深川峻太郎の江戸川春太郎日誌
2006 FIFA WORLD CUP SPECIAL #02 



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1.The tea ceremony Kiev-Paris
2.Gabrielius
3.A letter to Jana
4.The Bamboo forest temple
5.Chanson d'Automne
6.Syringa

平成十八年六月二十一日(水) 午前九時二十分
BGM : Gabrielius / Er. J. Orchestra(ウクライナ)

 こうして追っかけ観戦をくり返していると頭が混乱してしまい、現実のワールドカップがどこまで進行しているのかよくわからなくなってくるのだった。きのうゲストブックに、その時点ではまだ開催されていなかったドイツ×エクアドル戦を「まだ観てません」と寝惚けたことを書いたのもそのためだ。今の時点ではもう終わっているはずだが、ゆうべは10時半に寝てしまったので相変わらず観ていない。大会はすでに1日4試合状態に突入しているはず。嗚呼。

◇サウジアラビア×ウクライナ(グループH)
 序盤は「つまんねー」と言いながら観ていたのだが、レブロフさんのロングシュートが決まったあたりから、どうやらウクライナの連中が本気で得失点差のマイナスを埋めようとしているのだということに気づき、俄然おもしろくなった。1点ずつ、コツコツ返済するんだ! 一生かかっても返すんだ! 実際はそんなにケナゲなものではなく、トイメンのプロ雀士に親満ブチ込んだ直後に頭に血が上って無理めのチンイツに走ったところ、ミエミエなのに上家の初心者があっさり振り込んでくれました、というような大人げないやり口ではあったものの、ほんとに4点差つけやがったのには笑った。ハコテンな僕らに勇気を与えてくれたウクライナはえらい。人生、相手を選べば何とかなる、という教訓。

◇スペイン×チュニジア(グループH)
 チュニジア代表はいつだって怒号の飛び交う集団である。まず、GKがうるさい。そんなにいちいち「もっと右だガオーッ」「もう一枚増やせよガオーッ」「ガオガオガオーッ」とゴジラみたいに吠えなくなって、壁ぐらい作れると思う。そして監督のルメールだ。EURO2000の頃から「無表情な男だなぁ」と思っていたのだが、先制するやいなやスパークしたその尋常ならざる怒鳴りっぷりはなんだ。日頃おとなしい人が目の玉ひんむいて逆上している姿って、ほんとうに怖い。赤ん坊が泣くからやめてくんないかな。赤ん坊いないけど。ところがそのルメール、逆転された途端にすっかりションボリしてしまい、いつもの無表情に戻るのだから不思議だ。怒るところが違うぞルメール。指示を出すなら今じゃないか。思うに、あの人は、きっと、守り方しか教えられないのである。だからリードすると派手なジェスチャーでやいのやいのと指示を飛ばしまくるが、ひとたび劣勢に立つとどう攻撃させればいいのかわかんないんじゃないのかな。あるいは、単にマゾなのか。攻められるとコーフンするタチなのかあなたは。一方のスペインは、「そうはいってもスペインはスペイン」と溜め息の出る結果になりそうだったところに、颯爽とラウール登場だ。レギュラーシーズンは不調をかこっていたのに、ここ一番で男気を発揮するあたりはさすが。8年前のフランスでは『青い体験』とか『続・青い体験』とかで兄嫁だか女教師だかに弄ばれるいたいけな少年のような風情だった彼だが、いまや『マルタの鷹』とか『三つ数えろ』とか『キー・ラーゴ』とかのハンフリー・ボガートに勝るとも劣らないオトナの色気ムンムンだ。終盤にはまたPKをもらう運も味方して3-1。悪ガキ軍団にアニキが帰ってきたスペイン、今後が楽しみである。それにしても、あれは前半40分頃だったか、「同点か!」と思われたシャビ・アロンソのヘディングシュートがゴールライン上で阻まれた直後の、画面いっぱいのスペインサポーターによる「バンザイなしよ」はおもしろかったなぁ。ハーフタイムに5回もリプレイしてしまった。







1.Four Moments
2.Glories Shall Be Released
3.Dawn of Our Sun
4.Journey Through Our Dreams
5.Everything Is Real
6.Rosanna
7.Openings

平成十八年六月二十日(火) 午後四時四十分
BGM : Four Moments(哀愁の南十字星) / Sebastian Hardie(オーストラリア)

「このカップ、ドイツんだ?」
「……あいつのじゃねえと思うよ」

 この話って、どうして必ず「帽子」なんだろう。
 べつに何だっていいと思うのだが。

◇ブラジル×オーストラリア(グループF)
 大振りの目立つ四番打者の不振もあって拙攻をくり返し、6回表まで残塁の山を築いていたブラジルが、7回二死走者なしから5番レフト・アドリアーノのひと振りで先制。抑えの切り札ヂーダが再三のピンチを凌ぎきり、9回には一死二三塁から代打フレッヂの意表を突くスクイズでダメ押し点をもぎ取って2-0。つまらない野球よりもつまらないサッカーは、とてもつまらない。どっこいしょ、という声が聞こえてきそう。

◇フランス×韓国(グループG)
 1-1のドロー。フランスって、実はすでにインテル的おもしろチームの仲間入りをしつつあるような気がする。ところで韓国の同点シーン、ゴールライン上に浮かんだボールをクリアしようとしたギャラスの足は、どうしてあそこで止まってしまったのだろうか。伸ばせば届いたはずなのに。喉元まで出かかっていた別れの言葉を、寸前で飲み込んだかのようなもどかしさ。言っちゃえばよかったのに。あのとき、言っちゃえばよかったのに。怖がらないでサヨナラって言っちゃえばよかったのに! 弱い自分にもサヨナラって言っちゃえばよかったのに!!

 べつに他意はない。

◇スイス×トーゴ(グループG)
 スイス国歌を聴きたいと言ってたくせに、時間の都合で後半だけ観戦。どうしてスイスのディフェンスラインにセンシーニがいるのかが謎だ。2-0でスイス。私の中で人気沸騰中の(わりには名前も知らない)トーゴの監督は、とってもきれいなピンクのシャツを着ていた。あの色をあそこまで大胆に着こなせるのは、今大会の関係者の中でもブッフォンと彼だけだろう。2つめの失点を喫した直後、もともとはだけていた胸元のボタンがさらに1つか2つ外されたように見えたのだが気のせいだろうか。何点取られると脱ぐのだろうか。脱いで振り回すのだろうか。選手の首を絞めるのだろうか。亀田3兄弟の父親と、どっちが強いだろうか。

 ちなみにソウマエ先生、そういうことは、ゲストブックに書いてくれてもいいし、書かなくてもいいです。それにしても、先生がいまだに読んでくれているとわかると「おれはまだ大丈夫だ」と思えるから不思議だ。何が大丈夫なんだ。







1.遠い木霊(こだま)
2.空に住む人
3.ひだまり
4.幸せな夜 儚い時間
5.優しい声のぬくもり
6.空飛ぶ鯨
7.光の宝
8.初夏の出来事
9.小さいことだけど
10.愛より遠く
11.感謝のしるし

平成十八年六月十九日(月) 午後五時二十分
BGM : 幸せな夜 儚い時間 / 矢野真紀(日本)

 あー。時間がない。

◇チェコ×ガーナ(グループE)
◇イタリア×アメリカ(グループE)
 なので2試合とも観戦を断念し、妻子がビデオで見ているあいだ仕事場で働いていた。どうせチェコとイタリアが勝ってあっさり通過を決めるんだろうとタカをくくっていたからこその行動である。ところが、帰宅するやいなやセガレから「とうさん大変だよ〜。もうグッチャグチャだよ〜」という報告を受けて愕然。全体的に晴朗な天候に恵まれた大会の中で、このグループだけ局地的な集中豪雨に見舞われて防波堤が決壊し始めた模様である。チェコが0-2の負け、イタリアが1-1のドロー。2試合で退場者4人だっけ? やっぱ無理しても結果を知る前に見ればよかったよなぁ。とは思うが、しかし家に帰ってセガレの口からワールドカップの成り行きを教わるというのも、新鮮といえば新鮮。「観戦した試合の面白さを見ていない人にもわかるように伝える」のはそう簡単ではないから、教育的な効果もありそう。

◇日本×クロアチア(グループF)
 さすがにこれはライブ観戦。8年前、同じような天候の下で同じようにアゴを出して走っていた同じ国との一戦で悶絶した日本人観戦者にとっては、まるでダボル・スーケルの幻影と戦っているような90分間ではあった。あの嫌味なオッサンが放った執念深いシュートがヨシカツ君の脇をすり抜けていったときの脱力感が否応なく蘇る。だがしかし。やってくれちゃったよなぁ、ヨシカツ様ってば。「ワールドカップでPKを止めたGK」が過去に何人いるか知らないが、そこには「ワールドカップでの得点」の百倍以上に相当する輝きがある。自分の目が黒いうちにそんなものを見せてもらったというだけで、私は今回の日本代表に深い感謝の意を表したいぐらいだ。この喜びを味わうことができた国が、これまでに一体どれだけあったというのか! その輝きを色褪せさせなかったという意味でも、ヨシカツ様の足下でイレギュラーバウンドしたボールが、おむすびコロリン!とばかりにゴールインしなくて本当によかった。いや、いっそのこと「ワールドカップ史上もっとも間抜けな失点」を演じて、永遠に人々の記憶に残るという手もあったような気がしなくもないけれど。ともあれ、0-0で勝ち点1を獲得。8年前と比べれば大きな進歩じゃないか。シードされてた4年前と比較しちゃいけないよね。いけません、いけません。さて、おそらく世間ではブラジル戦で宮本の穴をどう埋めるかが議論されているのだと想像するが、私は中田をセンターバックで使えばいいんじゃないかと思うな。中田って、もちろんヒデのほうだよ。だって、いちばん強いじゃん。いちばん強い人が守らないと、負けちゃうじゃん。ということで、中田・中澤・福西・楢崎・巻の5バックでどうだ。あと、いまからでも遅くないから城を呼んでこい城を。







1. O Ultimo Dia Terra
2. O Caos
3. Fuga Para O Espaco
4. Mellotron O Planeta Fantastico
5. 10,000 Anos Depois Entre Venu E Marte
6. A Partir Do Zero
7. Memos
8. Vida (Sons Do Quotidiano)

平成十八年六月十八日(日) 午後一時三十五分
BGM : 10000 Anos Depois Entre Venus E Marte / Jose Cid(ポルトガル)

 ゆうべは大塚でフォーバッヂホルダーズオンリー(友人たちのやってるフュージョンバンド)のライブがあったのだが、私は麹町で東京カナデルバッハ(友人たちとやってるリコーダー五重奏団)の練習があったので残念ながら欠席。バッヂの演奏はどうだったのだろうか。私のほうは何かと忙しくてちゃんとさらっていなかったのでメロメロ。楽器に触る時間があると、どうしてもギターのほうを優先することになるので仕方ないといえば仕方ないが、申し訳ないといえば申し訳ない。なにしろリーダーのシギーに「そこのドがレになってる」などと叱られているのだから、気絶するほどレベルが低い。ドがレになるのは譜面が読めないからではなく、右手の小指でキーをちゃんと押さえられないからだ。そもそもテナーリコーダーの場合、速いフレーズの中で最低音のドをきれいに鳴らすのはなかなか難しい。ほかのメンバーに言わせると、木の楽器のほうが低音を吹きやすいそうだ。もしかしたらキーも押さえやすいかもしれない。「オトナは、やっぱ、木でしょう」とも言われた。欲しい。

◇オランダ×コートジボワール(グループC)
 練習後、深夜1時半頃に帰宅してから一人で観戦。また電車内で「アルゼンチン オランダ 決勝T進出」という夕刊紙の見出しを目撃してしまったので真剣に見る気にならず、憮然としながら早送りで得点シーンだけチェック。アーセナルとマンUのゴールでドログバが負けるほど腹立たしいことがあろうか。まったくもってバカリコネな話だ!(意味不明)

◇メキシコ×アンゴラ(グループD)
 家族が録画を忘れていたので観戦不能。本来なら「何やってんだよー」と文句をつけるところかもしれないが、見るものが減って、正直ちょっとホッとしている自分がここにいる。私が麹町でバッハのヴァイオリン協奏曲を演奏しているあいだにダイジェスト番組を見た妻子によれば、スコアレスドローだった模様。メキシコって、あんがい強くて、あんがい弱い。

◇ポルトガル×イラン(グループD)
 初戦は序盤の1点だけで辛うじて1-0、2戦目はなかなか得点を奪えず苦労しながらやっとのことで終盤に先制、ダメ押し点も入って2-0と、ポルトガルがイングランドとよく似た経緯でグループ突破を決めた試合。デコのロングシュートが誰にも当たらずにゴールインしたのを初めて見たような気がする。あのボールだと、人にぶつけなくてもコースが変わるのかもしれない。いま聴いているのは、その道では名盤の誉れ高いポルトガルのシンセぴゅんぴゅん系プログレ。その道ってどの道だかはっきりしないが、私もわりと気に入ってよく聴いている。ジャケットに偽りなしのサウンド、といったところか。宇宙空間には空気がないのでサウンドは存在しないと思うけど。「ちょっとは空気読めよ!」「いや、無いから」という月面コントをいま思いついた。アルバムのタイトルは、「金星−火星間の10000年後」という意味であるらしい。いまから10000年後なら、金星と火星のあいだにある星は、またワールドカップ・イヤーを迎えているはずである。そろそろ、アフリカ大陸からの移民を中心とするフォボス代表チームが地元開催で初優勝を狙えるだけの実力(と経済力)を身につけている頃かもしれない。あるいはダイモスとの共催かな。そのとき、ブラジルの優勝回数は2000回を超えているだろうか、どうだろうか。







1. Hia Hia Svarmor
2. Farmors Brudpolska
3. Trallpolska
4. Lillht Graen
5. Arepolska
6. Kjellingen
7. Kottpolska
8. Skogspolska
9. Myhrhalling
10. Dajmen
11. Hamburger
12. Brurvals

平成十八年六月十七日(土) 午後三時二十五分
BGM : Hia Hia / Hoven Droven(スウェーデン)

 見ても見ても次々と未見の試合が溜まっていく。遠ざかろうとする先頭集団の背中をアゴを出しながら追いかける長距離走者の孤独。メディアの情報を遮断しているので世の中で何が起きているかわからないという点では、長期海外旅行者の孤独感にも似ている。外国から帰国したときと同様、大会が終わったら新聞まとめて読まないとイカンな。

◇エクアドル×コスタリカ(グループA)
 パンツに怪しげなモノを隠し持っていたカビエデスのごっつぁんゴールを含めて3-0。もはやエクアドルは、いわゆる一つの「旋風」ってやつをこの大会で巻き起こしていると言ってもいいのではないか。相手が弱いとはいえ、2試合で5得点&無失点はものすごく立派。このしなやか&したたかな守備をドイツは崩せるのか。「得失点差でエクアドル1位通過」がグループリーグ最大のサプライズになりそうな気もしてきた。

◇イングランド×トリニダードトバゴ(グループB)
 撃っても撃ってもシュートが枠に飛ばないランパードは実はランパードではなく、「ランパードのぬいぐるみを着たエッシェン」ではないかという噂が巷で広まっているかどうかは知らないし、ランパードのぬいぐるみがあるなら欲しいが、まあ、入らないこと入らないこと。ローレンスとサンチョという愉快な凸凹コンビを中心とする陽気なカリビアン・ディフェンスは、5-5-0-0という革新的なフォーメーションと共に、ワールドカップの歴史の中で永遠に語り継がれるであろう。「カリビアン」と聞くと反射的に「陽気な」と言ってしまうのもかなりの偏見だが。残念だったのは、ベッカムのクロスが入ったとき、ナナフシをマークしていたのがサンチョだったこと。あそこはローレンスとナナフシの背比べを見たかった。ジェラードの左足も炸裂して、イングランドが2-0の辛勝。終了間際、1点差に詰め寄ったかと思われたゴールがオフサイドの判定で無効になったとき、一生懸命な守備にほだされてすっかりトリニダードトバゴに感情移入していたセガレが、「ちくしょう!」と呻いてクッションを床に叩きつけながら泣き出したのにはびっくりした。泣くなよ〜。

◇スウェーデン×パラグアイ(グループB)
 そんなわけで、トリニダードトバゴの決トナ進出を願うセガレがスウェーデンの敗北を念じていたので、私も何となくパラグアイを応援しながら観戦。これ以上、うちの子を泣かせるな! しかし残念ながら、リュングベリの土壇場ゴールでスウェーデンがヒヤヒヤものの勝ち点3。ちなみに、いま聴いているアルバムのタイトルはヒヤヒヤじゃなくてヒアヒア。なんだろうヒアヒアって。スウェーデンの「プログレッシブ・トラッド・グループ」とか言われている人たちだが、Hoven Drovenというバンド名も含めて、意味はわかりません。

◇アルゼンチン×セルビアモンテネグロ(グループC)
 アルゼンチンが破格のパフォーマンスを見せて6-0。彼らにとってこの組は全然「死のグループ」ではなく、単なる「シーのグループ」なのだった。あーあ、書いちゃった。それだけは書くまいと思ってたのに。メッシのラストパスをファーサイドで受けたクレスポがゴールを決めたとき、元チームメイトとの競り合いに負けたスタンコビッチが腹を打ってうずくまっていた姿はきっと誰も見ていなかったと思うが、私は永遠に忘れないよ。お疲れさんでした。ところでアルゼンチン戦を中継するテレビカメラには、スタンドでハジケまくっているアノ人の姿を事あるごとにいちいち映し出してもらいたい。そうすれば、このワールドカップは20年ぶりの「マラドーナの大会」として人々の記憶に残ることだろう。



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