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PC処世術 - 雑感:2011年問題-TV放送にまつわる混戦模様


 当サイトでは、これまでテレビの地上波アナログ放送の終焉,すなわち2011年の問題についていくつか考察を行ってきた。一つはコンピュータの性能向上よって動画の録画再生・編集に苦がなくなり,更に64ビット時代の変革期においてはその機能が常識化することに伴って、動画配信に関する変革が起こるだろうというのが筆者の読みだった。これは勿論、PCに求められる機能に対する変革もあるだろうし,動画配信に関する社会の仕組みに関することもあるだろう。
 もう一つは、2005年2月頃に起きたTV局買収騒動に絡むものである。この一件ではマネーゲームが世間を賑わせていたが,その背後にあったのは広告収入源綱引きの構図であり、この綱引きの様相からは色々なことを考えさせられる。今回は、広告収入源の綱引き問題の構図について筆者なりに少し整理してみたい。

 さて、2011年に終了とされる地上波アナログ放送だが、果たしてその移行は全国レベルでスムースに運ぶのだろうか?勝手な想像で恐縮だが,アナログ放送の最後の日にはどうでもいい生放送特番が各局で組まれ、「それではデジタル放送でお会いしましょう」とか言いながら放送が終了するのだろうか。そして、その時に移行が済んでいない人や地域の各家庭では砂嵐ないしはカラーチャートを眺めることになるのかもしれない。
 デジタル放送への移行がスムースに運ぶには2つの条件が満たされている必要がある。一つは、各家庭が地上デジタル放送に対応したチューナーなりテレビを所有することだ。これの普及が不十分なままXデーを迎えると、放送終了の翌日に電器屋で長蛇の列を見ることになるかもしれない。あるいはXデー直前でチューナーや対応テレビを宣伝する特番によって消費者は啓蒙されていく光景が見られるのかもしれない。
 もう一つの条件は,放送する側が全国のあらゆる地域でデジタル放送を行えるインフラを揃えていることだ。2006/末には人口カバー率8割になる計画だと耳にしているが、そこから先は投資が厳しいとの声も聞こえてくる。

 そこで、最近お役所も言い出したのがIP放送という方法だ。要するに、「ネット経由でTVを配信しましょう」という実にストレートなものなのだが、筆者としてはこれをお役所が言い出したところに意義深いものを感じざるを得ない。
 というのも、当サイトでは何度か指摘しているとおり,テレビの放送というのは免許制度によって参入が規制された規制産業なのである。そして世の中の広告需要の内かなりの部分がその規制産業に集中するという社会構造が出来上がっている。視聴者はその広告費を商品の価格の一部として支払っているのだが、テレビ番組を見るにあたっては(競争が皆無で無いとはいえ)局・番組の選択肢は限られており、番組の質の向上を望み難くなっているという現実がある。

 これに対して、単純に民間のコンテンツ製作企業がIP網による配信サービスを行ない、“モデムのような形をした激安チューナー”なんかを介して普通のテレビで視聴できるようにしてしまったらどうだろうか?普通の業種ならば、このような参入企業の登場は良くあることで,消費者・視聴者にとってはベンダの選択肢が増えることは歓迎されるところだ。だが、きっと既得権益者たる規制の内側の人々や,それを監督している人々にとっては猛反発必至なのだろう。なんとなく今回のIP放送の件は、こうした参入規制のための布石であるように思えてならない。

 世の中の経済というのは、一般的には富の平準化が行われていくのが自然の成り行きというものだ。ネットの出現と通信速度の進歩は、テレビの放送ということに対して技術的には既存の規制を打ち破って富(広告収入)を平準化する道を切り開いたと言って良い。
 だがその一方で、世の中には富の勾配の生成と固定に躍起になる勢力があるのが常だ(生成されなければ、貧富の差などは起きないだろう)。富の勾配は技術革新などの努力によっても生成されるが、各種の規制や社会構造によっても生成・固定化される。そうやって生成された富はどこかから沸いて出てくるものではなく、消費者が負担するものである。
 勿論,「良いモノやサービスにお金を払い、そうでないものにはお金を払いたくない」というのが経済原理の根底だ。したがって、決して富は平準化されねばならない性質のものではないが,ロクでもない規制や社会構造によって余計な負担を迫られるのはゴメンだというのが筆者の想いである。

 したがって、デジタル放送のパスとしてIPによる配信についてお役所が言及し, 積極的に取り組んでいるということに対し、筆者は不安の念を抱かずにはおれない。せっかく、種々の革新によって技術的には全く可能になりつつあるIPによる動画コンテンツの配信というTV放送のパスが、余計な規制に囲われないことを祈らざるを得ない。(もっとも、そうは言っても地上デジタル放送のためのインフラの一部は既に投資済みであり、そのお金は結局何らかの形で我々一般消費者が負担しなければならないのだが。)

 そしてこの問題には、もう一つの勢力である著作権者が参戦して混戦模様を呈している。すなわちTVの放送に絡む戦いには、お役所,既存TV局,ネット産業に加えて著作権者が参戦しているわけだが、筆者としてはそこに参戦するものとして消費者(視聴者)があることを今更ながら指摘しておきたい。結局のところおカネを払うのは消費者なのであり、それぞれの立場がウィン-ウィンの関係を築くためにはお金を払う人のことを忘れられるはずはないのだが…?この件に関しては継続して考察してゆきたいと思う。(31. Jul, 2005)

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