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『ムツばあさんの花物語』について

『にんげんドキュメント』シリーズで放送された 『ムツばあさんの花物語 〜 秩父山中 段々畑の日々』 に関する発言の抜粋です。 リンク先のURLの維持更新は行っていませんので、 リンク先が失われている場合もありますが、ご了承ください。 コメントは談話室へお願いします。

- 若林, 東京, Mon Sep 15 2:59:04 2003

土曜日に観たTV番組についてなんですが、やっぱりメモを残しておきたくなったので。

土曜の朝、NHK総合で 『にんげんドキュメント』シリーズの再放送で、 『ムツばあさんの花物語 〜 秩父山中 段々畑の日々』 を観ました。秩父の奥深い過疎の山里の生活を淡々と記録したドキュメンタリーです。 テンポがあまりTVっぽくなくて、ちょっとしたドキュメンタリー映画という感じです。 これ、去年の夏の本放送のときに見て、とても気にいっていたのですが。 今回、久々に見直して、やっぱりとてもいいなぁ、と。

「ムツばあさん」こと 小林 ムツ さんと 小林 公一 さんの老夫婦がやっている 段々畑を山に返すプロジェクトが、とっても素敵なのです。 番組紹介文ほど大おおきくは番組の中で取り上げられていたわけじゃないのですが。 歳を取るにつれて入るのが辛くなるため、少しずつ段々畑を止めているのですが、 そのまま荒れるに任せることをせず、花や紅葉が奇麗な木々をそこに植えていっているのです。 「長年お世話になった畑を、荒らしておくのは申し訳ない、せめて花を咲かせて山に返したい」と。 花を咲かせて返すといっても、もちろん、そんなに簡単に済ませられることではないわけで、 そのために一年前から挿木であじさいの苗を準備したりしているのです。 とても手間と時間のかかっているプロジェクトです。 もちろん、人に見てもらいたいという気持ちもあるようで、 「また人が帰ってきたとき、花が咲いていたら嬉しいだろう」とも言っていたし、 偶然美しい紅葉に足を止めたとおりすがりの人に他の場所も案内しつつ 「見てもらえて嬉しいよぉ」とも。

ここで、番組の中でも使われていないプロジェクトっていう言葉をわざと使ったのですが、 実際のところは、プロジェクトと呼ぶのが似合うほど企画を練って計画を立てて気負ってやっているとか、そういう雰囲気は全くありません。 むしろ、日常生活の中での美しく暮らそうというちょっと気遣いの自然な延長という雰囲気だったりします。 しかし、一ヶ月ほど前に観てきたばかりだということもありますが、山里を舞台にしていることもあって、 『越後妻有アート・トリエンナーレ』 と比べたくなります。 たしかに、小林夫妻のやっていることは、アートの文脈から出て来たことではないし、 本人もアートにしようという意図を持たずにやっていることです。 しかし、結果としてやっていることは、 『越後妻有アート・トリエンナーレ』とかの中で見られる アート・プロジェクトとほとんど変わらないのではないか、と思ってしまいます。 小林夫妻のやっていることがアートではないのは、それがアートの制度の外でのことだから、というか。 しかし、単に過疎の山里の抱える問題を考えさせられるというだけでなく、 「段々畑に花を咲かせて山に返す」という強い美意識を感じるコンセプトといい、 その実現としての花咲く山里の段々畑の造形の美しさ (これはTVでしか観てないので強く主張しませんが) といい、 半端なアート・プロジェクトなど霞んでしまう強い印象を残すものがあります。 つい惰性で美術館・画廊巡りしてしまいがちだけど、 アートであるかどうかは結局のところは重要ではなくて、 僕が興味があるのはこういうことなんだなぁ、と、この番組を見ていて思いだしましたよ。

しかし、このドキュメンタリーは、取り上げてられている「花咲く段々畑」プロジェクトが素晴しいだけでなく、 取り上げられている人物のキャラクターがいいんですよね。 特に、ムツばあさんの可愛らしいこと! く〜。

というわけで、また再放送があったら、是非観ることをお薦めします。 1年余り経った今再放送があった、ということは、それなりに評判が良いのでしょう。 また再放送があるかもしれません。 検索して気付いたのですが、 JSC賞 という賞も取っているのですね。 しかし、今回もビデオに録画するの忘れたなぁ……。DVDとかにならないですかね。

このドキュメンタリーを再び観て、 ムツばあさんの「花咲く段々畑」を生で観たい という気持ちを新たにしたわけですが。 吉田町太田部楢尾地区 って、どうアプローチしたものか、って感じですね……。 久しぶりに山サイクリングという手もないわけじゃないけど、足が衰えてるしなぁ。