2006. 11. 27.(Lunes)
BGM : 地元のFMラジオ
夜は原稿を書く時間があるだろうと思って雑誌の仕事を3本持ってきたのだが、予想以上に忙しくて全然はかどらない。朝は7時起床、めし食って、ビジネスセンターでメールをチェックして、返信を書いて、ニュースサイトを見ようとしたら何だか知らないが急にネットにつながらなくなったりして、何だよどうしたんだよアルゼンチンって機械まで気紛れなのかよ(大会の主催者やスタッフをはじめとして、いろいろ気紛れな人が多いのだ)とか何とか呪詛の言葉を吐きつつ、しょうがないので諦めて旧丸ノ内線の地下鉄B線でアバスト・プラザ・ホテルに行って、こちらで行動を共にすることの多いフリーカメラマン(動画のほう)のKさんとタクシーで30分(それだけ乗っても料金は700円程度)かけて競技場へ行くと9時である。第1試合は9時半、第2試合は11時半、第3試合は16時、第4試合は18時のキックオフ。ぜんぶ見て、めし食ってホテルに戻ると22時ぐらいになっている。疲れちゃって、原稿なんか書いてられません。ビールとかワインとか飲んじゃってるせいもあるわけですけども。そんなわけだから、日誌も毎日書くというわけにはなかなかいかないのだった。
日本からはKさんと私以外に日テレ関係とTBS関係のクルーが取材に来ているのだが、一昨日は日テレ関係者が何とかというマイクを、昨日はTBS関係者がカメラを、それぞれ盗まれた。床や地面に置いて何か食べたり煙草吸ったりしている隙に、何者かが脱兎のごときスピードでかっぱらっていったらしい。治安はさほど悪くはないと聞いていたが、良くもないのである。そういえば昨日の朝、地下鉄に乗ろうと階段を下りていったら、踊り場に小学2年生ぐらいの男の子が倒れていて、その脇に二名の警官が立っていたのだが、あれ、何だったんだろうか。急いでいたのでよく見なかったけど、死んでいるようにも見えた。うー。
到着してから三日間はとても暑く、とくに一昨日は真夏のビーチにいるような日差しだったが、昨日今日はものすごく寒い。冷たい風がびゅーびゅー吹いていて、出国した日の東京より寒いぐらいだ。天気も気紛れなのである。私も含めて、取材陣はみんな真っ黒に日焼けした顔で「寒い寒い」とぶるぶる震えている。へんな風景。とにかく置き引きと風邪には気をつけなければいけません。
大会のほうは、きのうでグループリーグが終了。ブラジルのジョアンとリカルド、アルゼンチンのヴェロとロドリゲス、スペインのホセとチャピなど、驚異的なテクニックを持つドリブラーたちのプレイに唸らされる日々である。世界のブラインドサッカーはとんでもないことになってます。大会運営も別の意味でとんでもないもので、たとえば二日目まではキックオフ前の国歌が途中でフェイドアウトされることがしばしばあり、イングランドやパラグアイや韓国は演奏が消えてもかまわず最後まで歌いきるという、素晴らしい態度を見せていた。あと、初日の1試合目は観客席のほうを向いて歌っていたのに、2試合目の日本戦からは本部席のほうを向いたので、テレビの撮影隊は「やられた」と罵りながら大慌てで反対側にカメラを運んでいた。ふつうあり得ないよな、そんなこと。以下、二日目と三日目の試合結果。
●日本 0-7 ブラジル(グループA)
コテンパンにされてしまいました。前半はジョアン3ゴール、リカルド1ゴールで0-4、後半にもその二人とセルヴェリーノ・シウバに1点ずつ決められて計7失点である。ブラジルはとにかくシュートの精度が高い。6メーターラインの外からのミドルも含めて、ビシビシと枠に飛んでくる。枠をとらえる確率は、間違いなく柳沢より高い。見えないのに、である。どうなってんだ一体。ブラジルも柳沢も。しかし日本も臆することなくファイトしていた。前日のパラグアイ戦で見られた堅さもなくなり、序盤から果敢にプレスをかけにいく姿は頼もしく見えた。福本や落合ら中盤の選手たちは、くるくる回ってDFを翻弄するリカルドのドリブルにも、「コイツすげえな」と面白がって対応していたような印象。ものすごく良い経験をしているに違いない。攻撃陣の田村と田中にも惜しいシュートが何本かあり、初戦よりもゴールは近づいていた。
●パラグアイ 6-1 フランス(グループA)
パラグアイは相変わらず2枚のDFがべったりゴール前に張り付いたまま動かない。フランスはその前のスペースを使って左右にパスを回して攻めるのだが、この競技はいまのところ個人技がモノをいう世界で、組織的に攻めようとしても、がっちり守られると埒があかないようなところがある。結局、キープ力と決定力に優れたパラグアイのアタッカーにボカスカ決められていた。フランスの得点はブラジル戦もこの試合も8メートルPKのみ。これは「第2PK」とも呼ばれるもので、前後半それぞれのチームファウルが4つになると、それ以降はFKではなくゴールから8メートル地点からのPKが与えられるのである(通常のPKは6メートル地点)。ファウルを多くもらって第2PKを狙うのがフランスのパターンなのかもしれない。
●アルゼンチン 5-0 韓国(グループB)
この試合で2ゴールを決めたアルゼンチンの主将ヴェロは、どうやら「世界最高のブラインドフットボーラー」と呼ばれているらしい。どこで誰がそう呼んでいるのか定かではないが、たしかに強烈な存在感を持つスーパースターである。前日のスペイン戦ではそんなに目立った印象がなかったものの、この試合ではすごいプレイを見せた。うまく説明する自信がないのだが、ボールを両足にはさんでジャンプし、後ろから前にポーンと浮かせて、目の前にいるDFを抜き去ったのである。意味わかりますか。それを自らドリブルで運んで、チームの4点目をゲット。いわゆる「カニばさみジャンプ」だが、メキシコのブランコをはるかに超えている。
●スペイン 0-0 イングランド(グループB)
初戦のあと、地力はアルゼンチンよりスペインが上のように見えると書いたが、そうでもないような気がしてきた。足元はうまいが詰めが甘いあたり、同じ国の「見える人たち」とよく似てますな。スコアレスドローで終わった瞬間、イングランド・ベンチは勝ったかのような喜び方だったから、この両国にはかなりの実力差があるんでしょうけども。韓国ともゼロゼロ、スペインともゼロゼロというあたり、イングランドのことがよくわからない。おまえらはイタリアか。
●ブラジル 2-0 パラグアイ(グループA)
大会第3日の第1試合は、ともに準決勝進出を決めている南米対決。パラグアイは3バックでふだん以上にべったり守っていたが、巧みなドリブルで最終ラインを切り裂いたリカルドからのパスをジョアンが決めて前半は1-0。後半にはセルヴェリーノ・シウバのPKも決まって2-0である。試合終了後、スタンドで悔しがっているパラグアイ人の子供たちを「どうだ参ったか」とでもいうような態度で挑発しているブラジル人のオッサンがいて、とても大人げなかった。
●日本 1-1 フランス(グループA)
実力伯仲。いや日本のほうがやや上か。決定機は日本のほうが多かったと思う。「相手をぶっ倒してでも前に行く」というガッツも日本が上回っていた。前半5分、田中がゴール前の混戦からボールをゴールに押し込んだプレイがその象徴。キーパーチャージをとられてノーゴールの判定だったが、見ていて胸が熱くなるような闘志だった。この判定も含めて、審判は(ナニ人だかわからないのだが)フランス寄りな感じ。フランスの得意な8メートルPKを8本も与えやがって、かなり不愉快だった。でもフランスはそれをことごとく失敗。後半、プティ似の9番Villerouxにドリブルで中央突破され、先制を許したものの、日本も終盤は怒濤の攻撃。ついにエース田村の右足が炸裂して強烈な同点ゴールが決まったときは、思わず「よっしゃ!」と声を上げてしまった。得失点差でグループ4位に終わったものの、日本の世界選手権初ゴールを奪うことができてよかった。
●アルゼンチン 2-0 イングランド(グループB)
因縁の対決だが、満員のスタンドからイングランドへのブーイングはありませんでした。アタッカーのコンビネーションという点では、アルゼンチンのヴェロとロドリゲスが今大会のナンバーワンだろう。ヴェロが左右のサイドから入れるクロスがきっちりロドリゲスの足元に収まる神業のごときシーンが何度も見られた。それにしても地元観客は楽しそう。大会前、晴眼アルゼンチン代表がアイマスクをしてB1代表と親善試合を行い、それがテレビでも放送されたらしく、それもあって人気が高まったのかもしれない。B1代表は晴眼代表をノースコアに抑えたそうだ。当たり前といえば当たり前、凄いといえば凄い話。
●スペイン 6-0 韓国(グループB)
弱い相手からはバカスカ得点するあたりも、晴眼スペイン代表とそっくりですな。ちょっと危険なぐらいの闘争心でぶつかっていく韓国も同じことがいえるけど。ともあれ、これでグループリーグは終了。準決勝はアルゼンチン×パラグアイ、ブラジル×スペイン。負け組のほうのは何と呼ぶのかわからないが(準順位決定戦?)、日本はイングランド、韓国はフランスと戦い、勝った同士が5ー6位決定戦、負けた同士7−8位決定戦を行うことになっている。こんなところで日韓戦は見たくないので、イングランドに勝ってフランスと再戦し、決着をつけてもらいたい。