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1920年代〜1930年代初頭 Avant-Garde 短篇映画について

2006年6月にあった 1920年代〜1930年代初頭 Avant-Garde 短篇映画の上映会の覚え書き、感想です。 リンク先のURLの維持更新は行っていませんので、 古い発言ではリンク先が失われている場合もありますが、ご了承ください。 コメントは談話室へお願いします。

[1299] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Tue Jun 7 1:36:05 2005

平日の仕事帰りに映画へ行こう。というわけで、万難を排して行ってきました、 『マヴォ/メルツ クルト・シュヴィッタース/村山知義 ― 日本におけるダダ』関連上映会 @ 東京日仏学院エスパス・イマージュ。 1920年代〜1930年代初頭の Avant-Garde な短篇映画16本、約2時間。 音楽付きで上映されたのは2本で、あとは全て無音で上映されました。 それなりに楽しんで観ましたが、 16本もまとめて観るとさすがに1本ずつの印象が薄くなりがちです。 何も書かないとすぐに忘れそうなので、備忘録的なメモを。 (邦題と制作年は、上映会配布資料に基づいたものです。)

Viking Eggeling, Symphonie Diagonale (1921) 9分 『対角線交響曲』
Hans Richter とも交流あった スウェーデン (Sweden) 出身の Dadaist の作った抽象映画。 抽象的な図形 (ちょっと Art Deco っぽい模様) が部分的に消えたり現れたり。 交響曲というほど画面にいろんな図形が一度に出ることが無く、 ソロやデュオという程度のように思ったり。 ちなみに、Anthology Film Archives, NYC の Robert A. Haller が編集した 実験映画に関するエッセー集 First LightEggeling の紹介 を見付けました。
Hans Richter, Rhythmus 21 (1922-24) 4分 『リズム21』
ベルリン (Berlin) 出身の Dadaist、Richter が初めて作った映画。 様々な縦横比と色 (明度の違う灰色) の長方形が 画面いっぱいに広がったり縮んで点となって消えたり。 4〜5個の長方形が画面に現れそれぞれが広がったり縮んだりするので、 単純ながら奥行き方向に動きを感じる面白い画面になっていました。 ちなみに、DaDa onlineRichter の紹介 と、 First Light での Richter の紹介
Hans Richter, Rhythmus 23 (1923-24) 4分 『リズム23』
Rhythmus 21 のヴァリエーション。 カットイン/カットアウトするかのように長方形が現れたり消えたり、 長方形が斜めに配置されたり、細かい長方形の幾何的配置を使ったり、 ストライプのような長方形を使ったり、といろいろ試していますが。 ワンアイデアの Rhythmus 21 の方が面白く感じられてしまったような……。 ちなみに、このシリーズはあと1作 Rhythmus 25 (1925?) というのがあるようです。
Oskar Fischinger, Spirals (1926) 4分 『スパイラル』
ミュンヘン (München) 出身で後にアメリカ (US) に亡命したアニメーション作家の、 ミュンヘン時代の Avant-Garde な作品。 円対称の図形がひたすたぐるぐる回転する抽象映画でした。 ちなみに、 First LightFischinger の紹介
Marcel Duchamp, Anémic Cinéma (1925) 7分 『アネミック・シネマ』
NY の Dadaist による 偏心円を回転することによって螺旋状動きを感じさせる映像を使った抽象映画。 時折、螺旋状に文字を配置したテキストをやはり回転させて表示したり。 昔に観たときはつまらないと思った記憶があるのですが、 こうして他の同時代の映画と並べて観ると、 このころの Avant-Gardes / modernist にとって、回転する動きは マシン的なカッコよさもあったのかな、と思ったりしました。 ちなみに、Duchamp については、 Making Senses of Marcel Duchamp というサイトがいい感じです。
Germaine Dulac, Disque 957 (1928) 16分
フランス (France) の女性映画作家による Fréderic Chopin の音楽へのイメージ映像。 最初はレコードやプレーヤーの映像が万華鏡のように展開するところから始まり、 そこに、ピアノ演奏の様子や、雨や日に光る樹々の枝や泉やせせらぎの流れる水がオーバーラップしていきます。 ピアノの鍵盤から手を下ろす所が写ってこれで終わりだなと思ったら、 やはり、余韻的に少し光る木々の枝を写して終わり、 MTV 的な表現のルーツを観たようにも思いました。
Man Ray, Etoile De Mer (1928) 18分 『ひとで』
Dada / Surrealism の代表的な写真家による劇映画。 水で濡れたガラス越しのようなぼけた画面が時折くっきりするのが効果的です。 Kiki に誘惑されて捨てられるヒトデに観せられた男の話、という感じなのでしょうか、 最初の誘惑のシーンからして唐突で御都合主義な印象も受けましたが。 というか、昔に観たことがあるはずなのに、前半まったく記憶にありませんでした……。 ちなみに、Man Ray photo.com というサイトで、 この映画のスチルもいろいろ観られます。
Paul Strand / Charles Sheeler, Manhatta (1921) 9分 『マンハッタン』
アメリカの写真家 Strand が精密な機械の絵で知られる Sheeler と共作した 1920年代マンハッタン (Manhattan) どドキュメンタリー風映画。 1930年代と若干時代はズレますが、Berenice Abbott がスチルで撮ったマンハッタンの 映画版といった印象。 ちなみに、The Metropolitan Museum of Art のサイトで Manhatta の RealVideo / QuickTime が 公開されています。
Henri Chomette, Cinq Minutes de Cinema Pur (1925-26) 5分
René Clair の兄 Chomette による抽象映画。 光り物を幾何的に配置した万華鏡的な映像から、 林の木々をネガに反転した映像や波打ち際の映像へ。 ちなみに、 First LightChomette の紹介
Eugène Deslaw, La Marche Des Machines (1928) 9分
ウクライナ (Ukraine) 出身で、 フランス (France) やポルトガル (Portugal) で活動した映画作家。 Russian Avant-Garde とは直接関係無さそうです。 作動中の工場の機械をクロースアップで反復パターンを強調するような形で撮影したり、 ベルトコンベアやクレーンの塔を遠近短縮法的な極端なアングルで撮影したり。 Albert Renger-Patzsch あたりの Neuesachlichkeit な写真の映画版という感も。 画面がシャープで、今回観た中で、最もカッコよかったです。 ちなみに、Centre Pompidou で 2004年に開催された Eugène Deslaw 特集上映会の プレスリリース (pdf)
Oskar Fischinger, Squares (1934) 5分 『スクエアー』
Hans Richter, Rhythmus 21 のカラー版といったもの。 今回上映された中では、唯一のカラー作品です。 ただ、前半はひたすら長方形が広がり、後半は縮み続けます。 色使いも、前半の方が色の幅が広く、後半は抑え目な印象を受けました。 その結果、前半は沸き上がるような感じで、後半は引いて行く感じになります。
Oskar Fischinger, Liebesspiel (1931) 3分 『ラブブレイ』
尾を引いたように細長い白い玉が画面を不規則に動きまわります。 次第にその数を増やし、さらに、ゆるく中折れた紐状のものも動き回り始めて、 規則的な動きを見せたりもします。 動きは画面に沿ったもので、奥行き方向はあまり感じさせませんでした。
László Moholy-Nagy, Lichtspiel, Scharz, Weiss, Grau (1930) 5分 『光の遊戯、白・黒・灰』
ハンガリー (Hungary) 出身で Bauhaus で教鞭を取ったことでも知られる作家による抽象映画。 工場機械を意識したかのようなパンチングメタルや金網、ミラーなどを構成したオブジェを作成し、 その全体像が把握しづらいくらいのクロースアップの位置でオブジェを動かしながら撮影したもの。 ネガやボジをいろいろ組み合わせてオーバーラップさせたり、シルエットだけを使ったり、実物と背景に映り込む影とを組み合わせたり、と、 白黒ながら多彩な画面作りが楽しめます。 以前に Bauhaus 展 @ 川崎市民ミュージアムで観てますが、 Deslav の Neuesachlichkeit 的な映画と対比すると、その抽象化という感じでより興味深く観られました。
Hans Richter, Filmstudies (1926) 5分 『フィルムスタディー』
抽象映画ですが、Rhythmus 21Rhythmus 23 と違い 人の顔や義眼の映像を使うため、ぐっと Surrealism 寄りの印象に。
René Clair, Entr'acte (1924) 24分 『幕間』
有名なフランスの映画監督 Clair の最初期の作品。 Francis Picabia が脚本を書いたり、Erik Satie が音楽を付けたり、 Man Ray や Marcel Duchamp が出演したりと、当時の Avant-Garde が集結した有名な映画です。 もちろん、何回も観たことがあります。 しかし、こうして抽象映画を立て続けに観た後に観ると、 実に普通のコメディ映画に見えて新鮮でした。 山場の霊柩車を追いかけるシーンなど Buster Keaton と対比したいものです。

しかし、こんな映画でもそれなりに人気があるのですね。 席が足りなくなって補助椅子や座蒲団を使うほどの人の入りにびっくりしました。 約2時間の長丁場だっただけに、ぎりぎりながら、ちゃんとした椅子に座って観られて良かったです。

[1300] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Tue Jun 7 23:21:15 2005

昨晩観てきた 『マヴォ/メルツ クルト・シュヴィッタース/村山知義 ― 日本におけるダダ』関連上映会 @ 東京日仏学院エスパス・イマージュのフォローアップ。

上映会全体の感想としては、 『写真はものの見方をどのように変えてきたか』展の 第2部を観た (関連発言) ばかりなせいか、 当時の写真との類似性を意識させられました。 写真を動くようにしたという意味での映画化、と感じるものすらありました。 その理由としては、今回上映された映画の多くは、 いわゆる抽象映画もしくは純粋映画と呼ばれるものだったということがあると思います。 物語が明確ではないか全く無いため時間展開が物理的なものでしかなく、 心理的時間というか物語展開の緩急のような モンタージュ効果が生きた所がほとんど無かったからのように思います。 そのため、心理的時間の展開が単調になりがちで、 写真に近い印象を与えるということもあるように思いました。

あと、今回の上映会は抽象映画、純粋映画と呼ばれるものが主だったわけですが、 同時代には、それだけでなく、物語る力も強い Russian Avant-Garde 映画、 Hollywood や Ufa の大作や、 Chaplin, Keaton, Lloyd らのサイレント・コメディもあって、 さらに、NHKスペシャル『映像の世紀』のような番組で使われたような ニュース映画のような記録映像もあったわけです。 そういうのを横断的に見るような企画ってできないのかなぁ、とも思ってしまいました。 戦後の映像が大量生産されるようになった時代だとそうもいかないと思いますが、 1920〜30年代はまだ横断的な見方もか可能な時代のように思いますし。 そういうことを考えてしまうのも、 『写真はものの見方をどのように変えてきたか』展の影響でしょうか。

企画という点では、「日本におけるダダ」という副題の付いた展覧会の関連企画なのに、 日本で作られた映画が一本も無かったのが残念でした。 それどころか、Mavo や Merz と関係ある映画もほとんど無かったように思いますが、 めったに上映される機会の無い映画ですし、 こういう機会を使っての上映は悪くないと思います。 ところで、当時の日本のサイレント映画は観たことありますが (小津 安二郎 とか)、 いわゆる Avant-Garde な作風のものを観たことがありません。 一度そこらへんどをちゃんとフォローしたいとは思っているのですが、 日本実験映画史というと、 戦後1950年代の 大辻 清司 『キネカリグラフ』 あたりから始まるものが多く、 日本の戦前の実験映画の情報は少ないように思います。 日本の映画のサイレント期の様々な試みについて書かれたお薦めの本があったら 是非教えて下さい。