深川峻太郎の江戸川春太郎日誌
2006 FIFA WORLD CUP SPECIAL #03 



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1. Lullaby To An Anxious Child (Feat. STING)
2. Midnight Flyer
3. Live As One
4. Wake Up The Morning (Feat Desree & Gabrielle)
5. Shadow (Feat. Billy Cobham)
6. World Spirit
7. Sky Flower (Feat. Stanley Jordan)
8. Ayaa (Feat. Airto Moreira)
9. Tender Eyes (Feat. Dominic Miller)
10. Je Fre Me Kofi

平成十八年六月二十四日(土) 午後十一時二十五分
BGM : Together As One / Gregg Kofi Brown(ガーナ系?)

 きのうは4ヶ月半ぶりに駒場東大前の美容院に行き、5ヶ月分ぐらい髪を切った。ヤマちゃんの奥さんのお姉さんに髪の毛を委ねるようになって以降、行くたびに最短記録を更新している。同じ時間帯に来て私の隣で髪をセットしていたヤマちゃんの奥さんに「それぐらいのほうがいいですよ!」と言われたので、きっとこれぐらいのほうがいいんだろうが、どうしてこの姉妹に髪型を牛耳られているのかがよくわからないのだし、2年後にはスキンヘッドになっているんじゃないかとちょっと不安だ。

 カット終了後は、下北沢の喫茶店で『AERA』の取材。したのではなく、された。ある日本代表選手にまつわる記事を作るので、『キャプテン翼勝利学』の著者として何か言えというのである。4年前の大して売れたわけでもない本の書き手にコメントを求めるというのは驚くべきことで、業界的には非常識ともいえるチョイスではないかとも思うわけだが、まあ、そんな本に目をつけてくれる人がいるというのは実にありがたいこと。しかし私の場合、人の喋ったことをまとめるのはわりと得意なほうだが、自分の喋ったことをまとめてもらうのは初めてなので、どういうふうに芸を見せればいいのか皆目わからず緊張した。やってみると、やはり書くと喋るは大違い、とりとめもなくいろんなことを喋りながら、やはりこの仕事は自分に向いていないと痛感。喋りで何かを伝えるには、頭の回転が遅すぎる。自分のカギカッコだけ空白にしたゲラを作ってもらって、その文脈に合うコメントを書き込んだほうが話が早いような気もしたりして。あまり役に立つ話ができたとも思えないので、誌面では使われないかもしれないし、そのほうが誌面のためじゃないかとも思うが、どちらにしても、ふだんと逆の立場でふだんと同じ仕事に関わったことで、なるほど取材を受ける側の心理とはこういうものなのかと勉強になったので、引き受けてみて良かった。

◇イタリア×チェコ(グループE)
 イタリアの国歌が流れているとき、愚妻が画面と私とを交互に見るので、「トッティとどっちが(髪が)短いか見比べてるんだろ」と言ったら図星だった。で、どっちが短いかというと、「同じぐらいかな」とのこと。トッティと同じぐらいのものが一つできてしまったのは痛恨。試合は、あまり見たくないゴールもあったもののピッポ!のゴールがあったので後味は大変よろしい。併走するペロッタ(だったかな)と2対1の局面を作り、ちょっとラストパスを出しそうな素振りも見せつつ「やっぱオレだろ」と舌なめずりしながらシュートを放った姿にはシビれました。たまらん。

◇ガーナ×アメリカ(グループE)
 たしかに観戦したはずなのだが、ガーナが勝ったことはわかるものの、何がどうなったのかさっぱり思い出せない。ガーナがPKで勝ち越して2-1だったっけ? あ、エッシェンが警告累積でいち早く大会を終えたことだけ思い出した。BGMのグレッグ・コフィ・ブラウンは、タワレコのPOPに「ガーナ人ミュージシャン」と書いてあったのだが、ライナーを見るとアフリカ系アメリカ人とのこと。よくわからないが、所属するオシビサというバンドがガーナ人中心らしいので、一応そっち系ということで。

◇オーストラリア×クロアチア(グループF)
 パス。そのクロアチアから1点しか取れなかったブラジルって。

◇ウクライナ×チュニジア(グループH)
 シェフチェンコのPKでイチゼロ。だったよな。疑惑っぽいPKの判定が下されたとき、ルメール監督が笑うのを初めて見たような気がする。怒るところも笑うところもちょっとずつ人とズレてる感じ。でも、敗戦後にベンチで泣いている選手をやさしげな表情で慰めているのを見て、ああ人並みのEQの持ち主なんだ、と安心した。

◇スペイン×サウジアラビア(グループH)
 スペインはスタメンを総取っ替え。渋谷系ガキ軍団から一転、新橋系オヤジ軍団に。ストロベリーとバニラのミックスソフトみたいなチームである。紅白戦を見てみたい。あのガキ共、この人たちに勝てんのかなぁ。

◇スイス×韓国(グループG)
 終盤にベラーミ登場。ほんの6分間ほどの出場だったが、今大会、下手すりゃラツィオ勢の出番はまったくないのではないかと案じていたところだったので、ホッとした。

◇フランス×トーゴ(グループG)
 パス。ジダンが出場停止のまま引退、というズッコケ物語を期待していたのだが。







1.さよなら色はブルー
2.歩いて行くよ

平成十八年六月二十三日(金) 午前十時五十五分
BGM : さよなら色はブルー / 矢野真紀(日本)

 きのうの午後、仕事上の必要があって、エプソン品川アクアスタジアム内ステラボールで行われた東芝の新商品(HD DVD搭載ハードディスクレコーダー「RD-A1」)発表会に顔を出した。数百人を集めた盛大なイベントである。ふだん縁のない世界なので、どんな発表会もそうなのかどうかは知らないが、およそ「笑い」とは無縁な60分。イベントというより、ただの会議。発表というより、ただの報告。次々と挨拶に出てくる東芝の執行役上席常務や部長やメディアメーカー(DVD-Rとか作る会社)の副技師長や取締役やコンテンツホルダー(映画のビデオとか売る会社)のマーケティングディレクターたちが、誰ひとりとして冗談を言わなかったのが私にはかなりの驚きだった。べつにアカデミー賞授賞式のハリウッドスターみたいにやれとは言わないけど、場を和ませる面白トークを披露する人の一人や二人はいてもいいのではないか。いまどきのネクタイ業界人はもうちょっとユーモアのセンスがあるんじゃないかと思ってたけどな。むしろ昔以上に喋りが様式化&硬直化しているような印象。真面目といえば聞こえはいいけれど、みんな余裕なさすぎで、とにかく「いかに失敗しないで乗り切るか」しか考えていないように見えた。試験か何か受けてるみたいだ。学生時代からさんざん厳しい試験をクリアしてきて、ようやくそんな晴れ舞台に立てるだけの立派な肩書きを手に入れたんだろうに、それでもまだ試験。減点だけは避けたいという消極性。あんなふうに報道陣のカメラの砲列の前で喋るなんて滅多にないチャンスだと思うのだが、きっと彼らにとっては、その場に送り出されただけでピンチなのだ。だから、シュートコースはあっても無難な横パス。枠を外してもいいから、もっと思い切って言葉を振り抜けよ。

◇ポルトガル×メキシコ(グループD)
 品川へ向かう山手線の車中、座席でスポーツ紙を広げようとしている人がいるのに気づいて「見ちゃイカン!」と慌てて視線を上に逸らしたら、ドア上の液晶モニターに、チームメイトに祝福されるマニシェの写真。「2-1でポルトガルが勝利」とか何とか書いてあるのも見てしまい、もうほんとに勘弁してよね、である。なんで電車の中にあんなもんが必要なんだよ。そんなにテレビ見たいのかよ日本人は。ケータイとかiPodとかもそうだけど、そうやって常に何かキカイの発信する情報を浴びてないと死ぬのか。電車に乗ってるときぐらい、ちょっとは窓の景色を見るともなく見ながらボーっとしろよボーっと。というわけで、2-1でポルトガルの勝ち。マニシェはやけに張り切っていて頼もしかった。後ろから走り込んできたときのシュートっていうのは、ああいうふうに撃ってください。もちろん、エッシェンに言っている。

◇イラン×アンゴラ(グループD)
 パス。なんかもう、第3ラウンド自体を見るのが面倒になってきた。もういいから、早いとこトーナメントを始めちゃってください。

◇アルゼンチン×オランダ(グループC)
 スコアレスドローでアルゼンチン1位、オランダ2位。よしよし。これで1回戦は思いっきりポルトガルを応援できる。

◇コートジボワール×セルビアモンテネグロ(グループC)
 パス。スタンコビッチは何か良い思い出を作れただろうか。

◇日本×ブラジル(グループF)
 朝5時半に起きて一家三人で観戦。7分にロナウドの左足、10分にロビーニョの左足、15分にまたロビーニョの左足、19分にロナウドの右足、21分にジュニーニョの右足と、あたかも山手線の発着みたいなペースでヨシカツ様が内回りと外回りのファインセーブを繰り出していた序盤は、そよ風レベルではあるが神風が吹き始めたように見えなくもなかった。なにしろ今年はマイアミの奇跡10周年のメモリアルイヤーだからね。飛べヨシカツ! 止めて止めて止めまくれぇ! しかし、いよいよ神風が一気に風速を上げたかと思えた玉田くんのゴールも、つまるところセレソンの皆様からジーコさんへのお土産にすぎなかったようで、まあ、ボコボコにされましたわな。1-4。すっかり希望のついえた終盤は、愚妻の作ってくれた朝飯(ベーコンエッグとごはんと味噌汁)をもさもさ食いながら見てた。朝飯はベーコンエッグにかぎるね。うんうん、旨い旨い。不謹慎ですみません。セガレは負けて泣くどころか、大好きなGKセーニが出てきたのを見て「やった!」とかぬかしている始末。いつまでもフィールドに倒れたまま立ち上がろうとしない中田の姿にとくに胸を打たれるわけでもなく、洗顔、歯磨き、着替えと、朝の日常は淡々と進んでいったのだった。

 ともあれ、これで今回の日本はおしまい。「サムライ・ブルー」という幼稚かつ貧困な発想からしか生まれ得ない言葉−−それが愛称なのか形容句なのか合言葉なのかキャッチフレーズなのかスローガンなのかも私にはよく判らないのだが−−が巷に出回るようになった頃から、日本がドイツを去るときのBGMは矢野真紀の『さよなら色はブルー』にしようと私は決めていた。ごく一般的な常識の持ち主なら誰だって「マリッジ・ブルー」だとか「マタニティ・ブルー」だとかを想起せずにはいられないような陰気な言葉(サムライ・ブルーだなんて、まるで切腹前の武士みたいじゃないか)を、さも猛々しい有り様で喜々として振り回す日本サッカー協会やマスメディアやサポーターたちの薄ら寒い言語感覚を、私はとことん嫌悪する。ブルーなのはオマエらの言葉を聞かされるこっちの気分じゃ。この、何でもかんでも郵便受けに投げ込まれている小汚いチラシみたいな(つまりゴミみたいな)キャンペーンに仕立て上げてしまう広告代理店的「盛り上げ文化」を排すべく言葉を鍛えないかぎり、代表チームも強くならないのではないか。とりあえずは、「コンテンツホルダー」とか言ってりゃ何かたいそうな仕事したように見えると思ってるネクタイ業界の人たちが変わらないとね。まあ、曲に『さよなら色はブルー』ってタイトルつける寺岡呼人のセンスもどうかとは思いますけども。さよならドイツ、さよならジーコ。明日からはセレソンに合流するの?







ディスク: 1
1.In the Flesh?
2.Thin Ice
3.Another Brick in the Wall, Pt. 1
4.Happiest Days of Our Lives
5.Another Brick in the Wall, Pt. 2
6.Mother
7.Goodbye Blue Sky
8.Empty Spaces
9.Young Lust
10.One of My Turns
11.Don't Leave Me Now
12.Another Brick in the Wall, Pt. 3
13.Goodbye Cruel World

ディスク: 2
1.Hey You
2.Is There Anybody Out There?
3.Nobody Home
4.Vera
5.Bring the Boys Back Home
6.Comfortably Numb
7.Show Must Go On
8.In the Flesh
9.Run Like Hell
10.Waiting for the Worms
11.Stop
12.Trial
13.Outside the Wall

平成十八年六月二十二日(木) 午前十時三十五分
BGM : The Wall / Pink Floyd(イングランド?)

 鳩が来るのである。よく仕事場のベランダに3羽ほど集まって、くるっくぅ、くるっくぅ、などと唸っている。うんちもたくさんする。うるさいし、汚いのである。もちろん、私たちは実のところ大自然の中で暮らしているのであるから、どこにどんな生き物がいたって不思議ではないのだし、おじいさんやおばあさんが熊に襲われたりニホンザルが道端をうっきっきうっきっきと歯を剥き出して走り回っているような地域の人々から見れば鳩ぐらい何だ我慢しなさいよという話かもしれないが、昨日なんかは私が仕事をしていたらデスク脇の窓にどすん!と衝突しやがった鳩もいたりして物騒だ。死んでたらヤだなと思いながらおそるおそるブラインドを上げて見たら、平然と手すりに留まってくるっくぅだったが、どすんてあんた。鳥のくせに、いくら何でも迂闊すぎないか。飛ぶ資格ないぞおまえには。免停だ免停。だいたい、何年東京で暮らしてんだよ。ここは空も狭いんだよ。都会に馴染めないなら田舎に帰れよ。鳩め!

◇ドイツ×エクアドル(グループA)
 どうやらエクアドル旋風が巻き起こっているように見えたのは私の錯覚だったらしい。無駄に盛り上がっているスタンドが鬱陶しかったのか、あまりやる気の感じられない戦いっぷりだったとはいえ、手もなくひねられて3-0。いや4-0だったっけ? まあ、どっちでもいいや。未見の試合があるときにそれをニュースサイトで確認するのは危険すぎる。ともあれ、こんなエクアドルでさえ瞬間的に旋風を巻き起こせるぐらいの楽なグループにドイツが入っていたということであろう。カビエデスのパンツの中身が見られなくて残念。略してカビパン。

◇コスタリカ×ポーランド(グループA)
 パス。結果を知ることさえ永遠にないかも。

◇トリニダードトバゴ×パラグアイ(グループB)
 嗚呼、サンチョ。こんなに哀しい気持ちになるオウンゴールはかつてなかったような気がする。トリニダードトバゴがスウェーデン戦前半以来のシャープで鮮やかな攻撃を披露して見る者を楽しませたものの、0-2でパラグアイ。いや0-3だっけ? ダメだ。記憶力が崩壊している。結局は勝ち点わずか1、無得点という散々な成績でドイツを去ったトリニダードトバゴであるが、そこで思うのは、2試合を消化した時点で彼らよりも数字上は良い成績(勝ち点と得失点差は同じだが総得点で1上回る)を上げていた日本チームが、同じように辛うじて勝ち抜けの可能性を残して3戦目を迎えたときに、縁もゆかりも利害関係もない外国人からこんなに注目され、その念力を引き出すことはないだろうということである。トリニダードトバゴ代表は弱いチームだったが、弱い人たちではなかった。とても強い人たちだった。試合には勝てなかったが、ワールドカップに負けたわけではない、という言い方をしてもいいだろう。日本代表はどうだろうか。日本がオーストラリアに負けたときセガレは泣かなかったが、トリニダードトバゴがイングランドに負けたときは泣いた。ブラジル戦では、せめてセガレが悔し泣きするような試合をしてもらいたい。この大会で初めてワールドカップに触れる子供たちが大勢いることを、そして、彼らが睡眠不足による体調不良で先生に叱られながらも無理をして観戦していることを、選手たちは決して忘れてはいけない。

◇イングランド×スウェーデン(グループB)
 得点経過および結果は上記の試合観戦中にわかっていたので、いちいち見るのはいささか面倒臭かったが、イングランドの誰がゴールを決めたのか知りたくて、ビデオの30秒スキップ機能を駆使しながら一応は最初から最後まで流し観戦。スローインやらゴールキックやら選手交替やらのときにスキップするわけだが、サッカーは30秒目を離しただけで完全にそれ以前との連続性が失われるほど局面が変わっているということがよくわかった。あと、イングランドが38年間もスウェーデンに勝っていないことと、引き分けならイングランドが1位でスウェーデンが2位、スウェーデンが勝てばスウェーデンが1位でイングランドが2位になるということも、とてもよくわかった。よ〜くわかったから、そんなに何度も何度も言わなくていいよ実況の人。うるさいんだよ。それと、いくら何でも「ベッカモ」はないと思うよ「ベッカモ」は。どんなカモだよ。「今日のスウェーデンは前線にイブラヒモビッチの高さがありません」は、聞きようによっちゃおもしろかったけどね。ならば、今日はイブラヒモビッチのナニがあるというのか。強さか。図々しさか。それとも何か、前線にイブラヒモビッチの下半身だけあるとでもいうのか。のしのし歩いてるのか。テコンドーキックもするのか。以上、子供じみた揚げ足取りはおしまい。イブラヒモビッチの「揚げ足」だけ浮いてたらイヤですね。妖怪揚げ足。イングランドが黄色い壁を破ることはかなわず土壇場でドローに終わったわけだが、スウェーデンのしぶとさはドイツにとって脅威であろうし、それより何よりジョー・コールが1ゴール1アシストの大活躍だ。いやっほう。しかし、それはとても嬉しいことであるものの、どうもあの赤シャツ白パンツはジョーに似合わなくていけない。えーと、なんちゅうか、本当はこんなこと決して言いたくないのだが、つまり、その、オムツ履いてるみたいに見えちゃうのだった。ばぶばぶ。そして意外なことに、ピーター・クラウチは清水健太郎に似ている。



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