Rabih Abou-Khalil はレバノンのベイルート (Beirut, Lebanon) 出身の oud 奏者だ。 内戦により1978年にレバノンを離れヨーロッパに拠点を移し、主に jazz/improv の文脈での活動している。 この新作はリーダー作としては18作目 (うち再発を含め15作が ENJA (MW) からリリースされている) にあたる。
前作 Journey To The Contre Of An Egg (ENJA(MW), ENJ-9479 2, 2005, CD) や 前々作 Morton's Foot (ENJA(MW), ENJ-9462 2, 2003, CD) は、 欧州 jazz/improv のミュージシャンとの共演でその色も濃かった (レビュー)。 しかし、新作はアルメニア (Armenia) の duduk (アルメニアの伝統的 double-reed 木管楽器) 奏者との共演で、 ぐっと folk/roots 色濃い作品に仕上っている。 duduk の響きもゆったりとした雰囲気を楽しめる佳作だ。
共演したのは、アルメニアのエレヴァン (Yerevan, AM) 出身で、 Miniatures: Masterworks For Armenian Duduk (Traditional Crossroads, CD4312, 2002, CD) というリリースもある Gevorg Dabaghyan だ。 Abou-Khalil と Debaghyan に加え、 Abou-Khalil と長年共演してきたフランス (France) 出身の Godard が serpent (tuba のルーツともされる管楽器) でベースラインを吹き、 最近の Abou-Khalil のグループのレギュラーとも言える アメリカ (USA) 出身の drums/percussion 奏者 Gargwin が 主に frame drums を使い硬質な音でリズムを刻む、そんな4tet編成だ。
duduk の少々くぐもった音色が愁いを感じるようなフレーズを響かせる、 ゆったりした展開の曲が多い。 特に duduk のフレーズが堪能できるのはオープニングの "Mourir Pour Ton Décolleté" だろう。 "Para I Teu Bumbum" での Godard の serpent のソロも聴きどころだ。 確かにこれらのゆったりした雰囲気も良いのだが、 Abou-Kalil の明るく強い oud の音も生きた 4tet としての演奏なら、 "Best If You Dressed Less" の後半約3分、 そして、最もアップテンポな "Le Train Bleu" の方が良い。 こういう4人の演奏がスリリングに絡み合う展開も、もっと聴いてみたかった。 それが聴いていて物足りなく感じる点だ。