UNDERGROUND RESIDENTS
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DRUG QUEEN ALICE - ACID SOUND and ALICE
 ホワイト・ラビットを追いかけて
 60年代サイケデリック・ブーム発祥の地サンフランシスコで、ジェファーソン・エアプレインは誕生した。結成は65年、メンバーであるマーティ・ベイリンがオープンさせたライヴハウス「マトリックス」を拠点に活動を開始。翌66年、アルバム『テイクス・オフ』でメジャー・デビューを飾る。67年にはセカンド・アルバム『シュールリアリスティック・ピロー』を発売し、その中からシングルカットされた「あなただけを」「ホワイト・ラビット」は大ヒット。サイケ・バンドのスターとなる。その後、メンバー・チェンジやバンド名を変更しつつも、人気は不動のものとなった。
 JEFFERSON AIRPLANE「WHITE RABBIT」
 アルバム『Surrealistic Pillow』/1967年/ 作詞・作曲・ヴォーカル Grace Slick
『Surrealistic Pillow』
 ジェファーソンのセカンド・アルバム『シュールリアリスティック・ピロー』のB面5曲目(CDでは10曲目)の「ホワイト・ラビット」は、アリスとドラッグが結びついている曲としてはナンバーワンだろう。作詞・作曲・ボーカルのグレース・スリックは、このアルバムから参加したメンバー唯一の女性。ヴォーカル以外にも、ピアノ、オルガンも担当している。
 この「ホワイト・ラビット」には、曲名を始め、曲中にも『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』の住人が登場する。白うさぎ、アリス、イモムシ、白の騎士、赤の女王。ドラッグ体験を元にして作られたとも言われるこの曲の持つ、アリスの世界は妖艶だ。

  One Pill makes you larger       ひとつの錠剤はあなたを大きくし
  And one pill makes you small     そしてもうひとつの錠剤はあなたを小さくする

 歌はこんな詩で始まる。錠剤とはLSDのことだろう。アリスが瓶の液体を飲み、ケーキを食べてカラダが伸縮したように。そして「Go ask Alice when she's ten feet tall (アリスが10フィートになったときに聞いてみなさい)」と。歌にはLSDだけでなく、マジック・マッシュルームも登場する。

  And you'll just have some kind of mashroom    あなたはある種のマッシュルームを手に入れて
  And your mind is moving along          あなたの心も揺れ動く

 アリスはイモムシに「あんたは誰だね」と聞かれ答える。今朝から何度も変わる身長に、自分が誰だかわからなくなってしまった、と。マッシュルームを手に入れたアリスの身長はまた縮んだり伸びたり。にょろにょろと伸びたろくろ首アリスは鳩に卵を盗む蛇だと間違えられ、人間の女の子だといっても信じてもらえない。めまぐるしく変わる自分の変化にアリスはなにがなんだかもうワケがわからなくなってしまう。狂った常識は狂った世界を生んだ。

  When logic and proportions have fallen soggy dead     論理や均衡がふやけ落ちて死んだら
  And the white knight is talking backwards        白の騎士は逆さまに話し
  And the red queen's off her head             赤の女王は首をちょんぎる

 だから最後は、「Keep your Head (冷静でいて)」。
 このラストの歌詞は、「ドラッグなんぞやらずに冷静に世の中を見て」ではなく「この狂った世界をドラッグによる新しい世界観で見て」と歌っているようにわたしには聞こえる。幻覚状態を歌っているが、When logic and proportions〜 以下の歌詞は彼女たちの生きている現在の世の中を歌っているのでは? とか思ったんだけどどうなんでしょう。アリスの世界は幻覚でもあり、現実でもある。現実を鏡に映してみれば、狂った真実が見えた――、とな。ジェファーソンはこのアルバムしか知らないし、もしかして間違った解釈してるかも、だけど。
『THROUGH THE LOOKING GLASS』
 JEFFERSON AIRPLANE『THROUGH THE LOOKING GLASS』
「ホワイト・ラビット」は、こんな輸入盤CDにも収録されていましたー。13曲収録の12曲目。タイトルが『鏡の国』ならジャケットは『不思議の国』。テニエル挿絵の裁判でのシーンのアリスと赤の女王が。左下のラッパを吹いているうさぎとイモムシの挿絵は誰かな。CDの面に涙の池のシーンで走り去っていく白うさぎの後ろ姿が。このCD、ALMAFAME ALMACD5という盤ですが、これっていつ頃発売されたものなの? ご存じの方、教えてくださ〜い!
 アリスとジェファーソンの映画を巡る奇妙な関係
 『MATRIX』/『FEAR AND LOATHING IN LAS VEGAS』
 先に述べたジェファーソンの活動拠点であったライヴハウス「マトリックス」。2002年現在、この名称を聞いて思い浮かぶのは、一昨年日本でも大ヒットしたウォシャウスキー兄弟監督の映画『マトリックス』(1999/アメリカ)だ。なにしろこの映画ったら「アリス」ネタが満載。どう「アリス」ネタなのかはアリス映像関連のページ中『MATRIX』で紹介しているが、この映画の中でキアヌ・リーヴス演じる主人公ネオは、不思議の国(それは真実の世界)へ導く“覚醒”の赤いカプセルと、今の世界にとどまる“忘却”の青いカプセルの選択を迫られる。このシーンでまた、「One pill makes you larger / And one pill makes you small」と歌ったジェファーソンが思い浮かぶではないか! ってことで、まずはマトリックスつながり。
『FEAR AND LOATHING IN LAS VEGAS』  ジェファーソンの曲を使った映画はいくつかあるけれど、中でも気になるのはテリー・ギリアム監督のアシッド・ラリラリ・ムーヴィー『ラスベガスをやっつけろ』(1998/アメリカ)だ。クラブ「マトリックス」でのジェファーソンのライヴ・シーンもあり、もちろん「ホワイト・ラビット」も。その「ホワイト・ラビット」を聴くシーンでは、ラジカセをバスタブに突っ込んでくれと願うドクター・ゴンゾーにかわって、電流はわたしのカラダの中を突き抜けていった。サイコー!
 原作はハンター・S・トンプソン『ラスベガス★71』(山形浩生氏翻訳)。ちなみに山形氏はふたつの「アリス」物語も訳してます。で、ギリアムとくればやはりここで持ち出したいのは彼の監督作『ジャバーウォッキー』(1977/イギリス)。そもそもノンセンス集団モンティ・パイソンの一員であるギリアム、キャロルのノンセンスに飛びつかないわけがない。ハイ、ギリアムつながり。
 故意か偶然か、いやいやこじつけなんだけど、アリスとジェファーソンを接点に根っこのごとくにゅるにゅると這ったり絡まったりの関係が見えてくる。これををあーだこーだと探るのはとても楽しい。いまのところ『マトリックス』と『ラスベガスをやっつけろ』の2作品だけど、まだまだ探せばありそーな予感。
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