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Review: 『もはやない国のかつてない光 東ドイツの女性写真家たち』 Unprecedented: Women Photographers from the DDR @ 神奈川県立近代美術館 葉山 (写真展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2026/07/20
Unprecedented: Women Photographers from the DDR
神奈川県立近代美術館 葉山
2026/06/13-2026/08/30 (月休;7/20開), 9:30-17:00.
Tina Bara, Christine Becker, Sibylle Bergemann, Christiane Eisler, Margit Emmrich, Ute Mahler, Eva Mahn, Elisabeth Meinke, Helga Paris, Evelyn Richter, Gundula Schulze Eldowy, Maria Sewcz, Gabriele Stötzer, Brigitte Voigt, Renate Zeun.

Stiftung Reibeckhallen の Die Sammlung Sven Herrmann に基づく、 第二次世界大戦後は共産党政権下にあり1989年東欧革命を経てドイツに統一された東ドイツにおいて活動した女性写真家の展覧会です。 多くは冷戦終結後も活動を続けていますが、展示は全て東ドイツ時代、1950年代後半から、主に1970年代から1980年代にかけての写真です。 この展覧会に取り上げられた写真家の多くはライプツィヒを拠点としており、 代表的な写真グループとしては写真家 Arno Fischer らが1960年代半ばに結成した Direkt があり、 ライプツィヒのモード・カルチャー誌 Sibylle などを発表の場にしていたとのこと。

ドキュメンタリー、ファッション、ポートレイト等の写真から フェミニスティックなコンセプチャル・アートのメディアの一つとしての写真まで、様々な文脈の写真がありましたが、 党の公式イデオロギーや公式芸術の社会主義リアリズムとは距離置いた、人々の日常を静かなトーンで捉えた白黒写真が中心です。 以前に 『われらバルトに生きて』 Human Baltic 展 [鑑賞メモ] で観たバルト三国でのヒューマニスト写真運動の写真表現にも近いものを感じました。

作風としては、同時代の欧米・日本の写真に見られるカウンターカルチャーの影響下でのアレブレのような技法ほとんど見られず、 また、社会主義リアリズムの様な大袈裟な演出も避けられているせいか、即物的な戦間期以来のモダニズム写真の直系とも感じられました。 明確に反体制的な作風はありませんでしたが、 社会主義リアリズムの作風でないと美術大学を退学になったり (Evelyn Richter)、 政治的拘束を経験後に西ドイツへ移住したり (Margit Emmrich)、など、 共産政権下での写真家として自由に活動することの難しさを伺わせるエピソードはありました。

中でも最も印象に残ったのは、後に (1985年に) Fischer と結婚する Sibylle Bergemann と、 この展覧会の出展写真家の少なからずが活動の場とした Sibylle (Bergemann もこの雑誌に写真が掲載されているが、創刊は1956年で、名前の一致は偶然)。 ポスターやフライヤなどに大きくフィーチャーされた Bergmann の Anette und Angela, Lustgarten, Berlin (1982) だけでなく、 Elisabeth Meinke や Ute Mahler など、Sibylle 誌の写真に質の高いものが多かったことに気付かされました。

ファッション写真といえど、共産圏ということもあってか商業的な色気が少なめで、またモノクロ写真中心ということもあって、 余白をとって余韻を感じさせる構図なども使い、詩情を感じる芸術的な演出写真作品のように仕上がっていました。

ファッション写真以外の中では、無人の集合住宅の居間を正面に撮った Sibylle Bergemann の連作 P2 (Berlin-Lichtenberg, Wohnzimmer eines Häuserblocks) (1981) や、 Margit Emmlich によるカラーでの居間での家族写真の連作 Wohnzimmer (1975-1976) など、 20世紀半ば共産政権下の一般の人々の日常をタイポロジー的に記録しているような興味深さがありました。 これらは、西ドイツの同時代の Becher-Schule を思わせる作風で、間接的に影響があったのでしょうか。それとも、独立に生まれたものなのでしょうか。

Sibylle Bergemann は詩情溢れるファッション写真、Becher-Schule を思わせるコンセプチャルな写真だけでなく、 共産政権の象徴である Marx や Engels の像が作られる過程を即物的に捉えた Das Denkmal (1975-1985) という写真も撮っています。 最初は私的に、その後、国の文化省の公的委嘱で撮られたとのことですが、 プロパガンダ写真的にも演出できる素材ですが、像の断片や吊り下げられた像を淡々と即物的に撮ることで、 公的な国家イデオロギーを客体化、相対化するコンセプチャルな写真として成立していました。 このような作品からも、Bergemann の作品の奥深さを見ました。

今回は元になるコレクションの性格もあってか女性写真家に焦点を当てた構成でしたが、 出展写真家の少なからずが参加していた Direkt の切り口で、Arno Fischer ら男性写真家も含めた構成で観たかったようにも思いました。 また、Sibylle Bergemann, Ute Mahler を含む東ドイツ出身の写真家が1990年に結成した写真エージェンシー Ostkreuz による 1990年代ベルリンの写真の展覧会 Träum Weiter — Berlin, die 90er [Dream On — Berlin, The 90s] (C/O Berlin, 2024) も、続編として是非、日本へ持ってきて欲しいものです。 今回は上映タイミングが会わずに見逃しましたが、出展作家の中では Gabriele Stötzer が登場するドキュメンタリー映画 Die Unbeugsamen 2 - Guten Morgen, ihr Schönen 『不屈の女たち─旧東ドイツ編』 (Torsten Körner (Regie), 2024) もいずれ観てみたいものです。 また、『われらバルトに生きて』 Human Baltic 展を思い出すに、 東ドイツやバルト三国以外の東欧・旧ソ連にも同様な写真の動きがあったのではないかと想像します。 そのような動きを掬い上げるような写真展があれば、観てみたいものです。

同時開催のコレクション展は『「鎌倉近代美術館」と昭和の美術』。 学芸員として長年勤めてきたその思い入れたっぷりの館長トーク付きで楽しみました。 是非座ってみて欲しいとのことで、坂倉準三建築事務所が美術館に合わせて作ったソファ風の低椅子の座り心地良さを体感しました。 通常は展示されないものらしい話だったので、東ドイツの女性写真家展に行ったついでに、座り心地を体感することをお勧めします。