧でのジャズの受容にも光を当てます。 書籍やライナーノーツなどを通してある程度知っていたつもりでしたが、欧州の公共放送局の豊富なアーカイブ映像が駆使され、かなり見応えありました。 ドイツ、スイス、ノルウェー、フィンランドの公共放送局が制作に加わっていますしARTEで放送されたのではないかと推測しますが、いかにもARTEで放送しそうなしっかりとした作りのドキュメンタリーです。

Christian Wallumrød, Arve Henriksen (Punkt Festivalでの映像), Gianluca Petrella (Enrico Ravaのサイドメンとして), Marcin Wasilewski (Tomasz Stankoのサイドメンとして) など、 21世紀に入って活躍するミュージシャンの演奏の映像も交えますし、 最後に ECM と Rainbow Studio の様子を捉えるのですが、 そこを深掘りすることはなく、むしろ、1970年代までの受容と消化、アンデンティティの確立の上に、 ECM やそれに強く影響を受けたそれ以降の現代欧州ジャズがあるということを示唆するようでした。