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読書メモ: ジョセフ・E・スティグリッツ, リンダ・ヒルムズ 『世界を不幸にするアメリカの戦争経済 —— イラク戦費3兆ドルの衝撃』 (Joseph E. Stiglitz and Linda J. Bilmes. The Three Trillion Dollar War)

[2281] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Wed Oct 8 0:46:36 2008

1ヶ月ほど前に読了していた本ですが、 先日観た『NHKスペシャル』でちょっと思うこともあったので、読書メモ。

ジョセフ・E・スティグリッツ, リンダ・ヒルムズ 『世界を不幸にするアメリカの戦争経済 —— イラク戦費3兆ドルの衝撃』
Joseph E. Stiglitz and Linda J. Bilmes. The Three Trillion Dollar War. 2008.
楡井 浩一 訳. 徳間書店. ISBN978-4-19-862529-0. 2008-05-31.

公開されている資料に基づいたイラク戦争におけるアメリカの出費の推定に関する本。 その要約といえる内容は、英語ですが、 "The Iraq War Will Cost Us $3 Trillion, and Much More" (The Washington Post. 2008-03-09) で読むことができます。 様々なデータを利用して費用の推定を淡々と進め、 最後に無益な戦争が出来なくするためチェックの仕組みの提案をしています。 政府の過小な費用評価への反論として仕方ないとは思いますが、 正直、その議論の細かさに、読み進めるのが辛く感じました。 しかし、そういう細部に宿るものもあります。 特に「第3章 兵士たちの犠牲と医療にかかる真のコスト」や 「第4章 社会にのしかかる戦争のコスト」での 負傷した退役軍人にかかる費用推定の根拠となるデータからは、 退役軍人の悲惨な実態が垣間見られたように思います。

読んでいて最も印象に残った所は、 イラク戦争の特徴として負傷兵の多さを挙げていたところ。 イラクとアフガニスタンでは死亡者1人に対する重軽傷者数は7人以上。 第一次世界大戦、第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争におけるそれは、 それぞれ、1.8人、1.6人、2.6人、2.8人。比べて格段に多くなっています。 これは、戦闘形態の変化によるものではなく、救急医療技術の進歩により、 今までであれば助からなかった (戦死となっていた) 兵士が負傷兵として助かっている、 ということだそうです。「脳損傷の生存者が増えている」と。 この大量の障害を負った退役軍人の存在が、将来にわたっての戦争費用を増大させると。

先日、イラク戦争兵士のPTSDの問題について、『NHKスペシャル』で2回に分けて 『戦場 心の傷 (1)兵士はどう戦わされてきたか』 『戦場 心の傷 (2)ママはイラクへ行った』 を放送していました。『世界を不幸にするアメリカの戦争経済』でも 「対応が遅れている最大の需要は精神医療」とPTSDへの対応の遅れを指摘してます。 しかし、イラク戦争の新しい傾向である重度の障害を持つ退役軍人の増大についても 焦点を当てて欲しかったです。

また、 『戦場 心の傷 (2)ママはイラクへ行った』 で取り上げられた女性兵士イラク派兵の問題は、PTSDの問題だけではなく、 番組に登場した女性兵士たちが皆言っていた 「地元州の災害救援の役に立ちたいと州兵に志願したらイラクへ派遣」 という問題もあるでしょう。 『世界を不幸にするアメリカの戦争経済』は、 「カトリーナ被害は戦争優先のつけ」と、 州兵や予備兵をイラクに派遣したために発生したコストについて論じています。 この州兵のイラク派遣の問題の面も、もっと掘り下げて欲しかったです。

ところで話はちょっと変わって。世間で話題は世界金融危機。 自分は特に経済学に明るくないので、こういう問題については、 Joseph Stiglitz や Paul Krugman の記事を参考にしてます。 ここは経済床屋談義ブログでもないので主要な記事へのリンク程度に。 Stiglitz の記事としては、以下3つ。

ウォールストリートだけを救済する "trickle-down bail-out" な救済案なので、 否決された最初の救済案も、修正案もダメ。 不良債権買取はダメで、ワラント付き優先株発行が良い、と。 しかし、今は救済の時なので、ダメな救済でもやらないよりまし、後で直しましょう、と。 Stiglitz の Democracy Now! での発言に対して、Paul Krugman も 賛意を表明しています。 Paul Krugman の議論はいろいろありますが、主に以下4つでしょうか。

最後のものは12ページの論文付き。 ちゃんと論を追うのは自分にはちょっと厳しい。誰か解説記事を書いて欲しい……。 ですが、結論は、問題なのは流動性ではなく資本、なので必要なのは資本注入、 あと、国際的な金融政策の協調が重要、とのこと。 公的資金で銀行の資本増強 (銀行株の政府保有) なんて共和党には受け入れ難いように思いますが、 それが行われるまで金融危機は続く、ということなのでしょうか。うーむ。

ちなみに、今度の土曜20時から『NHKスペシャル』で 『世界金融危機 投資銀行・暴走の軌跡』 とのこと。どう伝えるんでしょうか。ふむ。