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ポール・クルーグマン「軍事的プラン」

原文: Paul Krugman, "The Martial Plan"
Originally published in The New York Times, 2.21.03
訳: 嶋田 丈裕 <tfj@kt.rim.or.jp>
2003/03/29: 初版を公開 | 2003/04/02: 川仁さんのコメントを参考に修正

マーシャル・プラン (Marshall Plan) は、アメリカの最も輝かしい時だった。 第一次世界大戦の後、戦勝国は戦勝国がいつもするように振舞った。 つまり敗戦国に賠償金を要求した。 しかし、第二次世界大戦の後、アメリカは、前代未聞のことをやった。 多大な援助をして、同盟国と敗戦した敵国の両方の復興を助けたのだ。

もちろん、それは無私の利他主義ではなかった。 将来を見越した、賢明な利己主義だった。 共産主義との戦いにおいて、軍事力を築き上げるのと同じくらい、繁栄、安定と民主主義の育てることが重要であると、アメリカの指導者たちは理解していた。

しかし、今のアメリカの指導者は、「国造り」におけるこの役割をバカにしてきたように思える。 そして、今日、確かに彼らは全く違った戦略を取っている。

ブッシュ (Bush) 政権は、いつもケチだってことはない。 実際、今、ブッシュ政権は至るところで金のばら撒きをやっている。 最も酷いものは、もし国民の反対を無視して戦争を支持したら、 トルコ政府に260億ドルの援助や融資をしよう、というものだ。

ブッシュ政権は、通常の海外援助を軍事的な外交の道具にしてきた、と指摘する評者もいる。 現在の国連安全保障理事会の理事をしている小国には、明らかに議決権への影響を意図して、援助の要求に対して有利な扱いをしてきた。 ブッシュが言う「有志連合」というのは実はそうではなくて「買収連合」だ、と皮肉る人もいる。

しかし、そんな気前の良さもバクダッド陥落で終りだっていうのは、明らかだ。

だって、アフガニスタンでのアメリカの振る舞いを見てみればいい。 はじめは、金に特に目的はなかった。 タリバン (Taliban) に対する勝利には、特殊部隊やスマート爆弾と同じくらい、軍閥の買収が重要だった。 しかし、ブッシュ大統領は、戦争に勝った後も我々が興味を失うことはない、と約束していた。 今回は、我々はアフガニスタンについて忘れるつもりはなかった。 国を再建して平和を維持するのを助けるために留まるつもりだった。 で、アフガン復興のために、ブッシュ政権は、2004年の予算からいくら出したのだろうか?

ゼロだ。ブッシュ政権はアフガニスタンを忘れた。 当惑した議会のスタッフたちは、この過ちの埋め合わせに、3億ドルを付け加えなければならなかった。 なぜトルコがより多くの援助を要求するだけでなく書面による保証を欲しがるのか、わかるだろう。 ブッシュ氏の個人的な言質では充分ではない、とトルコが言ったとき、ブッシュ政権の当局者は侮辱されたように感じた。 しかし、アフガニスタンで起きたことをトルコは知っている。 彼らは、ニューヨーク市への支援についての空約束も知っている。 テレビカメラが回らなくなったとたん、消防士その他に金が回らなくなったのだ。

そして、イラクも同じ扱いを受けるだろう。 2月18日火曜日、アリ・フライシャー (Ari Fleischer) は、イラクは復興資金を自分で賄える、と言いきった。 国内の油田から能力いっぱいまで石油を産出できるようになるまで何年もかかるだろうと、専門家が警告したにもかかわらずだ。 オフレコの話だが、ある当局者は、イラクの石油は「戦利品」だとすら言っていた。

そう、これでわかっただろう。ブッシュ政権は軍事的プランをやっているんだ、マーシャル・プランじゃなくて。 攻撃のために何億も使うけど、復興のためにはびた一文出さない。

もちろん、ヨーロッパや日本における戦後復興は、金の問題だけじゃなかった。 アメリカも、民主的な政体を作ったことを誇っていいだろう。 悲しいかな、ブッシュ政権の戦後の政策は、経済に無頓着というレベルではなく、もっと憂慮するようなものだ。

伝えられるところによれば、トルコはイラクのクルド人地域を大半を占領する権利を与えられたという。 そう、そういうことなのだ。 アメリカがイラク解放に向かうにあたって、その第一歩は、1991年以来実質的に独立状態だった人々を憎いイラク国外の支配者の手に渡すということになるかもしれない。 なんという道徳的明瞭さ!

一方では、戦後はサダム体制に荷担した人々を公職追放して脱専制主義化する以外ありえない、と、イラクからの亡命者は怒りをあらわしながら言っている。 しかし、ブッシュ政権は、現在の体制のほとんどはそのままにしようと考えている。 サダム・フセイン (Saddam Hussein) と何人かの高官をアメリカ人に挿げ替えて、あとはそのままにするつもりだ。 多くの非常に汚い連中がそのため権力内部に居残り続け、事実上アメリカが責任を持って少数派のスンニ派による多数派のシーア派の支配を維持するだろうってことは、イラク専門家にならなくたって判る。 ―― さらなる道徳的明瞭さ!

もし、ここで言ってることが全て信じられないほど無神経で先見の明が無いように感じるなら、それは、実際にそうだからだ。 それでは、あなたはどう予想した? このブッシュ政権は長期的な影響なんて気にしてないよ ―― 財政政策を見てみればいい。 ブッシュ政権は自分の戦争をしたがってる。 公正で永続的な平和を築き上げるための退屈で骨の折れる仕事になんかに興味を示す兆しすらない。


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嶋田 丈裕 / Takehiro Shimada (a.k.a. "TFJ" or "Trout Fishing in Japan") <tfj@kt.rim.or.jp>