1990年代からブルックリン (Brooklyn, NY, USA) の jazz/imrpov シーンで活動する drums / percussion 奏者 John Hollenbeck が、 オーストリー・シュタイヤマルク州グラーツ (Graz, Steiermark, Austria) の jazz big band と共演したアルバムだ。 曲は全て Hollenbeck によるもので、自身も drums で参加している。
Hollenbeck といえば、The Claudia Quintet (レビュー) での IDM (intelligent dance music) 以降ならではのビート感覚だが、 このアルバムでもそれが堪能できる。 そのビートと jazz big band が巧く融合しているのがその魅力だ。 それが良くあらわれているのは、 The Claudia Quintet でも演奏している "Just Like Him" だろう。 Hollenbeck と Sieverts による Squarepusher を思わせるようなリズムに、 管楽器の音が重層的に重ねられていく。 細かいビート、速いパッセージ、通奏されるかののようなフレーズなどが重なり合い、 drum'n'bass の持っていた多層的なビート感が巧みに翻訳された brass band 的な音として再構築されている。 リズム隊は控えめに、管楽器の反覆フレーズを沸き上がる泡のように重ね、 緩いビート感を作り出す "The Bird With The Coppery, Kean Claws" も良い。
3〜5曲目にあたる "Joys & Desire" 組曲では jazz 的なニュアンスも強くなるが、 free jazz 的な #1 に続く#2 では、 Hollenbeck の drums の管楽器の短いパッセージの反覆が作り出す breakbeats 的なギクシャクしたビートに、 そのビートに mode jazz 的な tenor sax や piano が被ってきて、 そのリズム感のまま jazz big band 的になっていくところがスリリングだ。
Meredith Monk の vocal ensemble や Ben Monder との共演でも知られる Theo Bleckmann の voice と electric effect も効果的だ。 オープニングの "The Bird With The Coppery, Kean Claws" の 沸き上がる管楽器の間に挿入される少しオフな加工された声での朗読が 曲をぐっと引き締まらせて、聴き手をぐっと引き込んでくる。 "The Garden Of Love (Joys & Desire #3)" では歌い上げて盛りあげ、 最後は機械合成のように単調な詠唱で締めくくる。 この声のおかげで、アルバム全体として劇的というか映画的とすら感じられる。
IDM的なリズム感と、重層的な管楽器の作り出すテクスチャも気持ち良い、 contemporary jazz big band の秀作だろう。お薦めだ。
Hollenbeck は Joys & Desire の1年程前にも jazz big band による作品を録音している。 こちらは The Claudia Quintet でも一緒に演っている Chris Speed や Matt Moran をはじめ ニューヨーク勢を中心とした編成だ。Bleckmann ももちろん参加している。
こちらは、jazz 的な管楽器や piano のフレーズ、リズムが多めだ。 "April In Reggae" という曲もやっているが、reggae 的というほどのリズムではない。 反覆する管楽器のフレーズや Bleckmann のソフトな歌声が 多層的に重ねられていくような展開も使われるが Joys & Desire のような IDM的なビート感を強調するようなことは無い。 minimal music のように、テクスチャ感を作り出していくという感じだ。 Blackmann の声も Joys & Desire のような劇的な使い方はされていない。
ソフトなテクスチャながら淡々とした所がよい jazz big band だとはと思うが、 Joys & Desire と比べとっつき辛いように思う。 Joys & Desire から聴くことをお薦めしたい。