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山口の先制PK。



2006. 12. 04.(月) BGM : のだめクラシック

 ブエノスアイレス最後の二晩はホテルで『わしズム』や『ゲーテ』の原稿を書きまくっていたため、順位決定戦から決勝までの報告が帰国後という間抜けなことになってしまった。ともあれ、きのうの夜に戻ってきました。しばらく飛行機には乗りたくないです。アメリカン航空の機内食は最低だったし。帰宅したら、私のいないあいだに愚妻とセガレが「のだめ」を全巻買いそろえて読みまくっていた。セガレはピアノも習い始めたようだ。どうなってんだ一体。

●日本 2(4 PK 3)2 韓国(7−8位決定戦)
 山口のPKで日本が先制。第2PKで同点にされた直後に落合のゴールで2-1と突き放したが、終了間際にまたPKを取られて2-2でPK戦突入。どう見ても力量は日本のほうが上で、終始圧倒しているのだが、その差がスコアには現れないのがもどかしい。PK戦は、ゴールの真裏で手に汗握りながら見た。両チームとも3人が決めて4人目からはサドンデス。7人目まで両チームとも全員が失敗して2巡目になり、日本は1本目を右上に決めた田中がこんどは左上ギリギリにゲット。韓国の8人目をGK風祭が止めて、日本7位である。監督や選手と笑顔で握手することができてよかった。勝利ってすばらしい。しかも、ここで韓国に勝ったおかげで、来年の夏にサンパウロで開催される国際大会の出場権を得ることができた模様。ブラジル、アルゼンチン、スペインと試合ができるらしい。おれ、また行くんだろうか。どうなんだろうか。

●フランス 2-0 イングランド(5−6位決定戦)
 イングランドは出場機会の少なかった選手を起用していたが、レギュラーと遜色ないテクニックの持ち主が多く、層の厚さを感じさせた。結果はフランスの勝利だったが、実力の拮抗した好勝負。この両国となら対等に戦えることを今大会で証明した日本だが、どうしてそれなのに韓国とも際どい勝負になってしまうのだろうか。

●パラグアイ 2-1 スペイン(3位決定戦)
 直前に出場の決まったパラグアイが、今大会の伏兵だった。2バックか3バックでがっちり守って、前のテクニシャンに何とかしてもらうというやり方だが、そのアタッカーがむちゃくちゃ上手いので、何とかなってしまうのである。まあ、南米の大会では南米が強いということか。スペインはどこまでもスペインだった。

●アルゼンチン 1-0 ブラジル(決勝戦)
 満員(1000人ぐらいかな)の大観衆に後押しされた地元アルゼンチンがすばらしいゲームを見せてくれた。ブラジルのリカルドとジョアンに圧倒的にボールを支配されながらも、10番マイダーナと2番モレノが鋭い読みと機敏な動きで突破を許さない。天才リカルドがこれほどボールを奪われる試合は初めてだ。そして後半、少ないチャンスを2人のアタッカーが見事に生かした。右サイドでボールを拾った8番ルカ・ロドリゲスから、ゴール前やや左にいた5番ヴェロへの完璧なパス。華麗なフェイントでDFをかわしたヴェロが右足で放ったシュートが、ゴールネットを強烈に揺らした。それまでチャンスのたびにみんなで「シー」「シー」と声を出すのを自重していた地元観客が、ここぞとばかりに一斉に雄叫びを上げる。ブラインドサッカーならではのシーンである。試合終了後はプレスもフィールドに入ることを許され、カメラを手にウイニングランをする選手たちを追いかけ回す。妙に興奮した。なるほど、スポーツ大会の現場取材ってこういうことだったのか。ワールドカップはこの何百倍も興奮するんだろうなぁ。地元優勝ってすばらしい。

 というわけで、大会は終了。ブラインドサッカーならではの面白さと驚きのぎっしり詰まった、すばらしい大会だった。出場権を得ることでアルゼンチンまで連れて行ってくれたチームのみなさんと、取材に協力してくださった協会関係者のみなさまに、深く深く感謝いたします。





2006. 11. 29.(Miercoles) BGM : 地元のFMラジオ

 一昨日は大会がお休みだったので、私は終日ホテルに籠もって原稿。「ブエノスアイレスでカンヅメ」は、間違いなく生涯に一度のことであろう。朝から晩までホテルで原稿を書くこと自体が生まれて初めてのことなのだ。でも全然はかどらなかった。やばいです。きょうは夕方5時まで試合がないので、それまでガンガン書かねば。というわけで、以下、昨日の結果を簡単に。

●フランス 1-0 韓国(A組3位×B組4位)
 前半に決めたPK(6メートルのほう)による1点を守りきったフランスが5位決定戦に進出。韓国はゴールスローに難がある。ボールがゴールラインを割るとゴールスローになり、ブラインドサッカーではこれが攻撃の起点になるのだが、後ろ向いてる味方DFの尻にぶつけてどうすんだそんなもん。

●イングランド 1-0 日本(B組3位×A組4位)
 試合は完全に日本が支配していた。見ていて負ける気がしなかった。シュート数はイングランドの倍。後半には6メートルPKが1本、8メートルPKが3本もあった。それだけイングランドが苦しんでファウルを犯していたということだ。でも、決められない。田中のPKはクロスバーを叩き、ポストに弾かれた。そして終盤。日本が3本連続でコーナーキックを得て猛攻を仕掛けた直後のことだ。私が充電の切れたデジカメを片付けている隙に、イングランドのカウンターが決まっていた。チームも私も油断していたようだ。何が起きたのかわからない。聞けば、角度のないところから打ったふんわりしたシュートがGK浅間の脇を何となくすり抜けるようなラッキーゴールだったらしい。日本はその後も必死に反撃を試みたが、田村のシュートは右に左にわずかに逸れる。試合後、選手たちにどう声をかけていいかわからない、悔しい敗戦だった。これで最後は日韓戦。地球の裏側でそんなものを見ることになるとはなぁ。

●ブラジル 3-0 スペイン(準決勝)
 17歳の天才リカルドがハットトリックの大活躍。2点目、フィールド中央をジグザグにドリブルして2人のDFを置き去りにし、右ポストの内側に当ててねじ込んだシュートは、人間業とは思えなかった。存在そのものが反則じゃねえかと思うぐらい、能力が抜きん出ている。スペインも、小柄な10番のチャピが意地になってリカルドに突っかかり、何度かボールを奪ってさすがの技術を見せたものの、地力の差は歴然としていた。

●アルゼンチン 3-1 パラグアイ(準決勝)
 今大会ここまでのベストマッチ。前半にパラグアイが先制して満員の地元観客を黙らせたが、後半、主将のヴェロが連続ゴールで逆転。ヴェロの「カニばさみジャンプ」のことは前に書いたが、この試合では「ボールの上に両足で立つ」という試合には何の役にも立たない芸を披露していた。たぶん、ブラインドサッカーを「見て楽しいスポーツ」にすることを心がけているのだと思う。そのショウマンシップには、長嶋茂雄を思い起こさせるものがある。ところでアルゼンチンの3点目が凄かった。ゴール左手前で敵を3人引きつけたヴェロが、右のロドリゲスにスルーパス。1人のアタッカーに3人のDFが集まり、1人がどフリーになる局面がブラインドサッカーにはしばしばあるが、まず、そこにパスは出ない。たいがいボールを持った選手が1人で何とかしようとするのだが、ヴェロはまるで見えているかのように味方の足元へエレガントなタッチでパスを送った。それだけでも驚くべきプレイなのだが、それを受けたロドリゲスがまた凄い。動いているボールをダイレクトで完璧にジャストミート。これもブラインドサッカーではほとんど見ないプレイだ。たまに試みる選手もいるが、まずまともに当たらない。だからみんな、いったんトラップして蹴りやすい位置にボールを置いてからシュートする。ところがロドリゲスはそれを見事に決めてみせた。リカルドの個人技対ヴェロ&ロドリゲスのコンビネーション。決勝が楽しみである。





ドリブル突破を試みるスペインのホセ。



シュートを放つブラジルのジョアン。



2006. 11. 27.(Lunes) BGM : 地元のFMラジオ

 夜は原稿を書く時間があるだろうと思って雑誌の仕事を3本持ってきたのだが、予想以上に忙しくて全然はかどらない。朝は7時起床、めし食って、ビジネスセンターでメールをチェックして、返信を書いて、ニュースサイトを見ようとしたら何だか知らないが急にネットにつながらなくなったりして、何だよどうしたんだよアルゼンチンって機械まで気紛れなのかよ(大会の主催者やスタッフをはじめとして、いろいろ気紛れな人が多いのだ)とか何とか呪詛の言葉を吐きつつ、しょうがないので諦めて旧丸ノ内線の地下鉄B線でアバスト・プラザ・ホテルに行って、こちらで行動を共にすることの多いフリーカメラマン(動画のほう)のKさんとタクシーで30分(それだけ乗っても料金は700円程度)かけて競技場へ行くと9時である。第1試合は9時半、第2試合は11時半、第3試合は16時、第4試合は18時のキックオフ。ぜんぶ見て、めし食ってホテルに戻ると22時ぐらいになっている。疲れちゃって、原稿なんか書いてられません。ビールとかワインとか飲んじゃってるせいもあるわけですけども。そんなわけだから、日誌も毎日書くというわけにはなかなかいかないのだった。

 日本からはKさんと私以外に日テレ関係とTBS関係のクルーが取材に来ているのだが、一昨日は日テレ関係者が何とかというマイクを、昨日はTBS関係者がカメラを、それぞれ盗まれた。床や地面に置いて何か食べたり煙草吸ったりしている隙に、何者かが脱兎のごときスピードでかっぱらっていったらしい。治安はさほど悪くはないと聞いていたが、良くもないのである。そういえば昨日の朝、地下鉄に乗ろうと階段を下りていったら、踊り場に小学2年生ぐらいの男の子が倒れていて、その脇に二名の警官が立っていたのだが、あれ、何だったんだろうか。急いでいたのでよく見なかったけど、死んでいるようにも見えた。うー。

 到着してから三日間はとても暑く、とくに一昨日は真夏のビーチにいるような日差しだったが、昨日今日はものすごく寒い。冷たい風がびゅーびゅー吹いていて、出国した日の東京より寒いぐらいだ。天気も気紛れなのである。私も含めて、取材陣はみんな真っ黒に日焼けした顔で「寒い寒い」とぶるぶる震えている。へんな風景。とにかく置き引きと風邪には気をつけなければいけません。

 大会のほうは、きのうでグループリーグが終了。ブラジルのジョアンとリカルド、アルゼンチンのヴェロとロドリゲス、スペインのホセとチャピなど、驚異的なテクニックを持つドリブラーたちのプレイに唸らされる日々である。世界のブラインドサッカーはとんでもないことになってます。大会運営も別の意味でとんでもないもので、たとえば二日目まではキックオフ前の国歌が途中でフェイドアウトされることがしばしばあり、イングランドやパラグアイや韓国は演奏が消えてもかまわず最後まで歌いきるという、素晴らしい態度を見せていた。あと、初日の1試合目は観客席のほうを向いて歌っていたのに、2試合目の日本戦からは本部席のほうを向いたので、テレビの撮影隊は「やられた」と罵りながら大慌てで反対側にカメラを運んでいた。ふつうあり得ないよな、そんなこと。以下、二日目と三日目の試合結果。

●日本 0-7 ブラジル(グループA)
 コテンパンにされてしまいました。前半はジョアン3ゴール、リカルド1ゴールで0-4、後半にもその二人とセルヴェリーノ・シウバに1点ずつ決められて計7失点である。ブラジルはとにかくシュートの精度が高い。6メーターラインの外からのミドルも含めて、ビシビシと枠に飛んでくる。枠をとらえる確率は、間違いなく柳沢より高い。見えないのに、である。どうなってんだ一体。ブラジルも柳沢も。しかし日本も臆することなくファイトしていた。前日のパラグアイ戦で見られた堅さもなくなり、序盤から果敢にプレスをかけにいく姿は頼もしく見えた。福本や落合ら中盤の選手たちは、くるくる回ってDFを翻弄するリカルドのドリブルにも、「コイツすげえな」と面白がって対応していたような印象。ものすごく良い経験をしているに違いない。攻撃陣の田村と田中にも惜しいシュートが何本かあり、初戦よりもゴールは近づいていた。

●パラグアイ 6-1 フランス(グループA)
 パラグアイは相変わらず2枚のDFがべったりゴール前に張り付いたまま動かない。フランスはその前のスペースを使って左右にパスを回して攻めるのだが、この競技はいまのところ個人技がモノをいう世界で、組織的に攻めようとしても、がっちり守られると埒があかないようなところがある。結局、キープ力と決定力に優れたパラグアイのアタッカーにボカスカ決められていた。フランスの得点はブラジル戦もこの試合も8メートルPKのみ。これは「第2PK」とも呼ばれるもので、前後半それぞれのチームファウルが4つになると、それ以降はFKではなくゴールから8メートル地点からのPKが与えられるのである(通常のPKは6メートル地点)。ファウルを多くもらって第2PKを狙うのがフランスのパターンなのかもしれない。

●アルゼンチン 5-0 韓国(グループB)
 この試合で2ゴールを決めたアルゼンチンの主将ヴェロは、どうやら「世界最高のブラインドフットボーラー」と呼ばれているらしい。どこで誰がそう呼んでいるのか定かではないが、たしかに強烈な存在感を持つスーパースターである。前日のスペイン戦ではそんなに目立った印象がなかったものの、この試合ではすごいプレイを見せた。うまく説明する自信がないのだが、ボールを両足にはさんでジャンプし、後ろから前にポーンと浮かせて、目の前にいるDFを抜き去ったのである。意味わかりますか。それを自らドリブルで運んで、チームの4点目をゲット。いわゆる「カニばさみジャンプ」だが、メキシコのブランコをはるかに超えている。

●スペイン 0-0 イングランド(グループB)
 初戦のあと、地力はアルゼンチンよりスペインが上のように見えると書いたが、そうでもないような気がしてきた。足元はうまいが詰めが甘いあたり、同じ国の「見える人たち」とよく似てますな。スコアレスドローで終わった瞬間、イングランド・ベンチは勝ったかのような喜び方だったから、この両国にはかなりの実力差があるんでしょうけども。韓国ともゼロゼロ、スペインともゼロゼロというあたり、イングランドのことがよくわからない。おまえらはイタリアか。

●ブラジル 2-0 パラグアイ(グループA)
 大会第3日の第1試合は、ともに準決勝進出を決めている南米対決。パラグアイは3バックでふだん以上にべったり守っていたが、巧みなドリブルで最終ラインを切り裂いたリカルドからのパスをジョアンが決めて前半は1-0。後半にはセルヴェリーノ・シウバのPKも決まって2-0である。試合終了後、スタンドで悔しがっているパラグアイ人の子供たちを「どうだ参ったか」とでもいうような態度で挑発しているブラジル人のオッサンがいて、とても大人げなかった。

●日本 1-1 フランス(グループA)
 実力伯仲。いや日本のほうがやや上か。決定機は日本のほうが多かったと思う。「相手をぶっ倒してでも前に行く」というガッツも日本が上回っていた。前半5分、田中がゴール前の混戦からボールをゴールに押し込んだプレイがその象徴。キーパーチャージをとられてノーゴールの判定だったが、見ていて胸が熱くなるような闘志だった。この判定も含めて、審判は(ナニ人だかわからないのだが)フランス寄りな感じ。フランスの得意な8メートルPKを8本も与えやがって、かなり不愉快だった。でもフランスはそれをことごとく失敗。後半、プティ似の9番Villerouxにドリブルで中央突破され、先制を許したものの、日本も終盤は怒濤の攻撃。ついにエース田村の右足が炸裂して強烈な同点ゴールが決まったときは、思わず「よっしゃ!」と声を上げてしまった。得失点差でグループ4位に終わったものの、日本の世界選手権初ゴールを奪うことができてよかった。

●アルゼンチン 2-0 イングランド(グループB)
 因縁の対決だが、満員のスタンドからイングランドへのブーイングはありませんでした。アタッカーのコンビネーションという点では、アルゼンチンのヴェロとロドリゲスが今大会のナンバーワンだろう。ヴェロが左右のサイドから入れるクロスがきっちりロドリゲスの足元に収まる神業のごときシーンが何度も見られた。それにしても地元観客は楽しそう。大会前、晴眼アルゼンチン代表がアイマスクをしてB1代表と親善試合を行い、それがテレビでも放送されたらしく、それもあって人気が高まったのかもしれない。B1代表は晴眼代表をノースコアに抑えたそうだ。当たり前といえば当たり前、凄いといえば凄い話。

●スペイン 6-0 韓国(グループB)
 弱い相手からはバカスカ得点するあたりも、晴眼スペイン代表とそっくりですな。ちょっと危険なぐらいの闘争心でぶつかっていく韓国も同じことがいえるけど。ともあれ、これでグループリーグは終了。準決勝はアルゼンチン×パラグアイ、ブラジル×スペイン。負け組のほうのは何と呼ぶのかわからないが(準順位決定戦?)、日本はイングランド、韓国はフランスと戦い、勝った同士が5ー6位決定戦、負けた同士7−8位決定戦を行うことになっている。こんなところで日韓戦は見たくないので、イングランドに勝ってフランスと再戦し、決着をつけてもらいたい。













2006. 11. 24.(Viernes) BGM : 地元のFMラジオ

 生まれて初めてプレスカードっちゅうもんを首から下げてちょっぴり照れつつ、朝9時半から夜8時頃まで、世界選手権初日の4試合をべったりと観戦。猛烈な日差しで、スタンドには日陰がまったくないため、鼻の頭がヒリヒリするぐらい日焼けした。詳しく書きたいがクタクタなので、結果と簡単なメモだけ書いておく。

●ブラジル 4-1 フランス(グループA)
 フランスにはアンリ似のストライカーとプティ似のMFがいたが、勝ったのはリバウド似の9番が4ゴール決めたブラジル。1-1-2の攻撃的な布陣を最後まで貫いていた。

●日本 0-3 パラグアイ(グループA)
 完敗。パラグアイは2-2で完全に攻守を分業するクラシックなスタイルだったが、ドリブル、トラップ、パスなどの基本技術がきわめて正確。日本は前から佐々木、田中、福本、山口、GK風祭(監督の息子)という1-2-1のスタメンで、序盤は互角にやっていたように見えたが、早い時間に1トップの佐々木が接触プレイで顔面を負傷してアウトしてしまったのがとても痛かった。

●アルゼンチン 1-1 スペイン(グループB)
 いきなりの強豪対決は引き分け。ものすごいハイレベルな戦いだった。地力はスペインのほうが上と見たが、アルゼンチンはなにしろ地元観客の声援がすごい。いや試合中はボールの音が聞こえなくなるので声援を送っちゃいけないのだが、惜しいシュートへの「うぅっ」というリアクションは本物の迫力。先制ゴールを決めたロドリゲス君は、試合終了後、子供たちにもみくちゃにされてすっかり英雄になっていた。それにしてもアルゼンチン観客が一斉に引き上げたあとのスタンドの汚さよ。

●韓国 0-0 イングランド(グループB)
 すっかり閑散とした会場で行われた試合は、中身もお寒い感じ。国旗やユニフォームをみるかぎり、やっぱり英国じゃなくてイングランドですね、これは。主催者のつくった資料が間違ってるんだと思う。それ以外にも主催者には不手際が多々あるのだが、それはまた後日。





2006. 11. 23.(Jueves) BGM : 地元のFMラジオ

 こっち(ブエノスアイレスのことだ)は夏なのである。うっかり昼間に長袖で外出すると汗だくになるぐらい暑い。時差は12時間。何から何までひっくり返る感じなのが、地球の裏側に来るということなのである。利き腕や性別が逆転していないのが不思議なくらいだ。もしかしたら血液型はBからAになっているかもしれない。ともかく、日本で読んでるあなたが上だと思ってるのは、私にとって下なのです。そんなこと言われても、どうしていいかわからんと思うけど。私もどうしたらいいのかわからん。べつに「常識を疑え!」とかそういうことを叫びたいわけではありません。地球にぶら下がってるような実感もない。ぶら下がってません。いや、ぶら下がってるっちゃあぶら下がってんのかな。どうなんだそのへんのことは。

 国会議事堂の近くに建つサヴォイホテルは、なんとシャワーからお湯が出るという特徴を持った、とてもすばらしいホテルだ。それ以外に褒めるところが見つからない。ビジネスセンターという名の小部屋に行かないとインターネットに接続できないのはもちろん、部屋で履くスリッパもなければ、洗面所には歯ブラシも用意されていないのだった。ったく、初めてブエノスアイレスに来たスペイン語のできない日本人が、おばあちゃんが店番してる街角の薬屋で歯ブラシと歯磨き買うのにどんだけ苦労すると思ってんだよ。いい大人に歯磨きのジェスチャーさせないでほしいよ。「シャカシャカくださいシャカシャカ」とか言わせるなっていうんだよ。頼むよ。ま、わりとすぐわかってくれたけどさ。

 ブエノスアイレスは「よい空気」という意味だが、あまり深呼吸したくなるような街ではない。クルマの交通量はやたら多いし、歩行者の3人に1人は煙草を吸いながら歩いている。喫煙者にとっては楽園のような街だ。で、歩いている女の人は3人に1人が巨乳で、歩いている男は老若を問わず全員が「ちょいワル」です。アジャラに似てる人やガジャルドに似てる人がいっぱい歩いていて楽しい。クレスポに似た人やアイマールに似た人は全然いない。あと、意外によく見かけるのがサネッティに似た人だ。サネッティに似た人だけは、ちょいワルじゃないな。アルゼンチンの男には、ちょいワルとサネッティの2種類がいるということかもしれない。

 日本代表チームを含む各国の大会関係者が宿泊しているアバスト・プラザ・ホテルは、サヴォイホテルから地下鉄で3駅。コリエンテス大通りの下を走る地下鉄B線に乗って、CallaoからCarlos Gardelまで「通勤」している。きのう初めて乗ったとき、吊革の手応えとか立ち位置の選択とか車内の風景とかが妙に馴染みやすい感じであんまりドキドキしないよなぁと思ったのだが、あとで現地在住の日本人が「あれ、丸ノ内線ですよ」と教えてくれた。B線はぜんぶ元丸ノ内線だそうだ。最初はまさかそんなこと思いつかないから気がつかなかったが、言われてみればデザインもそのまんま。車内には「乗務員室」とか日本語も残っている。よくもまあ、こんなに遠いところまで運んだもんだよ。ものすごくご苦労さん。わざわざ地球の裏側まで来て、なんで丸ノ内線に乗らなあかんのかとも思うが、「アウェイの試合でスタンドの片隅にちょっとだけ集まって日の丸を振っている現地在住サポーター」ぐらいの頼もしさはある。

 さて、ブラインドサッカーだ。ひょんなことから、今年の8月に取材を開始した。とはいえ、なにしろ脅威的かつ驚異的な忙しさだったので、まだ大した取材はしていない。この世界選手権までに、JBFA(日本視覚障害者サッカー協会)や代表チームの関係者とのつながりを作ったりするので精一杯だった。もっとも、最初から長期戦のつもりで始めたことで、すぐに何かを書こうというわけではない。じっくり取材を進めて、いずれ長いものを書こうと思っている。今回の世界選手権は、そのとっかかりのようなものだ。もちろん、雑誌なり何なりで書けるチャンスがあれば短い原稿も書きたいとは思ってますが。

 この障害者スポーツの何に惹かれたのかは、まだ自分のなかでもうまく説明できない。ときにミラクルなプレイが飛び出す反面、ときに空振りのような悲しいプレイも飛び出す競技なのだが、初めて観戦したときに感じたのは、「見る者に異様に集中力を要求する競技」だということだった。鈴の入ったボールを聴覚を頼りに追いかける選手たちの集中力に、見ている側も引きずり込まれるような感じがするのである。ちなみに「鈴の入ったボール」と聞くと、たいがいの人は「リンリンリン」という風鈴的な音色を想像するし私もそうだったのだが、実際は「ジャラジャラジャラ」という鎖を引きずっているような音がする。あんがいヘヴィメタルなサウンドなのだ。

 ルールは、基本的にフットサルと同じ。B2/B3(弱視)クラスは、何も違わない。ボールに鈴も入っていない。知らないで見たら、ただのフットサルにしか見えない。一方、今回の世界選手権のようなB1(全盲)クラスの場合、5人のプレイヤーのうち、GKを除く4人のフィールドプレーヤーは全盲でなければいけない。ただし同じ全盲でも「光覚」「義眼」など視覚の状態に差があるので、全員アイマスクを着用して条件を揃える。音の出るボールを使用するほか、両サイドに高さ1メートルほどのフェンスを置いてボールが出ないようにすること、攻めるゴールの裏に「コーラー」と呼ばれる味方の指示者がいること、相手選手に近づくときは危険防止のため発声すること(国によって違うようだが日本では「ボイ、ボイ」と発声している。スペイン語で「行く」という意味らしい。5年前に日本で始まった頃は「まいど、まいど」と発声する者もいたが笑ってしまうのでやめたという説もある)などが、フットサルとは異なるところだ。当然、文字どおりの「壁パス」ができるなど、戦う上ではフェンスの使い方がひとつのキモになる。フェンス際の1対1は、アイスホッケーを想起するような激しさだ。

 ブラインドサッカーは80年代にスペインで始まったので、欧州ではスペインが強い。ドイツあたりは最近ようやくやり始めたぐらいのようだ。南米では当然(なのかどうか知らないが)ブラジルとアルゼンチンが二強。アジアでは韓国が最初にやり始め、今世紀に入ってから日本に紹介された。しかし日本は急速に力をつけ、昨年、日本、韓国、ベトナムの3カ国で争われたアジア予選で優勝して今回の出場権を得たのである。何であれ、韓国に勝って出場権を得た代表チームはとてもえらい。

 で、その世界選手権が明日開幕するわけだが、今日は選手たちのメディカルチェックが行われた。メディカルチェックって、ふつうは健康であることを確認する作業なのだが、この場合は全盲であることのお墨付きをもらうために受ける。およそどの障害者スポーツにも似たようなことがあるのだろうと想像するが、これはつまり「見えていると出場できなくて悲しい」という話なわけである。だから障害者スポーツを語るのは難しい。障害者問題を語るよりも障害者スポーツを語るほうが難しいかもしれない。全盲であることを医学的にどうやって証明するのか(あるいはどう定義づけるのか)についてはまだ取材が及んでいないのだが、「自己申告」による部分があるとすれば、いずれ「虚偽全盲」のようなスキャンダルが発生する恐れもあるのではないだろうか。

 ともあれ、日本チームは全員OK。午後には試合会場での初練習が行われた。ブエノスアイレスの中心地から車で30分ほど行ったところにある「CeNARDO」という広大な総合スポーツ施設である。事前にどうやらそうらしいと聞いてはいたが、信じられないのは大会が行われるグラウンドの地面が「コンクリート」だということだ。ルール上は問題ないとのことだが、コンクリートの上でやっていいスポーツって、スケボーぐらいしか思いつかない。ふだん人工芝や土のグラウンドでプレイしている選手たちも皆、「滑る」「転ぶと痛いから怖い」「音が聞こえにくい」といったネガティブな感想を口にしていた。セットプレイ時のボールのプレイスも、ころころ動いてしまってやりにくそうだ。他にいくらでもフットサルができそうな場所はあるのに、なんでそんなところでやるのかよくわからない。選手が大きな怪我をしないことを祈るばかりだ。また、上空を10分と開けずに航空機が轟音を立てて飛んでゆき、近くにある射撃場からはひっきりなしに銃声が響くという点でも、聴覚が頼りの競技には最悪の環境。競技の特性を知らない人間が決めたとしか思えないセッティングである。

 しかし文句をいっても始まらないというか、もう始まってしまうというか、兎にも角にも明日はパラグアイとの対戦だ。直前に参加が決まったこともあって、どんなチームなのかまったく情報がないらしい。なにしろパラグアイ人だからガチガチ当たってくる奴らかもしれないが、ならば日本にだって、顔もプレイスタイルもシメオネ似の福本大輔がいる。私は彼のプレイが大好きなのだ。風祭監督には、できればスタートから彼を起用してほしいと思っている。





2006. 11. 22.(Miercoles) 25 : 20
BGM : Otono Porteno / Astor Piazzolla

 元来、私は旅に消極的な人間である。人生を旅だと思ったことはないし、旅が人生だと思ったこともない。人生は人生で旅は旅だ。したがって旅に消極的な人間が人生に消極的だとはかぎらないのであって、私の場合も人生には積極的だからこそ旅に消極的な人間が編集者もカメラマンも同行しない心細い旅に出るということになったのだった。とはいえ日本代表チームに帯同させてもらったので実はそんなに心細くなかったのだが、宿泊先は別なので孤独といえば孤独。

 ともあれ、なんというのか、まあ、これも人生のプチ転機ってやつだろうと思うわけだが、しかし旅の目的を詳しく書くには、疲れすぎた。ブエノスアイレスは遠い。ちょっとどうかと思うぐらい遠いぞ。成田から約27時間、経由地のダラスで吸い損ねたせいで丸一日以上ケムリを断っていたので、エクアドル上空を過ぎたあたりから発狂しそうだった。エセイサ国際空港から外に出て貪るように吸ったら爪先までニコチンが行き渡るのがわかり、煙草ってこええな、と思った。それぐらいアルゼンチンは遠いのである。

 そんなわけなので、取り急ぎ、グループリーグの抽選結果だけ書いておく。当初は以下の8カ国に加えてセネガルが参加する予定だったが、なぜか辞退したので変則的なかたちにならずに済んだ。

グループA ブラジル フランス 日本 パラグアイ
グループB アルゼンチン スペイン 韓国 イギリス

 イギリスはイングランドではなく英国代表である。ブラジル、アルゼンチン、スペインがこの業界では優勝候補なので、日本にとっては願ってもない組み分け。開幕直前まで対戦国がわからないのって困るよなあと思っていたのだが、実際に現地に来て抽選会に立ち会ってみると、これはこれで一気にコーフンが高まって悪くない感じ。ともあれ日本代表は24日にパラグアイ、25日にブラジル、26日にフランスと対戦。グループ2位以内に入れば準決勝進出、3位以下だと順位決定戦に回ることになる。どんな大会でもそうだが、ここでも初戦がめちゃめちゃ大事だ。とても楽しみである。

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