Royal de Luxe は、1979年に結成され、 1979年以降フランス・ナント (Nantes, Pay-de-la-Loire, FR) を 拠点に活動する巨大人形劇カンパニーだ。 その Royal de Luxe の “theatrical machines” を担当してきたカンパニー Le Machine が、日本にやってきた。 横浜の 開港博Y150中のイベントという位置付けだ。
Les Mécaniques Savants は、 去年9月にイギリス・リバプール (Liverpool, England, UK) で初演された作品 [関連発言]。 その続きとなる、高さ10m以上ある巨大な機械蜘蛛2匹、 リバプールで登場した Princess と、今回初登場の Lady を使ったパフォーマンスが、 4月16日(木)から19日(日)にかけて、 横浜みなとみらいの新港地区界隈で繰り広げられた。 そのうち、18日(土)晩と19日(日)午後のパフォーマンスを観てきた。
16日(木)に象の鼻に巨大な蜘蛛が一匹漂着、 17日(金)は赤レンガパークでパフォーマンスが、 18日(土)昼は漂着した蜘蛛の 赤レンガパークから新港埠頭への蜘蛛の移動が、行われたようだ。 この漂着した蜘蛛はリバプールの Princess だったようだ。 (実際に観たわけではないので、間違っているかもしれない。)
18日(土)の晩は、新港埠頭で水上パフォーマンスが行われた。 Lady はコンテナの上に座らせたまま全く動かさず、 Princess のみを大型クレーンで吊下げ、水と煙を使ったショーを行った。 19日(日)は、14時頃に新港埠頭から Princess を先に2匹が移動開始。 まずは赤レンガパークでパフォーマンスを行った。 さらに、2匹は新港橋を渡って横浜税関前へ。 予定では2匹はみなと大通りと湾岸通りの二手に分かれることになっていたが、 2匹とも湾岸通りへ左折。 さらに、日本大通りへ右折して、 横浜地方裁判所の前でパフォーマンスを行い、17時前に一旦休憩。 休憩後、17時半頃に、横浜地方裁判所の前を出発し、 今度は Lady を先にして、来た道を戻って新港地区へ。 19時頃から、新港埠頭で水、煙、火を使ったフィナーレ。 最後は Princess を乗せ水や煙、火に包まれた浮島が埠頭を離れて、 一連のパフォーマンスは終った。
今回の横浜でのパフォーマンス以前から Royal de Luxe や La Machine のヨーロッパでのパフォーマンスを ウェブや本で追いかけてきて、 新港のような郊外的なエリアよりも、昔ながらの建築が残るエリアの方が、 彼らのパフォーマンスの舞台としては良いだろうと予想していた。 そして、20世紀前半の建築が多く残る日本大通りでのパフォーマンスを最も期待していた。 実際に18日(土)、19日(日)と観て、 最も面白かったのは、やはり横浜税関から日本大通りへの移動だった。 古い建築を背景に新緑の街路樹の中に巨大蜘蛛も映えていたが、 特に見所だったのは、道路標識や信号機をかわす動きだった。 信号機を跨ぐように大きく足を振り上げたり、 大きな案内標識の下をくぐるように低く身を伏せたり。
確かに、新港埠頭でのパフォーマンスは水や煙を使った判りやすく派手なものだった。 しかし、機械蜘蛛までの距離が遠く、 蜘蛛の動きも単に足をうごめかせているだけのように感じてしまう。 機械の動きそのものの迫力を楽しむというより、 水や煙を使った大がかりな演出を観るという感じだ。 しかし、特に日本大通りへの移動では、歩道ぎりきり、 手を伸ばせば触れる程の所を機械蜘蛛の足がかすめ、迫力満点。 また、道路上に突き出た信号や道路標識などをかわしながら進まなくてはならないので、 その動きの必然性、絶妙さを、より楽しむことができた。
この La Machine の面白さは、 単に巨大な機械仕掛けの蜘蛛などを動かすというだけでなく、 演劇的な仕掛けもある所だ。 特に、日本大通りへのパレードでは、2匹の巨大蜘蛛の移動を、 狂言回しというか道化的な役割を持つフランス人科学者という設定の Joseph Browning (リバプールの時にも登場していた) が先導していた。 彼に「あれは何ですか」と声をかけると (自分はフランス語は話せないので英語でだが)、 「あの蜘蛛は2匹とも雌で、こっちのは名前を Princess というんだ。あっちの名前は Lady。 Princess はリバプールからやってきたんだ。2匹一緒は初めて。 出会えたのが嬉しくて、ここを歩き回ってるんだ。」 なんて感じで、パフォーマンスの背景にある設定を物語ってくれた。 こういうやりとりを楽しめるのも、 機械までの距離の近い古い市街地でのパフォーマンスならではだろう。 そういう点でも、日本大通り界隈のパフォーマンスの方が楽しめた。
若干深読みし過ぎかもしれないが、 Princess は水遊び火遊びが好きで、新港埠頭からの散歩も先に立つし、 赤レンガパークへ行く途中で寄り道、と活発。 一方の Lady は水遊び火遊びもせず、散歩も Princess の後に付いて、 赤レンガパークへも直行、と大人しい感じ。 そういうキャラクターの演じ分けがされていたように感じた。 予定では、みなと大通りを一匹が大回りする予定だったのだが、 大回りする予定だったのは Princess の方だったのではないだろうか。
また、音楽も録音済みのものを流すのではなく、 生演奏の楽隊が自走式の高所作業車に乗って機械蜘蛛に伴走。 機械蜘蛛の運転操作も集中化して半自動化することなく、 足一本毎にオペレータを付けてそれぞれを操作していた。 このように、演奏や操作する人を隠さずに、あえて晒すことにより、 あくまで人によるパフォーマンスであることを強調していたように感じた。
演奏していた音楽は、 室内楽っぽさもある jazz rock のことが多かったように思われた。 別々の高所作業車に分かれて乗りながら、 パフォーマンスの進行に合わせて演奏していたわけだが、 どのやって各パートの演奏を合わせたり、曲の切替えをしていたのだろうか。 もちろん、モニターのスピーカーやヘッドホンは使っているだろうが、 パフォーマンスに合わせるための指揮などをどうしているのかが、気になった。
少々残念だったのは、リバプールではやっていた 蜘蛛をビルの壁面に止まらせたりするようなことが無かったこと。 みなとみらい地区のビルに巨大な機械蜘蛛が止まっている所を観てみたかったようにも思った。 新港埠頭でのパフォーマンスは確かに派手に水や煙を使ったけれども 安全に隔離された舞台でのショーのようなものだった。 日本大通り界隈のパレードも、 路上の障害物をかわす以上の面白い動き・演出は感じられなかった。 こちらの期待のレベルが上がり過ぎたのかもしれないが、 若干、無難なパフォーマンスだったかな、と感じるところもあった。
向かって左、新港埠頭の付け根側で静かに開演を待つ Princess。 18日晩のパフォーマンスの主役。 Princess が大好きな水上散歩を楽しむ、という設定です。
向かって右、新港埠頭の先端、コンテナの上で休む Lady。
Lady の左隣に陣取る楽隊。パフォーマンス開始直前、スタンバイ中。
まずは高く吊り上げられる Princess。
噴水をバックに、水面近くまで下ろされる Princess。
尻から水を吹きつつ、水面を歩くように移動する Princess。
煙に包まれる Princess。
水と煙に包まれる新港埠頭。 Princess がいるのは、左のクレーンの下のあたり。 楽隊や Lady のいる右側は水、煙で見えません。
再び高く吊り上げられる Princess。霧を吐きながら足を畳んで休眠状態へ。
パフォーマンス終了。蜘蛛から降りるオペレーターたち。
尻や口から水を吐きつつ、新港埠頭を出発する2匹。 まずは Princess。
続いて Lady。
真っ直赤レンガパークへ向かわず、 海上保安資料館横浜館の方へ寄り道する Princess。 その向こうに半月型のビルは、 ヨコハマグランド インターコンチネンタルホテル。設計は日建設計、竣工は1991年。
寄り道せずに真っすぐ赤レンガパークへ向かう Lady。 奧の観覧車は、 よこはまコスモワールドの 大観覧車コスモクロック21。 ちょうど20年前、1989年の開港130周年・市制100周年記念の横浜博覧会の出展施設で、 当時は世界最大でした。 ちなみに、手前の赤っぽいビルは 横浜ワールドポーターズ、 奧の高層ビルはククイーンズスクエア横浜の クイーンズタワー。
横浜赤レンガ倉庫2号館 (旧2号倉庫、設計 大蔵省臨時建築部 (部長 妻木頼黄)、1911年竣工) の東側を行く Lady。
オペレーターだけでなく、Lady を手なづけた探険隊員が足に乗っています。 もちろん、Princess の方にも探検隊員が足に乗っていました。
口や尻から水を吐きながら赤レンガパークに Lady が登場。 楽隊も追ってきています。
広場を囲むように楽隊が配置。 中央に探険隊のショベルカーが登場。 前輪が無く、ショベルで地面をかくようにして、ガクガクと前身。 屋根の上にも隊員がいて、ちょっとした曲乗り。 奧から Princess も登場。Lady はフレームの左外にいます。
ガクガク動くショベルカーの回りで、探険隊員たちがパフォーマンス。 立ち位置が悪くて、Lady の足の陰になってしまいました。
テンション高めの音楽に合わせて、 向かい合って足をうごめかす Princess (左) と Lady (右)。 中央でショベルを振り回すショベルカー。 奧では4本の煙突状のものがノイズを立て、その下では間欠的に炎があがっています。 ちょっとした、機械のダンスでした。
再び移動を始め、赤レンガパークを後にする蜘蛛2匹。 先を行くのが Princess、後に続くのが Lady です。 ちなみに、2匹を見分けるポイントは、腹の下の形。 Princess は、腹の下に茶色い丸が2つ、そして尻先近くにフックのようなものがあります。 Lady は、腹の下に丸い模様は無く、腹の尻先近く (Princess ではフックがある所) に瘤様のものがあります。 この時点はまだ2匹の設定を知らなかったので、雌雄の違いかと思っていました。
新港橋を渡り海岸通りの方に向かう Princess。 人が鈴生りになっている高架は、新港と山下公園を結ぶ山下臨港線プロムナード。 新港埠頭と山下埠頭を結ぶ東海道本線の貨物支線 (通称 山下臨港線、1965年開通、1986年廃止) の廃線跡を、 2002年に遊歩道として整備したものです。
横浜税関の前を行く Lady。 横浜税関は、大蔵省営繕管財局工務部の設計で、1934年竣工。 モスク風の塔が特徴です。塔の高さは51m。
横浜税関前の交差点を左に折れ、海岸通りに入った所で、 道路案内標識と渋滞センサーの下をくぐるために身を伏せる Princess。 おそらくこれが最低姿勢。
開港資料館前交差点を海岸通りから日本大通りへ右折する Princess。 手前の信号機をよけるために、足を大きく振り上げています。 後に見えるレンガの3階建ては 昭和ビル、川崎 鉄三 の設計で、1930年竣工。
新緑の日本大通りを進む機械蜘蛛2匹、手前が Princess、奧が Lady。
神奈川県庁本庁舎の前を行く Princess。 神奈川県庁本庁舎の設計は 小尾 嘉郎 で1928年竣工。 「キングの塔」とも呼ばれる日本の仏教寺院塔のような塔が特徴です。 いわゆる帝冠様式。 塔の高さは横浜税関よりちょっと低い48.6m。
港郵便局前交差点で Princess が転回し、Lady と向かい合う形に。 そのまま、Princess はバックで進みます。
横浜地方裁判所前を進む Lady。 旧建物は、大蔵省営繕管財局 の設計で、1929年竣工でした。 現在は低層部分で旧建物を復元した高層 (13階) のビル (2001年竣工) になっています。
横浜地方裁判所前で2匹が絡み合う程に近付いてのパフォーマンス。 手前が Princess で奧が Lady。 Princess 側の2台の高所作業車の上から泡もしくは煙のようなものを降らせたり。
日本大通りからの帰りは、楽隊が先導。 楽隊用高所作業車のプラットホーム下の黒い箱状のものは、スピーカーです。
さすがにピアノは使っていないようでしたが、 ハープ (左) やコントラバス (右) のような大型の楽器も高所作業車に乗せていました。
楽隊には日本人らしきミュージシャンも交じっていました。 楽隊全員をフランスから呼んだわけではなく、 一部は日本でオーディションしたのでしょう。
巨大蜘蛛の専門家の謎のフランス人科学者 Joseph Browning 氏 (笑)。 彼からあの巨大機械蜘蛛2匹について教えてもらいました。 ちょっと話した後、カメラのためにボーズをとってくれました。 近くにいた人に頼んで、一緒に写真に撮ってもらえばよかった、 と、後になって、ちょっと思ったり。
帰りは Lady が先に行き、Princess が後から。 2匹の順番を入れ換えられる程の道幅はありません。
港郵便局前交差点の信号機をまたぐために、右側の足を高く上げている Lady。 写真左は 横浜文化情報センター、旧横浜商工奨励館です。 旧横浜商工奨励館 は 横浜市建築課 設計 1929年竣工の Art Deco なビルでした。 現在は低層部分で旧建物を復元した高層のビル (2000年竣工) になっています。
Lady の胸部下。 台車からの太い黒いアームが胸部下に伸び、蜘蛛を支えています。 そしてそこを取り囲むように足一本ごとに操縦席があり、 オペレーターが足を操作しています。 日本人らしきオペレーターも交じっています。 全てのオペレーターをフランスから呼んだわけではないようです。
Princess の台車部分。 巨大機械蜘蛛は、その足で自立して自分で歩いているのではなく、 この台車に支えられて移動しています。 巨大なクレーンの台車のようなものですが、 キャタピラーではなくタイヤです。 通りがかりのスタッフから聞いた話では、時速約3km/hで進むそうです。 速度についても Joseph Browning 氏から聞いたような 気もするのですが、記憶が曖昧です。
神奈川県庁本庁舎裏、横浜税関前交差点まで戻った Lady。
新港橋を埠頭の方へ向かう楽隊。奧に見えるのは Lady。
すっかり日が暮れた中を新港埠頭に戻って来る Princess。 新港埠頭に入ってから Princess が Lady をかわして奧へ行ったのか、 入る前に追い抜いたのかは、暗い中遠くから見ていたのでよく判りません。
埠頭前を行く自走砲のようなマシンを積んだ浮島。 バンバンと大きな破裂音を断続的にたてつつ、パイプの先から炎を出して、 Princess と Lady を迎えます。
新港埠頭に到着した Princess (右) と Lady (左)。 中央には巨大なシャワーのような水の演出。水の吹き出し口をクレーンで吊下げてます。 右の Princess はクレーン吊下げの準備中です。 コンパクトデジタルカメラのバッテリー切れのため、 これ以降は携帯電話のカメラで撮影しました。
水だけでなく、煙と炎と使った演出も。煙につつまれる Princess。
台車ごとクレーンで吊り上げられ、 埠頭から大きな浮島 (自走砲のようなマシンを積んだものとは別) へ 乗せられる Princess。
タグボートに曳かれて動き出す Princess を乗せた浮島。 浮島の上から炎と白煙が上がり始めます。
浮島の進行方向に設置された巨大な送風機で白い泡を吹き付けられ、 浮島のもう一方の側からは、炎と白煙、そして噴水。 そして、それらに包まれた Princess。
泡、炎と煙、水に包まれた Princess を乗せて進んでいく浮島。 航路脇の浮島の上に置かれた迫撃砲のようなものから、 水の砲弾が何発も浮島へ打ち込まれます。
浮島の上の泡、炎と煙、水が止んだとおもいきや、浮島の脇で巨大な火焔が炸裂。 蜘蛛の高さが約10mですから、高さ数十メートルはある火柱です。 これで、一連のパフォーマンスが終りました。
パフォーマンスの後、埠頭の上、ライトアップされ静かに佇む Lady。