読書メモ。今年読んだ新書の中ではイチオシかも。 最近は軽くてスカスカな内容の新書が多い中、これはずっしり読み応えある一冊でした。
日本における子ども (未成年非婚者) の貧困問題を、 主にデータに基づいてマクロの視点から描いた本です。
この本が描く内容で最もショキングなものは、 「[OECDの]十八か国中、日本は唯一、再分配後所得の[子どもの]貧困率のほうが、再分配前の貧困率より高いことがわかる。 つまり、社会保証制度や税制度によって、日本の子どもの貧困率は悪化しているのだ!」(p.96)というもの。 子どもに限らず日本の公的福祉制度がOECDの中では最低水準にあるということは他の本で読んだこともありましたが、 改善されないどころか悪化させてしまうほど酷いものだったとは……。
しかし、この本の重い指摘はそれだけではありません。 「しかし、日本は、二人就業世帯であっても貧困率は一◯・六%と、わずか一・七%の減少しかない。 これは、どういうことであろう。 日本では、第二の稼得者、つまり、大多数の場合、母親の収入が貧困率の削減にほとんど役立っていないのである。 欧米においては、共働きという手段が子どもの貧困に一番有効であることが常識であり、政府も女性の就業支援を子どもの貧困対策として積極的におこなっている。 しかし、日本の現状においては、この手段が必ずしも有効に機能してきたとはいえないのである」 (p.70) 「日本の母子家庭の状況は、国際的にみても非常に特異である。 その特異性を、一文にまとめるのであれば、「母親の就労率が非常に高いのにもかかわらず、経済状況が厳しく、政府や子どもの父親からの援助も少ない」ということができる。」(p.109) 子どもの貧困問題の背景には、女性の (特に非正規・パートの) 働いても貧困から抜け出せない程の低賃金があることも、このことから伺われます。
第4章「追いつめられる母子家庭の子ども」では、根拠となるデータだけでなく、 著者が2006年に実施したアンケート調査で得られた母子家庭の母親の言葉が多く添えられています。 マクロなデータに、ミクロな個々の声が合わさり、最も説得力を感じる所でしたが、 あまりの内容に、正直、読み進めるのが辛く感じる程でした。
他で印象に残ったのは、日本における貧困対策への抵抗に関する記述でした。 「相対的剥奪」に関する議論で出てくる子どもの必需品への支持が日本だけ低いという指摘や、 あとがきに書かれた「子どもの貧困」に焦点を絞った理由 (貧困対策を提唱する際に常に生じる「自己責任論」との緊張が、子どもの貧困に特化すれば、それほど強く生じないから) など。
しかし、この新書が良いと感じた点は、 ジャーナリスティックに煽るように書くこともいくらでもできるであろう内容にも 関わらず、地道な議論を重ねている所です。 そもそも、貧困とは何か、どうやって測定可能なマクロな指標を得るのか、 その指標は本当に妥当なのか、といった議論を丁寧に行っています。 上に書いたような話が出てくるまでに、約2章をそのような議論に割いています。 貧困研究で用いられている「相対的貧困」「相対的剥奪」という考え方を、 日本における子どもの貧困を例に示している本のように読むことができました。 そういう点でもお薦め。