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Review: Rachid Ouramdane / Compagnie de Chaillot: Corps extrême @ 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール (サーカス/ダンス)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2024/11/02
ラシッド・ウランダン/シャイヨー国立舞踊劇場カンパニー 『身体の極限で』
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
2024/10/26, 19:00-20:05.
Conception: Rachid Ouramdane.
Performers: Tamila De Naeyer, Belar San Vicente, Lisandro Gallo, Joël Azou, Valérian Moutiers, Maxime Seghers, Charlie Hession, Nicolò Marzoli, Camille Doumas (climber), Antoine Crétinon (highliner).
Music: Jean-Buptiste Julien; Video: Jean-Camille Goimard; Lighting: Stéphane Graillot; Costumes: Camille Panin.
Production: Chaillot - Théâtre national de la Dance; With the support of: Dance Reflections by Van Cleef & Arpels.
World Premiere: Montpellier Dance (France), 2021-06-23.

Chaillot - Théâtre national de la Danse 芸術監督 Rachid Ouramdane の今回の来日では、 2022年来日公演でのCompagnie XYとのコラボレーション Möbius [鑑賞メモ] に続き、 アクロバットのパフォーマンスを使った作品を上演しました。 それも、2名の女性フライヤー (上でバランスを取ったり投げられたりする役) を含む8名のアクロバット・パフォーマーに、 ハイライン (highlining) とフリークライミング (free climbing) という2種のエクストリーム・スポーツのパフォーマーを1名ずつ加えた編成です。 ハイラインは崖の間のような長距離高高度の2点間に張った幅数センチのベルト (スラックライン / slackline) の上を歩いて渡るもので、 フリークライミングは安全確保目的以外で人工的な支点を使わずに岩壁を登るというものです。

舞台後方にはボルダリング (bouldering) 用のホールドが配された白い人工壁面が立ち、 高さ5m程の所に上手前方から下手後方へスラックラインが張られていました。 ハイライナーの1名は終わり近くを除きほぼスラックラインの上でしたが、 フリークライマーの女性1名はアクロバット・パフォーマーたちと入り混じり、 フリークライマーもフライヤーになったり、アクロバット・パフォーマーもボルダリングもこなして、パフォーマンスを繰り広げます。

人工壁面はビデオ投影用スクリーンとしても使われ、 最初に、自然の中の極限的な環境でハイライニングする様子を捉えたビデオが投影され、 パフォーマンスの動機や最中の感覚などの証言が (日本語吹替で) 流されます (証言はビデオ中のパフォーマーのものですが、舞台上のパフォーマーは別の人です)。 その映像の後、それを受けるかのように、スラックライン上のパフォーマーと アクロバット・パフォーマーたちが触れ合いそうで届かないようなパフォーマンスが繰り広げられます。 中盤にはビデオ投影なしでフライヤーの証言が舞台上のフライヤー1名 (やはり証言者と舞台上のパフォーマーは別の人) の静かな身振りを重ねつつ流される場面が、 後半にはフリーフライミングする映像を投影しつつその証言が流される場面がありました。

アクロバットのパフォーマンスでは、フライヤーを投げる技、壁面のボールドから飛び降りる技も使いましたが、力強くダイナミックに大技を見せるような技の使い方はせず、 むしろ、大きな動きをせずに繊細に力を加減してバランスを取っていくハイライニングやフリークライミングに寄せた動きが多用されていました。 ハイライニングやフリークライミングは大自然の中の極限的な環境の中でこそのパフォーマンスです。 ビデオでその様子は見せるものの舞台の上で極限的なパフォーマンスを披露するのではなく、 パフォーマーの証言に垣間見えるハイライニングとフリークライミングにおける意識を集中した時間の中での静かに研ぎ澄まされた感覚を、 8人のアクロバット・パフォーマーを加えてのパフォーマンスで変奏して可視化していくのを観るようでした。

3つの証言うちハイライナーとフリークライマーがポジティブな内容である一方、フライヤーの証言は失敗時のネガティヴな内容です。 また、2022年のMöbiusでは音楽としてテクスチャのような電子音が使われていましたが、 この作品では、エフェクト強めで音数少なめなフレーズを訥々と弾くエレクトリック・ギターが多用されていました。 抽象的な電子音の方が極限的なパフォーマンスと精神のスタイリッシュな表現には合ったかもしれないですが、 少々感傷的な音楽を使い、ネガティブな証言も交える所に、むしろ、パフォーマンスの中に垣間見える人間味ある奥行きを感じました。