闇の中の翼たち
ブラインドサッカー日本代表の苦闘
(岡田仁志/幻冬舎/1500円+税)







キャプテン翼勝利学
(深川峻太郎/集英社インターナショナル)





11月の日誌

扉(目次)

深川全仕事

大量点計画

江戸川時代

メ ー ル


※12月14日〜24日までの日誌は、アジア選手権用特設ページでお読みください。


平成二十一年十二月三十一日(木) 82.4 kg


キャプテン闇翼
BGM : キミノコエ / カズン


 2009年の最後に、本年最高のゴールシーンを。彼以上に「ワールドクラス」と呼ぶにふさわしいフットボーラーが、果たして今のこの国にいるだろうか。







平成二十一年十二月二十九日(火) 82.4 kg


「08-09シーズン」の終わりに
BGM : World Within a World / Raul Midon



 そろそろ1年を締めくくるようなことを書きたいと思うのだが、その前に、アジア選手権の決勝戦について自分がほとんど書いていないことに気づいた。いまさら試合展開を細かく振り返ることはしないが、あの中国戦は、0-2で負けたとはいえ立派な試合だったと私は思う。

 正直なところ、私は試合前、「4人で守って0-0でPK戦」という展開に持ち込む以外、日本が優勝するイメージを持てなかった。実力差があるのはもちろん、前日に全力で2試合を戦った日本と、実質的に「中1日」(厳密には2日目のマレーシア戦も後半休んだので「中1.3日」ぐらい)の中国とでは、スタミナの面で大差があったからだ。実際、あの日の日本チームは、試合直前のアップの様子を見てからでなければ先発メンバーも決められないような状態だった。

 しかし同時に、風祭監督がそのような戦い方をさせないこともわかっていた。私は以前、同じようなことを監督に言ってみたことがある。仙台で開催された第7回日本選手権の決勝戦。勝ち上がったのは、アヴァンツァーレと大阪ダイバンズ。誰もが準決勝のアヴァンツァーレ対たまハッサーズを「事実上の決勝戦」と言い、決勝ではダイバンズの劣勢が明らかだった。そこで私は、試合前にスタンドで並んで弁当を食べながら、ダイバンズの風祭監督に「試しに、絶対に失点しない極端なやり方を見てみたいような気もしますね」というようなことを言った。一方的な展開ではファイナルが盛り上がらないような気がしたし、このサッカーを進歩させるための一種の「実験」としても、やってみる価値はあると思ったからだ。

「そういうやり方があるのはわかっとるけど……サッカーやらんとね」

 監督は、そう言ってニッコリ笑った。結局、ダイバンズは大差で砕け散ったが、その決勝戦は少しもつまらない試合ではなかった。サッカーの面白さ満載だった。

 中国との決勝戦でも、監督はトップの佐々木を自陣まで戻らせようとしなかった。敵陣ではボールホルダーを追わせるが、センターラインを越えると「もうええ」と指示して前線に残らせる。そして日本は、2点を失った。トップの選手にも守備をさせていたら、あの2失点はなかったかもしれない。リーグ戦のイランと韓国は4人で守りながらも中国を完封できなかったが、3人守備で初戦を(不運な)1失点に抑えた日本なら、それも不可能ではなかっただろう。だが、それでは来年の世界選手権につながらない。というより、このサッカーの発展につながらない。あの中国のディフェンスを突破したその先に、ブラインドサッカーの未来があると私は思っている。それを見据えて戦うのが、「志」というものだ。目先の優勝は、ただの結果でしかない。

 そういう意味も込めて、私は闇翼コラム最終回で「気高いサッカー」という言葉を使った。日本チームは、あの決勝の50分間を通じて、前日よりも一段階レベルアップしたはずだ。スコアだけ比較して、初戦より決勝戦を低く評価する向きもあるかもしれないが、少なくとも私はそういう見方に与しない。どちらの試合も、日本は日本が志すブラインドサッカーをやりきったのである。

 ところで、アジア選手権用特設ページのほうではすでに書いたが、閉会式後にプレスアワードを授賞したマレーシアの6番は「Muhammad Aiman Jahya Sibintang選手」ではなく「Saihul Izwan Rostam選手」だった。大会パンフレットの背番号と名前に不一致があったのだが、ミスの責任は公式記録を確認しなかった私にある。申し訳ない。お詫びして訂正します。

 で、2009年も終わろうとしているわけだが、私にとっては、2008年からの2年間が終わろうとしているような感じ。去年の秋に出すつもりで書き始めた本が今年の夏までかかってしまったので、08年と09年のあいだに境界線があったような気がしない。その作業と並行して、08年秋には「SAPIO」の連載が始まったこともあり、この2年間は、ライターとしての激変期だった。署名で物を書く機会が増え、背負う責任が何十倍もの重さになったような気がする。

 このあいだ、酒の席でつまらぬことから親友と口論になり、それがおさまってから、別の親友に「おまえは最近ちょっと怖いぞ。いい年してトンガリすぎだ」と諫められた。そういえば最近、怖がられることが多いような気がする。証券会社の電話セールスが用件を言う前に受話器を置いてしまうのも、新聞の勧誘員が「なんでそんなに怒ってるんですか」と涙ぐむのも、彼らに根性がないのではなく、私の態度が非常識なのかもしれない。プレスアワードの贈呈式でマレーシアの6番と並んで写真を撮られたときも、北岡さんに「岡田さん、顔が怒ってますよ」と言われて反省した。

 もし私が以前より「怖い人」になっているとしたら、それはたぶん、仕事を通じて自分が強い恐怖感を味わっていることの裏返しなのだと思う。ふだんはさほど意識していないつもりだが、実のところ「書く」はひどく怖い営みだ。それは必ず共感と反感の両方を呼び、敵と味方を同じだけ作る。どの本やコラムも、その文章の前で苦々しい表情を浮かべる読者がいるに違いない。さらにドキュメンタリーの場合、取材対象者の人生まで背負ってしまう。

 今から振り返ると、私はこの2年間、常にビクビクと怯えながら物を書いていたように思う。そして、「ビクビク」と「ピリピリ」は表裏一体だ。だから「怖い」のではあるまいか。とはいえ、もっと穏やかな中年になるべきなのかどうかは、まだよくわからない。

 もうひとつ、「怖い」の原因として思い浮かぶことがある。ブラインドサッカーの取材を始めてから、私は喜怒哀楽の振幅が以前よりも明らかに激しくなった。喜怒哀楽の「沸点」が異様に下がった、という言い方をしてもいい。でも、それはきっと幸福なこと。JBFA強化部のヤギさん(トモさんの奥さん)によれば、ブラインドサッカーと出会ったせいで「人生を踏みあやまった人間(笑)」が彼女の見るところ2人いて、ひとりは会社を辞めてJBFA事務局長に就任した松崎さん、もうひとりは私だそうだ。それもまた私を喜ばせる。そういえば決勝戦の翌日には、GKのゴリさんから「来年もまた一緒に青春しましょう!」というメールをもらった。そうなのだ。ブラインドサッカーは、あろうことか、この中年男を青春させてしまったのである。

 よいお年を。





平成二十一年十二月二十六日(土) 82.2 kg


ルーレット
BGM : State of Mind / Raul Midon



 昨夜、黒田トモさんからメールをもらい、「めざましテレビ」のことでひとつ書き忘れていたのを思い出した。韓国戦の2点目、相手DFを華麗にかわしたターンのことを、番組では「マルセイユ・ルーレット」と紹介したが、あれはルーレットではない。サッカーの好きな人なら、見た瞬間にわかったと思う。ルーレットは、左右の足でボールを持ち替えながら「半回転+半回転=360度の回転」で敵を抜く技だ。だが、あのときトモさんは左足でボールを踏んで左回りにターンしてから右足でシュートを放ったのだし、全回転はしていない。本人によれば「足の踏み替えをしない270度ターン」で、実戦では「こちらのほうが効果的なのでルーレットよりもよく使います」とのことである。「苦労して身につけた大技が大事な場面で出た!」のではない。いや、もちろん270度ターンだって苦労して身につけた大技には違いないのだが、番組の筋書きには(制作者の気持ちはわかるけれども)無理があったと言わざるを得ません。取材現場でトモさんのあの技に注目するよう誘導したのは私なので、このような結果になって残念だ。「めざましテレビ」は世界選手権までブラインドサッカーを追うことになり、私も引き続き協力を要請されたので、今回の反省を活かして微力ながらより良い番組作りに貢献したいと思う。ちなみに「マルセイユ・ルーレット」は俗称で、正式名称は「ルーレット」だそうなので(セガレが読んでいたサッカーの技術書でもそうなっていた)、私の本では単に「ルーレット」としました。

 無論、事実を効果的に伝える上での「演出」を全面的に否定するつもりはないし、私の本にもそれがまったくないわけではない。面白くするには、もっと大胆に演出すべきだったと思うぐらいだが、それをやるには書き手として力量不足だったというのが正直なところ。見聞きしたことをできるだけ正確に伝えるだけで精一杯だった。まだまだ修業が足りない。

 そういえば、いま、愚妻が『闇の中の翼たち』を再読している。アジア選手権を開幕戦から3日目の日韓戦までベッタリ観戦した(4日目はセガレの杉並Aリーグを優先せざるを得なかった)彼女に言わせると、「試合を見てから読んだほうが面白い」とのこと。なるほど、そういうモンかもしれんなぁ。当たり前だが、スピード感や激しさといった選手たちの凄味は、実際のプレイを通してしか伝わらないのである。アジア選手権をご覧になった方は、お暇ならあらためて読んでみてください。オレも、もう一回読んでみようっと。

 結局、大会が終わってもブラインドサッカーのことばかり書いている。





平成二十一年十二月二十五日(金) 81.8 kg


テレビって奴は
BGM : The Jethro Tull Christmas Album / Jethro Tull



 今朝の「めざましテレビ」で、ブラインドサッカー日本代表の黒田智成選手とその家族を追ったドキュメンタリーが放送された。「ヒト調」というコーナーは、ひとりの人物に焦点を当てて紹介するシリーズだから、これは「スポーツ・ドキュメンタリー」として制作されたものではない。それはわかっている。したがって、アジア選手権というスポーツ・イベントを丸ごときちんと報ずるべきだとは言わないけれど、事実をねじ曲げてはいけない。番組では、この大会では総当たりのリーグ戦のみが実施されたように描き、「世界選手権出場は2位まで」と伝えていた。番組制作者の胸中はわかっているので、あまり厳しいことを言うつもりはないものの、これはウソである。

 たしかに韓国戦が終わるまで、日本選手の意識の中では「世界選手権出場は2位まで」だったかもしれない(私の知る範囲では2名の例外があるが、黒田選手はそこに含まれていない)。しかし実際には、3位の韓国までが世界選手権の出場権を得た。「それではドラマが盛り上がらない」という事情はよ〜くわかるものの、事実は事実。それに、たとえすべての選手や関係者や観客が「3位までOK」と知っていたとしても、あの歓喜の大きさは何ら変わらなかったはずだ。少なくとも私は、知っていたのにバカみたいに泣いた。3決でイランに勝てる保証なんかまったくなかったのだし、そもそも、あの勝利で日本が得たのは「世界への切符」だけではないからだ。選手たちには「地元でのファイナル進出」というプレッシャーがあったし、初戦で惜敗した中国と決勝で再戦したいと願ってもいた。それより何より、2年前の屈辱を晴らすには、是が非でも韓国に勝たねばならなかった。だからこそ、黒田選手の2ゴールは値千金だったのである。ドラマはドラマとして評価されればいいけれど、あの番組には私もいくらか関わった(大会前に女子アナから受けたインタビューでは「前回のアジア選手権は無得点で本当に悔しい思いをしたので、今回はバンバン点を取って勝ってほしい」という話もした)ので、ここで自分の見方を伝えておきたい。

 さらに個人的な感想を述べるなら、初戦の中国戦で黒田選手の放った惜しいシュートの場面が流れなかったのも残念だった。ドラマの主人公が「イラン戦まではまるで活躍できなかった」ことにしないと韓国戦の2ゴールが「わかりやすい奇跡」にならないという事情もまたよ〜くわかっているが、少なくとも私は、あの初戦のシュートと、決勝戦で倒れながら放ったラストシュートを伝えなければ、「黒田智成のアジア選手権」を描いたことにならないと思う。もちろん、制作者はそれを描きたかったのではないだろう。「頑張る障害者とそれを支える家族の姿」を世間にわかりやすい形で伝えることにも、大きな意義がある。だから、これについては私の勝手な不満にすぎない。12月4日の「めざましテレビ」のお陰で本も在庫が少し減ったようだし、仕事場がものすごく綺麗にもなったので、番組スタッフには感謝している。今回は北岡さんの名前も出た。

 だが、何度だって言うが、来年の世界選手権開催地はロンドンではない。JBFAサイトのこのページを見るだけですぐにわかることなのに、なんでテレビの人はそんなにロンドンが好きなのだ。先日JBFAの釜本美佐子理事長(元ツアーコンダクター)にうかがったところ、開催地のヘレフォード(Hereford)はロンドンから鉄道で2時間半もかかるという。取材や観戦で近郊から会場に通うなら、チェスターかコベントリーあたりに「いいホテルがありますので」オススメだそうだ。ともかく、ぜんぜんロンドンじゃないのである。たしかに「ヘレフォード」じゃ誰も知らないからわかりにくいし、読み方も怪しい(私もカナ表記に自信がない)が、だったら「イギリス」もしくは「イングランド」と言っておけばいい。もっとも、これも微妙な話ではある。これはサッカーの大会だし、あの国のブラインドサッカーはFAの傘下にある(世界選手権や欧州選手権ではユニオンジャックではなくイングランド国旗を掲げてもいる)ので、私は来年の世界選手権が「イングランド大会」だと思っているが、パラリンピックでは(おそらく五輪と同様「イングランド」としては出場できないためだろう)ユニオンジャックを掲げていたので、ちゃんと確認しないといけません。

 それにしても、チェスターかコベントリーかぁ。何も知らないけど、楽しそうだよなぁ。ちょうど夏休みだし、やっぱ家族連れて行くってもんかなぁ。しかし大会期間は2010年8月13日〜24日と、モロにお盆を直撃だ。高いんだろうなぁ。しかも来年の12月には中国でアジア・パラリンピックが開催され、そこでロンドンパラ予選を兼ねたブラインドサッカーも実施されると聞いている。先立つものを稼ぐために、仕事に戻ろう。うがー。



※12月14日〜24日までの日誌は、アジア選手権用特設ページでお読みください。




平成二十一年十二月十二日(土) 82.0 kg


いま私が歌いたいのは


 ブラインドサッカー日本代表チームは、明日からキャンプインである。
 ボン・ヴォヤージュ!






平成二十一年十二月十一日(金) 82.0 kg


はばたけブラックバード
BGM : Synthesis / Raul Midon



 世間的にはまるでどうでもいいことだが、7年前の『キャプテン翼勝利学』からスタートした署名原稿の全仕事リストが100本になった。最初のナンバリングを「01」にするか「001」にするか迷ったのを思い出す。3桁にしといて正解。まさか自分が100本目でイランのブラインドサッカーについて書いているとは夢にも思わなかったけど。もちろん99本目で(何本目だろうが)nakata.netに書くとも思わなんだ。人生いろいろである。

 アマゾンの商品説明によると、ラウル・ミドンは「アルゼンチン人の父とアフリカ系アメリカ人の母を持つ盲目のシンガー・ソングライター」であるらしい。すごくいいよ、この「シンセシス」ってアルバム。「すごくいい」って子供みたいな言い草だけど。やさしくて、かっこいい。このところ、アジア選手権を控えて気持ちがやや戦闘的というか殺気立っていたので、なんか沁みました。このアルバムではオリジナル曲のほかにビートルズの「ブラックバード」もカバーしており、その弾き語りライブ映像を見つけたので埋め込んでおく。そういや「ブラックバード」って、どことなく「闇翼」っぽいイメージ。ちなみに訳詞はこちら。正確な訳かどうかは保証しません(そもそもブラックバードは「つぐみ」ではなく「クロウタドリ」だそうです)が、盲目のシンガーがこれを歌っていると思うと、ちょっとグッときますな。







平成二十一年十二月十日(木) 82.8 kg


長谷部さんの「言葉」
BGM : The Pros and Cons of Hitch Hiking / Roger Waters



 週刊サッカーダイジェストに《長谷部誠が綴る オレを変えた「あの言葉」》という連載記事がある。長谷部選手は「年間100冊を超える読書家にして言葉のコレクター」なのだそうだ。その11月24日号(連載第十回 日本人の血が騒いだ「言葉」)で、『闇翼』に書いたミノさんの言葉が取り上げられていたのを、きのう編集部から送っていただいたバックナンバーで知った。もう店頭にはないのが残念だが、こんな「言葉」がページの半分を使ってデカデカと載っている。


中学一年で
サッカーをやめましたが、
あのまま続けていても
代表選手になれたとは
思えません。
代表選手になれたのも、
目が見えなくなったお陰。

 ――06年秋、
 三原健朗 Kenrou MIHARA


 世界選手権の行われるブエノスアイレスに発つ直前、成田空港のロビーで聞いた言葉だ。私にとっても、実に印象深い。まだ目の見えない人と話すのに慣れていなかったこともあって、返す言葉が見つからなかったのを覚えている。ミノさんに声をかけたのも二度目だったのに、そんな重いことサラッと言わないでよ〜。と、思った。

 で、自分の名前がこうしてサッカー専門誌に載るのはミノさんにとっても嬉しいことだろうと思うのだが、それを見てもらえないのがまた切ない。でも「見える人」だったら、たぶん載ってないわけだしな。うーむ。nakata.netに写真が載ったオッチーさんも同じ。大の「ひでファン」なので真っ先にメールで伝えたものの、「心の目で見てください」としか言えなかった。そんな言い方をしてよかったのかどうかも、よくわからない。せめてキャプションがあれば、自分の名前があるのを音声で確認できただろうになあ。ふだん、ほとんど障害のことを気にせず冗談ばかり言いながらつき合っているが、こういうときはちょっと神妙な心持ちになる。

 それにしても長谷部選手だ。「読書家」というだけあって、真正面から、きわめて知性的なすばらしい読み方をしてくださっている。ちょっとだけ引用させていただこう。


 人間が外界を感知するための感覚機能は、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の5感だが、視覚が使えないため、彼らは聴覚を中心にその他の4感をフル活用しているのだ。(中略)今のオレに置き換えてみた場合、彼らと同じように、果たして4感をフル活用してサッカーをしているだろうか。
 そう。私は目の見えるサッカー選手に、そこを読み取ってほしかった。見えない選手は、「4感」だけでも十分にサッカーを楽しんでいる。そして、その「4感」の楽しさは、実は目の見えるサッカー選手も味わっているはず(だが意識していない)。だから、見えない選手が感じている楽しさを理解し、それを自覚すれば、視覚を加えた「5感」を使えるサッカーの楽しさが増すのではないか。つまりブラインドサッカーには、サッカーという競技の魅力をより広げる(忘れていた魅力に気づかせる)可能性があるんじゃないかと思うのだった。ブラインドサッカーはサッカーから多くを学ばなければいけないが、サッカーがブラインドサッカーから学ぶこともある。

 それ以外にも良いことがたくさん書かれている記事の最後は、「日の丸」への思いやその重みを背負う責任と誇りは共通だとした上で、こう結ばれている。


 今年12月、ブラインドサッカーのワールドカップにあたる来年の世界選手権出場を懸けた、アジア選手権が開催される。同じサッカー人として、同じ日本代表のひとりとして、彼らを真剣に応援したい。
 現役の日本代表選手からこの言葉を引き出しただけでも、本を書いた甲斐があるというものだ。私はきのうから、いきなり熱烈な長谷部誠ファンになっている。がんばれヴォルフスブルク。いやウォルフスブルク? それともヴォルフスブルグかウォルフスブルグかな。どれが主流なんですか。なんにしろ、CLは敗退したそうで残念。






平成二十一年十二月九日(水) 82.0 kg


そのゆとりを譲ってくれないか
BGM : First in Line / Maarja


ピンポ〜ン、ピンポ〜ン。
私「(玄関のドアを開けて)はい」
青年「あ、こちらはお仕事場でしたか」
私「何の御用ですか」
青年「あの、こちらで新聞を配っているので、暮れのご挨拶に」
私「なんで?」
青年「は?」
私「うちは新聞とってませんよ」
青年「いえ、このマンションで配ってまして……」
私「でも、この部屋には配ってないよね?」
青年「はい」
私「じゃあ、あなたに挨拶される筋合いはないと思うんだけど」
青年「な、なんでそんなに怒ってるんですか?」
私「はぁ !?」
青年「ボク、何か悪いことでもしたんですか?」
私「……(溜息)」
青年「……(涙目)」
私「いいから、こっちの質問に答えてよ。用件は何なの?」
青年「いや……新聞をとっていただけないかと」
私「それを先に言いなさいよ」
青年「うぅ……」
私「悪いけど、新聞は自宅のほうで間に合ってます」
ガチャーン。

 夕食時にこの話をしたら、妻子に「相手の気持ちはわかる」と言われてしまった。私はただ質問をしているだけのつもりなのだが、それがどうも怒っているように聞こえるらしい。「父さんの質問は怖いのよ」と愚妻に言われた。セガレなど、私が上記の会話を食卓で再現するのを聞きながら、「自分が怒られてるような気がした」とか。なるほど、たしかに私の態度にも問題はあるのかもしれない。

 だけどさ、いきなり訪問されたら機嫌が悪くても当然じゃないか。訪問販売するなら、相手がデフォルトで不機嫌なことぐらい織り込み済みで振る舞えよ。なんだよ「ボク何か悪いことでもしたんですか」って。おれはおまえの友達じゃないっつうんだよ。それとも、対等な立場で商談でもしてるつもりなのか? おまえの勝手な都合で玄関まで呼び出されるだけで、十分に迷惑なんだよ。「邪魔」が前提の仕事なんだから、もっと申し訳なさそうにしろ。それがキミの役目なんだよ、ゆとり君。揉み手と愛想笑いの練習でもしてから、おととい来ましょうね。あと、せめてナニ新聞なのかくらいは言ったほうがいいぞ。まあ、ナニ新聞だろうが、仕事場ではお断りだけど。

 けさ出勤したら、速達で楽譜が届いていた。テレマンのリコーダー協奏曲。来年5月に予定されているYBO(イエロー・バロック・オーケストラ)のコンサートで演奏する曲である。私は第1ヴァイオリンのパートを(ヴァイオリンの人と一緒にテナーで)吹くらしい。先日の忘年会ライブはおもにヴィオラのパートを(大バスで)吹いたのだが、それと比較すると圧倒的に音符の密度が濃い。ものすごく大変そう。「目じゃねぇよ!」とはとても言えない。これを本気で練習したら、たぶん、リコーダーの上手な人になってしまう。いまの私に、リコーダーの上手な人になってる暇なんかあるのだろうか。しかも、練習する以前に曲を聴いたことがない。今週土曜日にはもう合奏練習がある。まずはCDを買わねば。気忙しい師走。素粒子物理学の原稿は一体どうなるのだ。ゆとりを。もっとゆとりを。

 本日リニューアルされたnakata.net ― 中田英寿オフィシャルホームページに、拙稿が掲載されている。「日本のブラインドサッカーは今、飛躍の時を迎えている」という記事。私なりの「檄文」だと思っていただければよろしいかと。写真はキャプションがないようだが、すべて2007年10月の第2回アジア選手権で私が撮影したもの。上から順に、中国戦の加藤健人、韓国戦の落合啓士と佐々木康裕(相手はPK職人の14番)、イラン戦の田中(現姓は黒田)智成。





平成二十一年十二月八日(火) 82.2 kg


世界選手権予選、いよいよ大詰め
BGM : Wurdah Itah / Christian Vander



 ブラインドサッカーのコパ・アメリカ2009決勝戦は、ブラジルがアルゼンチンを2-0で下して優勝した模様。得点ランキングの推移を見ると、この2点はいずれもリカルドのゴールだと思われる。7試合で7得点は彼にしては控えめな数字だが、さすが世界最高のブラインドフットボーラー、やるときはやる。3決はパラグアイが2-0でコロンビアに勝利。なので世界選手権出場は前回同様、ブラジル、アルゼンチン、パラグアイの3ヵ国。ちなみに欧州はフランス、イングランド、スペインと、こちらも前回同様の3ヵ国。残る出場枠はアジアの2つだ!

 アジア選手権「スタジアム満員プロジェクト」の檄文が飛んできたので、ここに披露する。「転送歓迎」とのこと。飛ばして飛ばして飛ばしまくれ!


ブラインドサッカーアジア王者奪還のために
アミノバイタルを埋めよ!

サッカー独W杯最終予選、日本代表の北朝鮮戦を覚えているだろうか。本来であれば、溢れんばかりの歓声がこだまするスタジアム。だが、そこにその姿はなかった。「無観客試合」。がらんどうとなったスタジアムの静寂、響き渡る選手やベンチの声。だれもが感じたその違和感を思い起こしてほしい。

サッカーとはサポーターが歓声を上げ、自分たちの力でチームに勝利を与えるもの。そう信じて声を枯らし、拳を振り上げ、僕らは歌う。

では、サポーター諸君に問う。

ここにいる日本代表は、いま世界に挑もうと戦っている。戦地は真冬の日本。はじめての日本での公式戦。そのスタジアムをサポーターが埋めずしていいのか。我らの「声」なくして、選手たちはどうして勇気を奮い立たせるというのか。どうして勝利を得んとするのか。

いまこそ共に呼びかけよう。

サポーター諸君。
厳寒の12月、スタジアムを埋め、彼らに勝利を与えるのは我らのチカラだ!

アミノバイタルに集結し、我らが日本と共に戦おう!

http://www.b-soccer.jp
12月17日 対中国(11:00) / 18日 対マレーシア(13:00) / 19日 対イラン(11:00) 対韓国(13:00) / 20日 3位決定戦(10:30) 決勝戦(14:00)  at アミノバイタルフィールド(京王線飛田給駅下車)








平成二十一年十二月七日(月) 82.8 kg


ボールはトモダチだけど
BGM : Ian Anderson Plays the Orchestral Jethro Tull


 先日の「めざましテレビ」で良かったことのひとつは、3年前の世界選手権決勝の映像が流れたことである。あれを見て、「障害者スポーツ」に対する先入観が修正された視聴者も多かったのではなかろうか。あのスタンドの熱気を、私はアミノバイタルで再現したいのだ。ちなみにあれを現地で撮影したのは、取材仲間の北岡宏一さんである。番組ではそのクレジットが抜けていた。私が番組スタッフに紹介した手前、このままでは申し訳ないので、せめてここで明らかにしておく。

 きのうは13時から16時まで八王子で代表自主練の取材。私が「代表」っつったら、それはブラインドサッカー日本代表のことだぞ念のため。南アフリカの組み分けなんぞに大した興味はない。で、いま代表選手たちが苦労しているのは、アジア選手権大会使用球のスペインボールだ。これまで国際大会はおもにブラジルボール(日本選手たちが日常的に使用しているのは韓国ボールやベトナムボール)だったが、今回はスペイン製。重さや表面の質感がほかのボールと違い、ドリブルやターンがやりにくいそうだ。かなり軽いので、PKが浮いてしまう選手も何人かいた。そのうえ、品質がどうもよろしくない。ボールの鈴は皮の裏側4ヵ所に貼り付けてあるのだが、これがちょっとした衝撃でヘコんでしまうのである。そうでなくてもバランスが悪いようで、GKが投げたときなど、空中でラグビーボールかと思うような動き方をすることがある。つまり、ボールとしての基本ができていない。というか、ボールとしての自覚が足りない。アカンなぁ、スペイン。ボールがダメだと選手のパフォーマンスが落ちて競技の魅力自体を損ないかねないので、大会の審判団には、試合でのボール選定を慎重にやっていただきたいと思う。

 自主練終了後は荻窪の杉並公会堂へ。セガレのピアノ発表会。セガレは朝からサッカーを3試合もやり、最後はPK戦までこなしたという。1本止めて勝ったことより、突き指しなかったのが幸い。グラウンドから直行したため、私もセガレも手荷物は小汚いスポーツバッグ。天使のような格好の女の子たちが周囲をわさわさする中で、空気を汚してしまった。シャワーも浴びずにステージに出たセガレの演目は、バッハのイタリア協奏曲1楽章&3楽章。出来映えは、本人曰く「ズタボロだった」。わかっているならよろしい。左右の手が別々に大暴走するという、ある意味プログレッシブな演奏。テンポ速すぎなんだよ。スタート直後に頭抱えたよ。難曲にトライした意欲は買ってやるが、もっとちゃんと音楽やろうぜ。父さんもリコーダーがんばるから。

 某サッカー雑誌から、アジア選手権リポート記事の執筆依頼をいただいた。考えてみると、取材するのはいいが書く媒体が決まっていなかったので、なんとなく安心。というか、いままで一体どうするつもりで取材していたのか私は。そんなこんなで、きょうは吉祥寺のB&Dで膝下まであるベンチコートを購入。アミノバイタルはやたら冷えるからね。これで出陣態勢は万全。17日の開幕まで、あと10日である。

 





平成二十一年十二月五日(土) 82.6 kg


ライブはVTR出演より楽しい
BGM : Makin’music, Makin’love / 鈴木桃子



 昨夜は、もろもろの心労を抱えた状態で千駄木のカフェに行き、ある忘年会の余興ステージでイエロー・バロック・オーケストラの一員として数曲を演奏。パフォーマンスは、まあ実力どおり。朝の「めざましテレビ」のおかげで、こっちで緊張するような心の余裕を失っていたのがよかったのか、実力以下の大きなミスはなかったと思う。小さなミスは実力だからしょうがない。本番は実力を発揮するのが大事。9時に演奏が終わるやいなやバカスカと2時半くらいまで飲んじゃったので、けっこうな二日酔い状態。やっぱライブは楽しいな。

 テレビの影響力はやはり侮れず、放送終了の1時間後にはamazonの「サッカー本」ランキングで、『闇翼』が一時は2位まで急浮上。一瞬だけ、夢の「俊輔越え」を果たしたぜベイビー。

 木曜日に更新された闇翼コラム第8回は、後半に「ただし」という接続詞が頻出する悪文。ウェブ掲載原稿はゲラのチェックがないので、こういうことになる。恥ずかしい。ところで、第3回ブラインドサッカーアジア選手権の試合日程が大会公式サイトで発表された。17日の開幕戦で、いきなり日本対中国。相手がピッチやサイドフェンス(ボールの跳ね具合)や周辺の音響環境に不慣れなうちに、この優勝候補を叩いておきたいところ。観戦予定者は、早めに無料チケット引換券をゲットすべし。ソシオの会員は特別席での観戦が可能らしいですぜ。

 コパ・アメリカ2009のほうは、無事に(?)アルゼンチンとブラジルの決勝になった模様。準決勝のアルゼンチンはコロンビアと0-0で引き分け、PK戦で薄氷の決勝進出だ。そのコロンビアとパラグアイの3決は、世界選手権出場を懸けた死闘になる予感。コロンビアはまだ見たことがないので、どっちかというとコロンビアに頑張ってほしい。と、すでに来年8月のヘレフォードに行くつもりになっている私。





平成二十一年十二月三日(木) 82.2 kg


ブラジル連敗!
BGM : Flavours / Lyrico



 きのうの追加分で3日目までのことを書いたブラインドサッカーのコパ・アメリカ2009、4日目は地元アルゼンチンが1-0でブラジルに勝利。こちらの記事のスペイン語を(念力を振り絞って)無理やり読むかぎり、この試合で唯一のゴールを前半19分に決めたのは、どうやら主将のシルヴィオ・ヴェロのようだ。3年前の世界選手権決勝の再現である。連敗のブラジルはリーグ戦あと1試合を残して4位。もし5日目にブラジルがコロンビアに負け、すでに4位以上が確定したアルゼンチンがウルグアイに(わざと)0-25ぐらいで負けると、ブラジルの世界選手権不出場が決まるが、まあ、そういうことは起こらないとは思います。25点って、2分に1点だし。そのペースで枠にシュートするだけでも大変だよ。それに、どうせ4位以上は確実だから、ブラジルは3日目からレギュラー選手を温存してるのかもしれないという気もする。北京パラでも、リーグ戦の中国戦ではリカルドを途中で引っ込めていた。

 と、ここまで書いてアップしてから確認したら、もう5日目の結果も更新されていた。ブラジルとコロンビア、アルゼンチンとウルグアイは、どちらもスコアレスドロー。パラグアイは9-0でペルーを粉砕。リーグ戦の順位は、1位パラグアイ、2位アルゼンチン、3位コロンビア、4位ブラジル、5位ウルグアイ、6位ペルー。アルゼンチンは準決勝でブラジルと当たるのを避けたのかもしれないが、コロンビアも強そうなので安心はできない。2010年世界選手権のアメリカ大陸枠は今のところ「3」。3位決定戦でアルゼンチン対ブラジルなんてことになったら、これは大騒ぎだ。今からでもブエノスアイレスに飛びたい気分。





平成二十一年十二月二日(水) 82.4 kg


まだ5時前だが酔って候
BGM : Firecracker / Lisa Loeb



 ゴーストした本の打ち上げで、著者、編集者と昼間から永田町で飲んでしまった。四川飯店の紹興酒は絶品。はじめて紹興酒を美味いと思った。ほろ酔い以上泥酔未満の状態で永田町から駒場東大前へ移動し、キリカ姐さんに髪を切ってもらう。「酒臭い」と叱られた。どうもごめんなさい。まったく関係ないが、吹田市が「障害者」にかわる言葉を募集しているという。笑止千万である。言葉は歴史が育むもの。公募や多数決で決めるものではない。話はそれだけだ。

 酔いが覚めてきたので追加。28日から、ブラインドサッカーのアメリカ選手権(Copa America 2009)が開催されている。対戦日程と結果はこちら。3日目で波瀾が起きた。ブラジルが2-3でパラグアイに敗れたのである。2日目まで得点ランキング下位にいたヴィジャマヨールが5得点でリカルド(ブラジル)と並ぶ2位に浮上しているので、たぶん彼が大活躍したのであろう。3日目を終えて、コロンビアとアルゼンチンが勝ち点7、ブラジルとパラグアイが勝ち点6。6ヵ国の総当たりで、1位対4位、2位対3位の準決勝が行われるので、リーグ戦4位までに入れば優勝の可能性が残るわけだが、南米も戦国時代を迎えているのかもしれない。9試合でイエローカードは14枚も乱れ飛び、レッドカードも2枚出ている。熱いぜコパ・アメリカ。