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法務省の11月28日「難民不認定理由開示」記者会見に反論する
「奴らは金を持っている、だから難民ではない」
ゴシップ雑誌化した難民認定
 

 
 森山真弓法務大臣(77)は、11月26日にアフガン難民申請者9名を難民不認定処分としました。この処分は新聞、テレビなど多くのマスメディアで叩かれ、国会でも問題となりました。 
 これでは分が悪いと判断したのでしょうか、法務省は急遽、11月28日夜に寺脇一峰・入国管理局総務課長が記者会見し、9名を難民不認定処分とした理由を開示すると称して、9名一人一人の名前を挙げ、「なぜ不認定か」を逐一説明するという挙に出ました。 

最初に:難民とは何か? 

 法務省の説明内容などを紹介する前に、難民条約上「難民とは何か」を簡単に整理しましょう。 
 難民条約第二条(2)によると、難民とは、 

@人種・民族・宗教・特定の社会的集団の構成員であること・政治的意見を理由に 
A迫害を受けるという十分に理由のある恐怖を有するために 
B国籍国の外にいる者であって、 
Cその国の保護を受けることが出来ない者、またはそのような恐怖を有するために国籍国の保護を望まない者 

 となっています。これに照らし合わせれば、9名については、B国籍国の外にいること、またC国籍国の保護を望んでいないことも明らかですから、問題は、彼らがハザラ人であり(民族)、かつイスラーム教シーア派である(宗教)ということで迫害を受ける「十分に理由のある恐怖」を有するかどうかというところにあります。 
 この「十分に理由のある恐怖」の判断については、難民条約には明確な基準は示されていませんが、UNHCRのガイドラインや、各国の決定や判例等の積み重ねの中で、欧米などの先進国では、「申請者は迫害についての主観的恐怖を示すことに加え、その『客観的な証拠』を示す必要がある」ものの、これは、難民申請者が迫害の「合理的な可能性」を示すことで足りるという解釈が支配的になっています。ニカラグアからの難民申請者について争われた米国の「移民帰化局対カルドーザ・フォンセーカ」 裁判では、迫害の合理的な可能性が立証されれば、それが起こる可能性が10%であったとしても構わないという判決が出ています。 
 また、同じく米国の「トゥルシオス対移民帰化局」の裁判でも、裁判所は「全てのケースについて確実な証拠が必要であるという議論は拒絶されている」との見解を示しています。すなわち、難民申請者の置かれた状況の困難さを考えれば、自分が迫害されたことについて証拠をもって客観的に示すことは不可能であり、迫害に関する証言に説得力があれば難民として認定するという解釈が正統性をもって確立されているのです。 

法務省の「俗情との結託」 

 では、法務省が示した「難民不認定の理由」を見ていきましょう。以下は法務省の記者会見を伝える第一報です。 
 

2001年11月29日 毎日新聞 
  

難民不認定のアフガン人、「高額の入金、供述変転」−−法務省が理由

 法務省入国管理局は28日、記者会見し、アフガニスタン人9人を難民と認めないとの決定を出した理由を説明した。今回の入国(今年3〜8月)前に5人に3〜6回の来日歴があり、日本にある4人の口座には100万〜1億円の現金が数年にわたって振り込まれている点や、個々の供述の変転などから「難民との主張に信ぴょう性が認められない。ブローカーが関与した不法就労目的の来日と考えている」と述べた。 
 説明によると、「タリバンから迫害を受けた」といいながら、その後も数回、アフガニスタンに帰国していたり、迫害を受けたという時期が大きくずれたりするケースがあった。一人は「就労目的で日本に来た後、職探ししていた」と供述しており、別の一人は密入国したと本人がいう船舶が存在しなかったという。 
 また、4人の外国人登録の住所が一致していたが、いずれも居住していた形跡はなかった。1億円入金のケースは98年から今年にかけて300万〜400万円の現金が約40回にわたり振り込まれていた。入金が計2700万円や1200万円の人もいたという。 
 入国管理局は、難民不認定の理由などを公表したことについて「本人や弁護団が自らの立場を既にマスコミに公開しているため、法務省サイドの根拠も示すことにした」と話している。 
 これに対し、弁護団は「本国に戻ると迫害される恐れがあるかどうかが難民認定の要件で、入金の金額や来日回数は関係ない」と反論する。さらに(1)入金は日本での過去の商取引によるもので、難民申請は最近になって少数民族への迫害が強まっ 
たため(2)迫害経験を持つ難民の供述の変転は珍しくない(3)「就労目的」との供述は通訳との意思疎通ができずに誤った調書を取られたためで、その後担当官が削除している――と主張している。

  
2001年11月29日 読売新聞 
  
 
アフガン人難民不認定問題 法務省が異例会見、「彼らは難民ではない」

◆繰り返し入出国、銀行に入金1億円 

 アフガニスタン人の難民不認定問題で、法務省は二十八日、記者会見し、九人を難民と認めなかった理由を発表した。個別の難民申請者の不認定理由を当局が明らかにするのは極めて異例だ。 
 同省入国管理局の寺脇一峰総務課長は、難民と認めなかった理由について〈1〉迫害を受けたとする供述内容は、聴取を重ねるごとに不自然に変遷する〈2〉九人のうち五人は過去に三―六回、日本に入国しながら、今回まで一度も保護を求めたことはなかった〈3〉九人中四人の家族はパキスタン在住で、高い金を渡航ブローカーに払って、遠い日本まで来て、難民申請する必要性が乏しい――などと説明、全員が就労目的だったとした。また、九人のうち四人は日本で銀行口座を開設し、このうち一人は、約七百平方メートルの土地を借りて自動車部品販売業を営んでいることや、最近三年間で銀行口座に累計で約一億円の入金記録があることが確認された。別の三人も百万円から二千七百万円の入金記録があったという。 
 寺脇課長は「プライバシー保護のため、難民申請の有無も含めて公表しないできた。ところが、本人たちは公の場で難民であると主張し、訴訟も起こしているので説明が必要と判断した」としている。

  
 新聞記事によると、彼らの「難民不認定」について法務省が示した論点は、 

@9名のうち5名が、今回の入国前3〜6回来日していた。 
A9名のうち4名が日本に口座を持っており、累計で100万〜1億円の現金が振り込まれている。 
B個々の供述が変転している。 

 という点です。これを、最初の難民条約の定義と照らし合わせてみましょう。 
 まず@について。過去に来日したり帰国したりしていたことと、現在の時点でアフガニスタンに帰国した場合に「民族」「宗教」を理由に迫害を受ける「十分に理由のある恐怖」を持っていることとは、関係がありません。首都カーブルは1996年にターリバーンによって制圧されましたが、北部マザーリー・シャリーフは1998年まで陥落せず、ハザラジャート地方は1999年〜2001年までターリバーンの支配下にはありませんでした。また、パキスタンにおける迫害も、パキスタン国内でターリバーン勢力やその思想が逆に浸透していくまでは、必ずしも強くなかったと思われます。ターリバーンが全国を制圧し、ハザラ人がアフガニスタン全域において帰国が困難になったのはここ2年ほどのことなのです。 
 つぎにAについて。そもそも、彼らの口座にお金がいくら入金されていようが、難民認定とは何の関係もありません。難民条約に照らせば、難民の要件は、特定の理由をもって迫害を受ける十分に理由のある恐怖を有することなのであり、彼らがどのような仕事につき、どの程度のお金を操っていようが、それは難民の要件とは何ら関係がないのです。 
 ちなみに、彼らの一部が日本と中東地域の中古車販売業などに従事していたという事実はあるようです。当然、中古車を買い付けるためにはお金が必要ですので、必要な商取引のために現地の会社からお金が振り込まれるでしょう。 
 また、法務省と外務省は昨年から、国内で難民申請されるのを防ぐために、アフガニスタン人に渡航証明書を出すことを制限し、帰国できる保障がある人にしか渡航証明書を出さないという方針をとっていました。日本に銀行口座があり、それなりのお金があることを示して、帰国できる保障を示さなければ入国できないわけです。合法的に入国しようとすれば、そのような保障を示すしかありません。 
 難民制度は、そもそもロシア革命から逃れてきたブルジョア階級を西欧諸国が救うことをきっかけに発達した制度です。第二次世界大戦中には、スターリンのソ連や、ナチスドイツなどの迫害を逃れてきたユダヤ人を救うために、米国などがさらにこの制度を発達させました。難民制度の起こりから考えれば、「難民」イコール「もともと貧しい人」といったイメージは、極めて一方的な、ステレオタイプなものであることが分かります。グローバリズム国家にとって難民制度は、迫害を受けた人々を保護することによって、逆に彼らの人的・能力的資源を活用し、その地域における影響力も増大させようという「ギブ・アンド・テイク」の意味を強く持っているのです。「金持ちだから難民ではない」などというのは、難民制度の沿革や趣旨からしても誤っています。 
 法務省の記者会見について取り上げた新聞の多くは、「難民申請者の口座に一億円」という見出しを掲げていました。法務省は、よほどこの点を強調したのでしょう。もちろん、法務省は難民条約の条文や難民制度の趣旨などについてはよく分かっています。にもかかわらず、お金の点を強調したのは、法務省が「アフガニスタンから命からがら逃れてきたかわいそうな難民」という世論に対して、「難民なんて言っているが、実は金持ちなんだ」ということを示すことが、世論対策として有効だと考えたからに他なりません。これはゴシップ雑誌、ワイドショーの発想であり、俗情への結託といわれても仕方ありません。まあ、世界第二の経済力を生かしてグローバリズム国家に脱皮することができず、没落しつつあるレイシスト国家・日本の法務官僚の発想としては、身の丈にあっていると言えましょうか。 

「供述変転」の理由 

 そもそもこの法務省の発表は、職務上知り得た秘密を公表してはならないという国家公務員法100条に違反しているものです。さらに、難民調査では銀行口座の額などわかるわけがなく、公安情報や退去強制手続に係わる情報を難民調査に転用するという、不適切きわまりないことが、法務省の難民認定において行われていることを図らずも露呈してしまいました。 
 当事者と弁護団も、手をこまねいてはいません。さっそく、記者会見などによって法務省の主張を覆えそうという努力が始まりました。 
  
2001年12月1日 毎日新聞 

 
アフガン人難民不認定 法務省の理由公表に抗議−−弁護団
  
 法務省入国管理局がアフガニスタン人9人を難民と認めなかった理由を公表したことについて、9人の弁護団が30日、記者会見し、「本人に伝えていない不認定理由を公表したのは守秘義務違反。説明して反論の機会を与えるべきなのに、了承もなくかなりのプライバシーを公開したことは極めて問題」と批判した。 
 入管が「本人名義の銀行口座に累計1億円の入金がある人がいる」と述べたことに対し、弁護団は「過去来日した際に勤めていた会社が、日本での買いつけ代金を入金していたもので、本人の利益ではない。本人名義の口座がなければ日本大使館が渡航証明書を出さないため、本人の名義となっている」と説明した。
  
2001年12月5日 共同通信 
  
「特集」アフガン人の難民不認定  問われる日本の足元支援  強制収容で自殺未遂も 

 タリバン政権による迫害などを理由にアフガニスタン人男性九人が日本の難民認定を求めている問題で、申請を退けられた九人の強制送還手続きが一部始まった。母国での拷問などの影響に加え、日本で強制収容されたショックで自殺を図った男性も。テロ対策特別措置法で被災民救援を柱に掲げた日本政府の“足元”の対応が問われている。 
 「どこにも行く所がない。戻れば殺される」。十一月末、東京入国管理局で難民不認定の通知を受け取ったモハマド・ダウドさん(27)は肩を落とした。 
 妹はタリバンに殺害され、英国やドイツに逃げた親せきは難民と認められたという。「認めないなら、なぜ日本は難民条約を批准したのか」 
 九人は少数民族のハザラ人とタジク人。三―八月に来日し、十月に不法入国などの疑いで収容された。その後、東京地裁民事三部が審理したダウドさんら五人は収容停止が認められたが、民事二部が担当した四人は却下された。 
 十一月十四日、入管施設で四人のうちの一人が自殺を図った。大量の錠剤をのみ、せっけんを食べた。 
 駆けつけた弁護士に男性は「迫害の事実を何度伝えても入管職員は『だれも信用しないよ』と笑う。人間として扱われないなら死ぬしかない」と話した。 
 ダウドさんらを診察した精神科医はATSD(急性心的外傷性ストレス障害)と診断。「救いを求めた日本で自由を束縛されたのが原因」としている。 
 入管は収容中の四人について退去強制令書を発布、茨城県の施設に移送した。アフガニスタンに直ちに送還するのは困難な状況だが、ほかの五人も再び収容される可能性がある。 
 難民不認定の理由として法務省は十一月二十八日夜、異例の会見を開き@九人のうち五人に来日歴があるA一人の口座に三年間で計約一億円が入金され、多額で不自然B迫害の供述内容が変遷した―などを挙げ「不法就労目的の来日」と説明した。 
 弁護団の大貫憲介事務局長は「法務省が勝手にプライバシーを公表したことに憤りを感じる。入金の大半は自動車部品の輸送料などの経費で、本人分は一割もない。ひどい迫害を受けた人ほど核心の供述を避けるのは難民審査上の常識」と反論する。 
 法務省は「難民に当たらないのは明白」と自信を見せるが、難民問題に詳しい本間浩・駿河台大教授は「難民条約上の難民に当たらないとしても、アフガン情勢を考慮してインドシナ難民に適用したような特別の受け入れ体制をつくるべきだ」と提言している。

  

2001年12月6日 毎日新聞夕刊 
  
 

[特集ワイド1]9人のアフガン人…「難民」とは? Aさんは訴える
◇9人のアフガニスタン人が巻き起こした 

 「難民」とはどんな人のことなのだろう。9人のアフガニスタン人がいま、日本で議論を巻き起こしている。難民認定申請中に不法入国・残留容疑で東京入国管理局に収容され、法務省は「就労目的の不法入国者で、迫害の供述に信ぴょう性がない」と、難民とは認めない決定を出した。彼らは「難民」なのか、そうではないのか。そのうちの1人、Aさんの訴えを聞いた。【磯崎由美】 

◇少数民族として迫害 

 私は少数民族、ハザラ人の多い町ダレートルクマン(カブール北部)に生まれました。92年にナジブラ政権が崩壊して内戦が激化し、マザリシャリフに逃げました。兵士からの寄付の強要を断った父は1週間拘束され、金を出して釈放されました。 
 96年にカブールを制圧したタリバン(スンニ派)は、シーア派のハザラ人の虐殺を強め、特に若い男を殺しました。父は「お前が殺されるのを見たくない」と言い、私は父の友人を頼り、アラブ首長国連邦(UAE)の会社に勤めました。ここでは日本に滞在して自動車の部品を購入し、UAEに戻ってそれを売る仕事をしました。しかし、経営不振で今春、解雇されました。 
 今年3月、やむなく家族の住むカブールに戻りましたが、多くのハザラ人がハザラ人というだけで逮捕されたり、殺されたりしていました。海外に逃げなければと思い、旅券の更新に役所に行くと、警察署で住民票を取るよう言われました。しかし、警察で4人のタリバンに「ハザラ人はイスラム教徒ではない」と言われ、素手や銃などで殴られました。血のついた毛布があるコンテナの中に放り込まれ、革ベルトなどで毎日殴られました。タリバンは「ハザラ人を殺すのは善行だ」と言っていました。父が8000ドルを払い、20日後に解放されましたが、あと10日いたら死んでいたかもしれません。 

◇人々が優しかった日本へ 

 私は家族にも会えぬまま、痛む体でペシャワルに逃れました。パキスタンでもハザラ人は警官から暴行を受けて金を取られており、私も5、6回金を取られました。平和で人々が優しかった日本に逃げようと思い、知人の紹介でブローカーに金を払い、韓国まで飛行機で行き、船で日本に着きました。 
 かつてはマスード派(北部同盟)もハザラ人を虐殺しました。タリバン政権が崩壊しても、長年の戦争でできた憎しみは容易に消えません。せめてアフガニスタンが安全になるまでの間、ここで在留資格を下さい。今あの国に帰れないことは、みんなテレビを見ていれば、分かることではないでしょうか。 

◇法務省と対立 

 法務省入国管理局は「タリバンが反タリバンを攻撃対象としている事実は確認できるが、一般のシーア派イスラム教徒やハザラ人を迫害の対象としていることは認められない」と主張。Aさんの不認定理由について(1)タリバンがカブールを制圧した後も数回帰国しているが、迫害を受けていない(2)家族はアフガニスタンに住んでいる(3)金を払って拘束を解いてもらっており、難民条約の「人種や宗教を理由にした迫害」にはあたらない(4)今回の入国後も日本で商売している――と発表した。 
 これに対し、Aさんは(1)タリバンのカブール制圧後、今春までアフガンに帰国したことは一度もなく、そんな供述をした覚えはない(2)父とは空爆前に一度電話で話したが、今はどこにいるかも不明(3)拘束されても保釈金が払えない人は殺されている(4)日本は難民申請者への生活支援がなく、仕事もせず生きていくことはできない――と反論し、真っ向から対立している。 

◇口座所持で疑い 

 9人はいずれもアフガン少数民族で、今年3〜8月に不法入国(1人は超過滞在)し、難民認定を申請した。10月3日に東京入管が収容したが、Aさんを含む5人は東京地裁から収容の執行停止が認められ、拘束を解かれた。 
 法務省は「9人中4人が日本の銀行口座を持ち、累計100万〜1億円の入金がある」と説明した。1億円入金について弁護団は「本人が以前勤めていた会社が、日本での物資の買い付け代金として送金していたことが確認された。本人の資産でも疑惑を持たれるような金でもない」と主張。法務省の木島正芳難民認定室長は「金額の不法性をにおわせたのではなく、命からがら逃げてきたという割には高額と言っただけ。正当な金であったとしても、マイナス材料にこそなれ、難民性を高める理由にはならない」と話している。 

◇認定作業に障壁 

 国際難民法の講義を行っている新垣修・志学館大助教授に話を聞いた。新垣さんは国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)豪州・ニュージーランド・オセアニア地域事務所の元法務官補で、難民認定の実務経験があり、今回弁護団の依頼でAさんを2日がかりで調査し、「難民である」と結論づけた。 

      ◇ 

 条約が定める難民とは「人種、宗教、国籍などで迫害の恐れがある人」で、「就労目的だから難民でない」という結論にはならない。人間にはさまざまな欲求があり、迫害への恐怖とより良い生活を求める思いが同居していることは少なくない。経済的に豊かな人ほど迫害を受ける場合もある。 
 認定作業には▽難民が迫害を示す物的証拠をそろえることができない▽迫害のトラウマで記憶を言語化できないことがある▽言語や習慣の違い――など、難民特有の障壁も多い。供述の矛盾や変遷は珍しくない。認定者が行うことは、その場ですべて本人に示し、反論の機会を与え、矛盾や変遷の原因を突きとめることだ。難民はうそをつかざるを得ない環境に置かれることもある。重要なのは、供述が変わる理由をきちんと説明できるかどうかだ。 
 今回、欧米諸国が採用している準司法的手続きでAさんに面接した。入管で仕事をしている通訳にも依頼したが、何度も主語を間違えたり、Aさんが言っていないことを勝手に想像して発言したりすることもあり、その場で指摘した。供述には一見、矛盾を感じる点もあったが、本人に指摘した結果、すべて合理性があり、供述の中核部分は真実と判断した。 
 近年、タリバン及びパシュトゥン人のハザラ人への迫害が顕著になっていることは客観的な事実。例えば10人に1人ずつ撃たれたとして、残る9人に迫害の恐怖がないかというと、そうではない。「迫害の恐れ」は「ごくわずかな見込みしかない」という場合以外は認められるという解釈が、英米やカナダ、豪州では受け入れられている。また、迫害状況などの客観的な事実を重視するのが国際的な流れだが、入管は今回、そうした情報をどの程度活用したのか不明だ。 
 難民問題とは国境を超えたその国の人権感覚が試される、最先端の人権問題。誤った判断で送還すれば生命や自由を侵されるので、カナダやオセアニア諸国のように「疑わしきは申立人の利益に」という姿勢が必要だ。 

◆拘束を解かれた残る4人の不認定理由と主張 

◇Bさん 

・入管 妹の殺害された時期が5月から2月に変遷。98年に拘束された後にも来日したが、その時は難民申請していない 

・本人 妹の殺害時期は言い間違え、その場で通訳に訂正を求めた。98年の時はまだアフガンが平和になるかもと思った 

◇Cさん 

・入管 「ハザラ人というだけで迫害は受けない」「経済的に豊かなのでパキスタンから日本に来た」と就労目的と認めている 

・本人 通訳の誤解。パキスタンでもハザラ人は迫害を受けていることは話したはず 

◇Dさん 

・入管 カラチから横浜に船で来たというが、該当する船がない。親族でタリバンに捕まったのは父だけで本人は迫害されてない 

・本人 船はタイで乗り換えたが詳細を聞かれなかったので言い忘れた。迫害されないというなら入管に一緒に帰国してほしい 

◇Eさん 

・入管 医師というが証拠なし。正規入国なのに不法入国とうそをついており、迫害の供述も「命を狙われている」だけで抽象的 

・本人 不法入国の方が難民認定されやすいと当初うそをついたことは謝った。タリバンの拷問を受けたことは話したはず

※本ホームページ作成者の判断で、人名は仮名としました。 
  
  
2001年12月7日毎日新聞(夕刊) 
   
 
「通訳問題多く、発表は間違い」 難民不認定のアフガン人訴え−−東京都内で
  
 不法入国・残留の疑いで収容され、難民と認められなかったアフガニスタン人5人が6日、東京都内で記者会見し、法務省入国管理局が発表した不認定理由について「事情聴取の通訳に問題が多く、事実と違うことが発表された」と訴えた。 

 5人はいずれもダリ語を話す。aさんは「『言いたいことが伝わっていないので通訳を変えてほしい』と訴えたのに聞き入れられず、調書を取られた」と話した。弁護団は「タリバンのカブール制圧後、数回帰国したと発表された人は1度しか帰国していない。聴取の際、本人が訂正を求めて修正したのに、訂正前の誤った内容を発表された人もいる」と述べた。 
 日本にある口座に多額の累積入金があった人がいるとの発表に対し、bさんは「他の在日外国人から『金持ちなのになぜ難民申請したのか』と中傷され、とても悲しい。正当な会社の金で、そもそも迫害の恐れと関係もない」と抗議した。 
 法務省入国管理局は「ちゃんとダリ語の分かる通訳をつけている。発表したことに間違いはない」と話している 
 

※本ホームページ作成者の判断で、人名は仮名としました。 

 法務省の主張の中で、難民条約上問題になるのは、「個々の供述が変転しており、信用性がない」という部分だけです。 
 ここについては、通訳の問題が大きく出てきています。法務省は、ダリ語はペルシア語の方言であるとの立場から、イラン人の通訳を使うことがあるようですが、微妙なニュアンスなどが聞き分けられず、そこに問題が生じているようです。 
 また、難民調査官や、退去強制手続に係わる入国審査官、特別審理官がアフガニスタンの事情に通じておらず、検討ちがいな質問しかしない、また、難民として受け入れなければならないような証言が出てくると困るので、迫害の事情などについてきちんと聞きとりをしていないという、インタビューをする側の問題も大きいようです。その結果として、供述がちぐはぐになってしまうということは十分ありうることです。 
 さらに、民主党の江田五月議員による11月27日の参議院法務委員会の質問に対して、森山大臣が「アフガニスタンの情勢がどうかということももちろん全く関係ないわけではございませんが、それよりはそれぞれ本人の状況でございます 」とこたえているように、法務省はアフガニスタンのターリバーン政権の弾圧の状況についてほとんど調べていません。新聞報道によれば、法務省は「タリバンが反タリバンを攻撃対象としている事実は確認できるが、一般のシーア派イスラム教徒やハザラ人を迫害の対象としていることは認められない」などと言っているそうですが、寝言もいい加減にしてほしいと思います。ターリバーンがシーア派やハザラ人に集中的に攻撃を加えていることは、専門書を紐とかずとも、ベストセラーともなった「タリバン:イスラム原理主義の戦士たち」(アハメド・ラシッド著、講談社)にもはっきりと書かれています。 
 法務省が公表した「難民不認定」の理由は、公表の仕方が違法である点において、また、難民条約という国際的基準ではなく、「奴らは金持ちだ、だから難民ではない」と排外主義的な俗情をあおり立てる意志が顕著に認められる点において、そもそも出発点からまちがっています。さらに、肝心の「不認定」のなかみは、「供述の変遷」などといったことにつきるわけですが、これも法務省の側のインタビューの仕方の問題に起因するものであると考えられます。こうした点からも、法務省が彼ら9名の不認定に対する異議の申し出に対して、形式的ではなく実質的にきちんとした審査を行うこと、収容されている4名についても直ちに仮放免し、証拠収集など、彼らが難民であることを立証するための活動にきちんと従事できるようにすることが極めて重要です。

 
 



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